第二話 止まった時間、消えた幻影
「きゃあああああ!」
新入生歓迎パーティの会場であるホールは、まさに阿鼻叫喚の地獄と化していた。理事長の遺体が倒れる中央の舞台から、鮮血が絨毯にじわりと染み出し、甘く、ぞっとするような鉄の匂いが充満する。
「ひっ、血が……!」
誰かが震える声で呟いた。血の匂いは、文明開化の華やかな香りをかき消し、僕の幼い記憶に刻まれた、あの日の路地裏の、生々しい鉄の匂いを呼び覚ました。
「嘘でしょう……?」と信じられないといった呻き声が聞こえる。学生たちの悲鳴と嗚咽がホールに響き渡り、「もう嫌だ。帰りたい」と泣き崩れる声や、「誰か、助けて」と懇願する声が混じり合う。中にはへたり込む者、友人の腕にすがりついて震える者もいた。
「皆、落ち着きなさい! 警官が、警官が来るわ!」
花守きらめが、震える声で叫んだ。
しかし、彼女自身も顔色を失い、美しい巻き髪が、恐怖で滲んだ冷や汗にわずかに張り付いていた。震える指先で、スカートのシワを伸ばそうとする。完璧な淑女の仮面が音を立ててひび割れていくようだった。
それでも、理事長の娘としての矜持か、周囲を鎮めようと努めていた。「きらめ様……」と、近くの友人が縋るような声を上げた。震える声で叫びながらも、その瞳は、血に染まる父の姿から、決して目を離すことができなかった。
彼女の矜持は、恐怖に打ち震える心を、辛うじて繋ぎ止めていた鎖なのだろう。誰もが、きらめお嬢様に一縷の希望を見出そうとしていた。
学園付きの年老いた警官、杉浦(すぎうら)巡査が、慌ただしくホールに駆け込んできた。彼は白髪交じりの頭を掻きむしるようにして、状況の把握に努める。その顔には、長年の経験では測り知れない、深い困惑と焦りが刻まれていた。
「動くな! 動かないでくれ、皆、ここは現場だ。犯人がまだ潜んでいるかもしれん!」
杉浦巡査の声が響くも、学生たちの混乱は収まらない。教師たちが必死になって彼女たちをホールから退避させようと誘導し始めた。
「平坂様、 あなたも、早くこちらへ!」
担任の教師が、お嬢様に声をかけてくる。僕もまた、目の前の惨劇に呆然としていたが、お嬢様は違った。
その瞳は、理事長の遺体ではなく、ホールを動き回る人々の顔を、そして、あの消えた少女がいた場所を、静かに追っていた。
「書生」
お嬢様が、僕の袖を小さく引いた。その声は、周囲の喧騒とは隔絶されたかのように、静かだった。
「わたくしたちは、ここに残りますわ」
「えっ、お嬢様」
杉浦巡査が眉を吊り上げた。
「危険ですぞ、あやめお嬢様。犯人はまだ捕まっておりません!」
「ご心配には及びません、杉浦巡査。わたくしどもは、花守様の許可をいただいておりますもの。それに……わたくし、犯人を目撃したかもしれませんのよ」
お嬢様は、きらめお嬢様の瞳を真っ直ぐに見つめ、そう告げた。きらめお嬢様の顔に、驚愕の表情が浮かぶ。
「平坂様が…… 犯人を?」
「ええ。曖昧ではございますが、確かに。ですから、わたくしどもも、捜査にお役立てできればと存じまして」
きらめお嬢様は、一瞬迷ったようだが、すぐに意を決したように頷いた。
「分かりましたわ、平坂様。杉浦巡査、平坂様はわたくしが責任を持ってここにお留めしますわ。彼女の証言は、きっと事件解決に繋がります」
「……は、はぁ。では、くれぐれも、わたくしの指示に従ってくだされよ」
杉浦巡査は、納得しきれない様子ながらも、きらめお嬢様の言葉に逆らうことはできなかった。彼の目には、この異常な状況に対する困惑の色が深く刻まれている。こうして僕とお嬢様は、混乱するホールに、学園の要人たちと共に残ることになった。学生たちが全て退避し、ホールの喧騒はやがて静寂に転じた。
