【完結】ポッピングオレンジ―俺とあいつの青春ドキドキ勝負

poppin' 01【蓮多】①

　一学期の期末考査が終わったばかりの私立霞（かすみ）が関高等学校。

　一年F組星丸蓮多（ほしまるれんた）は、同クラの木瀬昴（きせすばる）の机の前に仁王立ちして叫んだ。

「おい、木瀬っ。成績見せろ」

　今回のテスト、蓮多は全教科九十点越えの学年順位二位。一位は、やっぱり木瀬なのか。そうなのか？

　蓮多にとっては死活問題なのだが。

　木瀬は心底面倒くさそうに一瞬目を上げて蓮多を見ると、成績表を投げて寄こす。

「うお……っ」

　開けっ放しの窓から入った風にひらりと舞う無機質な白い紙きれを、蓮多は慌てて捕まえて、

「な……っ！？」

　そこに記された無情な数字に絶句した。

　学年順位1位（276人中）。

　木瀬昴は全教科九十五点越えで堂々の学年順位一位をマークしている。

「く……、次はぜってー負けねえっ！」

　中間考査後同様、悔し紛れの捨て台詞を吐いて木瀬の成績表を机に叩きつけると、蓮多は足音も荒く奴の席から立ち去った。木瀬はそんな蓮多に全く興味なさげにまた机に突っ伏す。

　それがまた、蓮多のプライドを逆撫でする。

　俺なんか目じゃねえってことかよ？

　これは、霞が関高校、通称「霞高（かすこう）」一年F組では、もはや見慣れた光景である。

「蓮多、またやってるよ」「よく飽きないな」

「木瀬に全然相手にされてないのにな」

　星丸蓮多の木瀬昴への対抗心は学年中、否、学校中に知れ渡っていた。それほどまでに、蓮多は木瀬に敵愾心（てきがいしん）剥き出しだからだ。

　なにしろ、入学式で新入生代表挨拶を木瀬に奪われてからというもの、成績、体力テスト、スポーツ大会、クラス委員から告白数に至るまで、何一つ木瀬に勝てた例がないのだ。

　……悔しい、また負けた。またあいつに、木瀬に負けた。

　この俺が。星丸蓮多ともあろう男が。

　あの屈辱の入学式挨拶まで、蓮多の人生は順風満帆だった。

　祖父の代から不動産業を営む星丸家は全国でも屈指の富裕層で、一人息子の蓮多はともかく周りから溺愛されて育った。加えて、顔良し、頭良し、スポーツ万能。幼少期から小中学校において友だちからもちやほやされ続け、何ごとも一番以外とったことがない。

　当然、名門霞が関高等学校にも主席入学だと思っていたのに、そこに割って入ったのが木瀬昴だった。

　主席だけならともかく、木瀬は運動神経抜群で見た目もいい。さらりとした黒髪に涼しげな目元で、女子からは騒がれ、男子からは一目置かれ、先生からは信頼されている。――要するに。これまで蓮多に一心に向けられていた羨望の眼差しを木瀬は根こそぎ奪っていったのである。