第6話
「うーん、そう大したものにはならないでしょうね。まだ一頭行ってないんじゃないでしょうか?子供の頃はほとんどそんなもの食べたことありませんでした」
「私もですよ」
「家族の夕飯のおかずは、いつもイワシでした。それも一人半分」
「私もです。うちは一匹ありましたけど」
別に嫌味にはならなかった。
お互いの経済状況のことは、すでに知っていたからだ。
「でも、そうでもないんですよ」と滝村さんは続けた。「ウチはケチが着物を着たような家庭だったから。肉といえば、あの、お弁当に入れるようなハンバーグが売ってるでしょう」
「ええ」
「あれぐらいしか食わなかったんです、肉なんて。あとは赤いウインナー」
「ああ」
私も子供の頃に、赤いウインナーを良く食べたものだった。
「だからね、本当、まだ一頭行ってないんじゃないでしょうか」
私は焼きそばを全部食べ終えた。
滝村さんも、自分のものをすっかり食べてしまっていた。
「でも、ビールはきっと、牛10頭ぐらい飲んでるんじゃないかな。牛に換算すると」
牛に換算する、というのは新しい視点だった。
私はそれが具体的にどのくらいの分量になるのか、測りかねた。
こう言う場合、普通は何に例えるものだろう、と思って、ふと、東京ドーム何杯分というスケールを思い浮かべたが、その方が分かりにくいと思った。
あの、東京ドーム何杯分、というのは、一体誰に対して言っているのだろう。
その後、我々は取り止めもなく話をしたり、ぼんやりとレースを眺めたりして、午後の時間を潰した。
レースを見るのにも飽きてしまうと、売店で缶ビールを買って競艇場を出た。
日差しはまだ盛んであったが、他にやることもなく、ぼちぼちと河川敷を野球場の方に歩いていった。
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