36話 生きていたお父様
「私こそ、お父様の事を誤解していてすいませんでした。お父様は本当はお優しい人だったんですね」
「優しくないかないさ。でもルルにそんな風に言ってもらえてお父様は喜しい」
「旦那様!
ちゃんと足はついてるな?幽霊なんかじゃないよな」
私とドドは涙で顔をグシャグシャにする。
「おい。ドド。
相変わらず敬語がなってないな。
でも大好きだ」
お父様はそう言って、私達を大きく両手を開いて抱きしめた。
「あんまり遅いと、待っているドアーフ達が心配するわ。
ドド。先に帰って、私達の無事を知らせて欲しいの。
貴方を見たら皆、きっと大喜びよ。
ルドなんかは喜しすぎて、気絶するかもね」
しばらく三人でヒシッと抱き合っていたけれど、私はニ人から身体を離した。
「お嬢は帰らないのか?」
「ええ。私はまだやらないといけない事があるの。
それが全部かたずいたら、お父様とドドの帰還を祝った食事会を開くつもりよ。
思いっきり盛大にね。
だから楽しみにしていてちょうだい。
さあ。ドド。私の正面に立つのよ。
風魔法で一気に皆の所へ帰してあげるから」
「わかったよ。けど途中で落ちるなんて事はないだろうな」
「大丈夫。私を信じて」
私はフフフと笑うと、ドドの方へ人差し指を上下にふりながら呪文を口にする。
「風よ。ドドを家に帰してちょうだい」
とたんにドドは突然現れた突風にまきこまれて、姿を消した。
「次はお父様の番よ。
かなりお疲れのようだから、とりあえずフィフィ家へ戻ったらどうですか?
ネーネもマリンもいないけど、かえってその方が落ち着くでしょ」
「いや。待ってくれ」
お父様は指をふろうとする私を手で制する。
「私はあそこの魔獣を持ち帰りたいんだ」
「あんな魔獣をですか? ぶっそうじゃない?」
お父様の考えている事がわからなくて、首を横に傾ける。
「あれは魔獣なんかじゃない。
実は上級魔道具なんだ。
ルルも見ただろ。
魔獣がまだしっかりと固まってない、フニャフニャの金を吸い込むのを」
「ええ。おぞましかったわ」
「ルル。魔獣のいた所をよく見て欲しい」
お父様はそう言って、少し先に視線を移す。
「え! いつのまにか金貨の山ができているわ。
それってあの魔獣がドロドロの金を金貨に変えたってことなの!?」
「ああ。そうだよ。
あれがあれば鉱山事業の効率が上がり、ドアーフ達も少しは楽になるだろう」
お父様の綺麗な緑色の瞳がキラリと輝く。
こんな時でもお父様の頭の中は仕事でいっぱいみたい。
ちょっと前はそんなお父様が大嫌いだったけれど、今は違う。
いつか自分もお父様のように、何かうちこめる仕事を持ちたいとさえ思っている。
「よし。これでいい」
お父様は石ころぐらいの大きさになった魔獣をズボンのポケットにしまうと、満足そうな顔をした。
「じゃあ。今から風魔法を使います。
あっそうだ。お父様。
ネーネがブッシェラン伯爵とフィフィ家の邸を売却する契約を交わしたらしいけど、邸はどうなるのかしら?」
「なにい!あんなクソ野郎に売却だと!
心配しなくていい。我が国では重婚は禁止されているんだよ。
ネーネは今でもネフトリアの妻だったから、私達の結婚は無効になる。
赤の他人のネーネにはフィフィ家を売却する権利はない。
ブッシェラン伯爵は詐欺にあった。それだけの話だな」
日頃温厚なお父様が激高した。
「それを聞いてホッとしたわ。
それじゃあ。お父様。ごきげんよう」
「これからネーネ達に会いに行くと言ってたが、本当に一人で大丈夫なのか?
なんなら私も一緒に行くが」
「大丈夫よ。
お父様が魔獣のお腹にいる間に私はとても素晴らしい人に巡り会えたの。
今回もその人がいてくれるから、お父様は何の心配しないで欲しい」
「そうか。
いつのまにか、ルルは大人になっていたんだな。
では私は邸にもどる」
お父様は一瞬少し淋しそうな表情をみせた。
けどすぐに頭を左右にふって、ニッコリと笑った。
「風よ。お父様をフィフィ家に帰してちょうだい」
私が唱えると、すぐに突風がやってきてお父様をまきこんで去ってゆく。
「次は私の番ね。
はやくアンソニー様に会いたい。会っていっぱい話がしたい。
その前に大事な証人をつれて行かないとね」
私は横たわっていネフトリアを魔法で小さくすると、いつもの空間ポケットにしまいこんだ。
ネフトリアは一見すると死んでいるようだが、聖女の剣は人を殺さない。
なので今は意識を失っているだけだ。
「あとはネフトリアの声を記録した魔石ね」
犯罪の証拠となりえる物は全部ポケットにつめこむ。
帰り支度がすべてととのうと、アンソニー様に今日帰る事をしらせる。
魔力が大幅に増えた今の状態では、頭の中で伝えたい事を思うだけで自動的に魔法便がつくれるのだ。
さすが。大聖女2人分の魔力は規格外ね。
感心してから姿を白鳥に変える。
気がつけば、外はもう夕暮れ。
橙色がながれこむ薄墨色の空にゆうゆうと羽を広げて、ハイランド家を目指して進んでゆく。
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