救済の権利
はな
第1話 プロローグ
日本の街は、どこも同じように静かだった。
けれど、その静けさの下では――ゆっくりと命が削られていた。
高齢化は社会を圧迫し、福祉はほとんど崩壊しかけていた。
その混乱を立て直すために誕生した新しい役所がある。
――厚生未来庁。
名目は「治安維持」と「財政再建」。
だがその実態は、“対象者”と呼ばれる人間を合法的に処分する機関だった。
匿名の「提供者」となった彼らの命は、善良な市民の延命に使われている。
羽澄 想(はすみ・そう)は、その恩恵を受けた一人だ。
重い心臓病で死を覚悟したはずの彼は、心臓移植によってこうして生き延びている。
「……退院、おめでとうございます」
病院を出る日、医師はそう言って一枚の紙を渡した。
『生活支援制度 適用通知書』。そこには大きく数字が打たれていた。
――DIGNITY SCORE:72(適正)。
「参考程度のものですよ」
医師は軽く笑ったが、想の胸には小さな違和感が残る。
尊厳を数値で測る? もし点数が低かったら、自分は今ここにいなかった……?
さらに退院の直前、カルテの片隅に奇妙な記号を見つけていた。
“Y-138A”。
ただのドナー番号――のはずだった。
けれど、その文字を見た瞬間、胸の奥から聞こえた気がしたのだ。
――「どうか、調べてほしい。」
知らないはずの誰かの声が、確かに、彼の心の中でささやいていた。
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