◇
「お嬢様、先ほどの言葉は……。本当に犯人を目撃されたのですか?」
僕は、杉浦巡査たちが理事長の遺体周辺を調べる間に、小声でお嬢様に尋ねた。僕の頭の中は、先ほどの「時間停止」という超常現象と、その中でジゴマが動いた事実、そして消えた少女のことが渦巻いていた。まるで、現実と非現実の境界が曖昧になったかのようだった。
お嬢様は、僕の問いには直接答えず、静かにホールの中を見回していた。その視線は、再び、活動写真の映写機と、スクリーンのあった壁、そしてあの不自然な換気口へと向けられる。その眼差しは、まるで複雑な機械の構造を解き明かそうとする技術者のようだった。
「書生、あなたはあの時、何を感じました?」
「何と……と申しますと?」
「皆が動けない中、ジゴマだけが動いたでしょう? あれは、一体なぜだとお思いになります?」
僕が言葉に詰まると、お嬢様はゆっくりと語り始めた。その声は、論理の糸を紡ぐかのように、淀みなく流れていく。
「わたくしには見えましたのよ。時間が止まったかのように見えたあの時、確かにジゴマの周囲だけ、ごく僅かに、時間の流れが異なるように感じられました」
「時間の流れが……異なる? 僕には、その意味が理解できません。まるで近年流行りのサイエンス・フィクション小説のような話です。僕の常識では、到底考えられませんが……」
「ええ。まるで、彼だけが、その時間の檻から解き放たれていたかのように。そして、周囲の人間は、意識はあれど、体が硬直して動かせない。まるで金縛りにでもあったかのようにね」
「金縛り……。確かに、僕も指一本動かせませんでした。あれは一体……」
「それこそが、この事件の核心ですわ、書生。ただの殺人事件ではございません。ジゴマは、何か特殊な力、あるいは極めて巧妙な心理操作や奇術を用いている。そうでなければ、あれほど衆人環視の中で、誰も止められないはずがありませんもの」
お嬢様は、視線をホールの天井付近にある、大きな換気口へと向けた。映写機から伸びる不自然に太いケーブルが、まるで生き物のように壁を這い、天井の換気口へと続いていた。その光景は、まるで巨大な機械仕掛けの獣が、ホール全体を支配しているかのようだった。
「あの換気口、どうも気になりますわね。通常、あのような低い位置に、あれほどの大きな換気口は必要ありませんもの。それに、活動写真の映写機と、そこから伸びるケーブル……」
「確かに、不自然ですね。何か、関係が……?」
「ええ、きっと。ジゴマは、ただの殺人鬼ではありません。彼は、観客である私たちを、舞台の役者として仕立て上げ、その行動までをも操ろうとしたのかもしれませんわ。まるで、活動写真の登場人物のように、意のままに動かすかのようにね。あの不自然な映写機と換気口、そしてホール全体に張り巡らされた機械仕掛けの気配。これは、ただの舞台装置ではございません。このホールを『時間の檻』に変えるための装置なのでしょう」
お嬢様の言葉は、僕の想像をはるかに超えていた。僕の頭の中では、文明開化の光がもたらした「科学」と「オカルト」が、激しく火花を散らしている。
「つまり、あの『時間の停止』は、錯覚だとおっしゃるのですか?」
「真の時間が止まったのか、それともそう見せかける巧妙な仕掛けがあったのか。それは、まだわかりません。ですが、もし後者であれば、あの場所には何らかの『仕掛け』があるはず。そして、仕掛けを起動した者がいた。それが、ジゴマと手を組んだ者、あるいは、ジゴマそのものなのかもしれません」
