この男、逆張りである
@sink2525
第1話 陰口vs俺
夏を知らせているかのように鳴き続ける蝉の声は学校までも包み込んだ。
廊下を照らす日光。窓から見える木々。夏風によって揺れる葉。
夏が始まる合図が鳴りかけていた。
舞台中央かのように光を寄せ集めている廊下を金城英は歩いていた。
最近彼女の様子がおかしい。いきなり何を言っているんだと思われるかもしれないが本当に彼女の様子が変なのだ。
最近は一緒に帰ることもなくなりつつある。ましてや、話すことでさえも。
気持ちの変化なのだろうか。俺は変わらず好きだ。ただ夏帆がずっと好きだという保証はない。もしかしたら、もう好きじゃなくなってるかもしれない。
分からない。俺たちの関係性はいったいなんなんだ。
ふとした時、興味がある考えが浮かぶように英もまた考えを続けていた。
いったいどうしてこうなったのか。何故こんなことになってしまったのか。
英にとっての初めての彼女は何よりも大切な存在であった。隣にいることが当たり前となっていた。この変わり果てた現実から目を背けることしかできないでいた。
不意に声が聞こえてくる。半音明るく嘲笑っているかのような声と笑い声。
夏帆!? 驚きと同時に足を止める。バレないように教室の前に座り込む。
多少の隙間のせいか声は程よく聞こえている。なんの話をしているんだ?
「だからぁー! もう3ヶ月付き合ったんだから別れるよ! もう面白くないしさ」
聞き馴染みのある声が耳を突く。どんなに拒んでも離しても、脳にこびり付いてしまう。
夏帆なのか...
久しく聞く声は思ったより変わってはいなかった。馴染みあるトーン。
ああ、いつもとは変わらないんだ。
ショックより先に安堵が勝ってしまう。安堵が...いや本当にそうなのだろうか。
「それにさ、あいつのこと好きじゃないのに」
「まじでぇ〜!? なのに付き合うとかマジでやばすぎでしょ!」
「だってー! 3ヶ月付き合ったら夏美からお金貰えるだもん」
「うわぁ〜。人の心よりお金を優先するとか悪党じゃん」
「はいはい。私は悪党ですよ!」
節々に感じられる高校生感。幼稚とも言える言動。人の気持ちを踏み躙る行動。
心に傷を残しかねない遊び。
そういった色んな危険があるなか英はゆっくりと腰を上げた。
一歩一歩前に踏み入れていく。泣きじゃくることもなく、まっすぐな瞳に表情。
傷つくことに慣れてしまったのだろうか。怒ることに疲れてしまったのだろうか。泣く力も叫ぶ力も無くなってしまったのだろうか。
英はそっと扉に手を置いた。優しく開けては中を見渡す。奥側の席に集まっている女子グループ。
女子グループが英を見つめた。
「夏帆……好きだ」
そう、彼は普通とは違う復讐をする物語である。
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