あの「時間の停止」は、科学の進歩がもたらした錯覚なのか、それとも、お嬢様が視る『殺意の線』と同じ、僕たちには理解できないものなのか。
お嬢様はそこで言葉を区切ると、再び、消えた少女がいた場所へと視線を向けた。
◇
その頃、杉浦巡査は、副理事長と花守きらめお嬢様から事情を聴取していた。杉浦巡査の顔は、この異常事態にどう対処すべきか、苦悩の色を隠しきれていなかった。
「きらめお嬢様、本当に何も見えませんでしたか? ジゴマの顔や姿は?」
杉浦巡査が憔悴しきった様子のきらめに尋ねる。
「はい。わたくし、突然の暗転と音楽の停止で、ただただ呆然としておりましたの。気がついた時には、お父さまが……」
きらめの声は震えていた。その隣で、愛梨はきらめの腕にすがりつき、小さく嗚咽を漏らしている。
「愛梨、お前も何か見ていないか?」
杉浦巡査が愛梨に目を向けた。愛梨はびくりと肩を震わせ、か細い声で答えた。その顔から血の気が失せ、唇が小刻みに震え始めた。
「い、いえ……わたくしは、怖くて、目をつぶってしまいました」
「そうか……。しかし、奇妙な話だ。あれほどの衆人環視の中、凶行を誰も止められなかったとは……。副理事長、何か心当たりは? この映写機や、ホールの構造に不自然な点は?」
杉浦巡査が副理事長の木崎へと視線を向ける。木崎は、映写機から伸びるケーブルをじっと見つめたまま、冷たい声で答えた。
「いえ、特別な点はございません。ただ、最新の機材と設備を導入しただけです。それが、どう事件と関係するのですか?」
「いえ、ただの憶測です。しかし、この事件はあまりにも……」
杉浦巡査は唸る。彼もまた、この事件の異様さに困惑しているようだった。
その時、お嬢様が静かに口を開いた。
「杉浦巡査、よろしければ、わたくしが目撃したことをお話ししても宜しいでしょうか」
「おお、あやめお嬢様。 ぜひお願いします!」
杉浦巡査の目が光る。
「わたくしは、理事長に近づく怪人の姿を確かに見ました。そして、彼がナイフを突き立てる瞬間も。しかし、それよりも……」
お嬢様は一呼吸置くと、視線を愛梨の方へと向けた。愛梨は、びくっと体を硬直させる。
「わたくしが気になりますのは、事件が起こる直前、理事長の近くにいた新入生の少女の姿が、事件後に忽然と消えてしまったことですわ」
その言葉に、杉浦巡査と副理事長、そしてきらめの顔に驚きが広がる。
「新入生の……少女がですか? まさか、ジゴマがその少女に変装でもしていたとでも言うのですか!?」
杉浦巡査が声を荒げた。
「いいえ、杉浦巡査。わたくしが申し上げているのは、その少女が、ジゴマの犯行後、まるで煙のように消え失せた、という事実ですわ。そして、その少女は微かに愛梨さんと似通った雰囲気でした」
お嬢様の言葉に、愛梨の体が大きく震えた。その瞳には、一瞬、恐怖とは違う、何か深い秘密を暴かれたかのような動揺が走る。
「ひっ……! そ、そんな…わたくしは、ずっと花守様のお傍に……!」
愛梨は、きらめの背後に隠れようとする。きらめお嬢様も、愛梨の肩を抱きながら、困惑した表情でお嬢様を見つめた。その瞳には、疑われることへの戸惑いと、しかし拭いきれない不安が混じり合っていた。
愛梨はいつもきらめお嬢様とぴったりくっついているのが立ち位置だ。ただ、あの事件の瞬間もそうだったかは証明できない。きらめお嬢様は理事長と共に新入生向けの挨拶のために壇上にいたからだ。
「平坂様……まさか、愛梨がジゴマと関係があるとでも……?
ですが……あの巷を騒がす怪人ジゴマは、もっと荒々しく、男のような印象だと聞いておりますのに。愛梨や、消えた少女のような、か弱そうな方が、果たして……」
きらめお嬢様の疑問は、僕の胸中にあった戸惑いと全く同じものだった。だが、お嬢様はきらめの言葉を待っていたかのように、静かに首を振った。
「いいえ、花守様。わたくしは、巷の噂にあるような『ジゴマ』と、今この場で起きた事態が、どうにも一致しないと感じておりましたわ」
杉浦巡査と副理事長が、同時に息を呑んだ。
「なんですと!?」
「では、一体誰が……!?」
「ええ。これは、奇術を用いてジゴマの犯行を模倣し、成りすました者、つまりジゴマに扮したものによる犯行ではないかと考えておりますわ」
なるほど、と僕の胸にすとんと落ちた。確かに、あの時現れた怪人の動きには、報じられているジゴマの残忍さとは異なる、どこか芝居がかった、あるいは計算されたような印象があった。
そして、愛らしい少女と、帝都を震え上がらせる怪人との間の違和感。それら全てが、「模倣犯」というお嬢様の言葉で、一本の線に繋がる気がしたのだ。
お嬢様はそこで言葉を切り、愛梨の表情を、その小さな体の震えを、細やかな目の動き一つ一つを、じっと、まるで絵画を鑑賞するかのように時間をかけて見つめた。
愛梨は、お嬢様の視線から逃れようと顔を伏せ、きらめの袖をさらに強く握りしめる。その指先までが、小刻みに震えているのが、僕にも見て取れた。
僕の背筋に、再び冷たいものが走る。お嬢様は、何かを視たのかもしれない。それが、愛梨の中に潜む、僕には決して見えない「殺意の線」だったとしたら……?
お嬢様の『殺芽の眼』には、愛梨さんの周りに漂う感情の糸が、まるで万華鏡のように絡みつき、その中心に漆黒の線が一本、はっきりと走っているのかもしれない。
僕の胸に、底知れぬ不安がよぎる。
◇
ホールの隅で、ある教師が、先ほどの騒ぎで散らばったパンフレットを拾い集めながら、震える声で言った。
「そういえば、理事長が壇上へ上がる直前、理事長の傍らにいた少女の名前は、黒瀬里愛(くろせ りあ)と申します。彼女は、僅か三日前に急遽、学園に入学することが決まったばかりでして。どうも、この学園に馴染めていないのか、少々、浮かない表情をされていることが多く、私どもも心配しておりました……」
別の教師がそれに続いた。眉間に深いしわが刻まれている。
「ええ、特に、理事長先生が何かと気にかけていらっしゃるようでしたわね。入学前から度々、理事長室にお呼び出しになっているのを拝見いたしましたもの。まるで、特別なご用件でもあるかのように、頻繁に……」
きらめお嬢様は、その話を聞いて、はっと息を呑んだ。
「そんな……お父さまが、あの子に、一体何を気にかけていたのでしょう? 私も、急遽編入なさる里愛さんとは顔を合わせましたが、そんなに頻繁にお父さまの部屋に出入りしていたとは知りませんでした」
彼女の美しい眉が、不安げに寄せられる。その言葉にお嬢様の目が細められた。僕の背筋に、再び冷たいものが走る。黒瀬里愛という少女は、ただの無関係な新入生ではなかった。そして、理事長との間に、単なる「気遣い」では片付けられない、何か深い接点があったようだ。
それは、ひょっとすると、事件の遠因ともなりうる、仄暗い影を孕んでいるのかもしれない。
「理事長が、その少女を気にかけていた、と。そして、入学前から、度々理事長室へ……。
それなら、他の新入生とは別に、理事長の傍らに立っていたことも説明がつく」
お嬢様たちの言葉に、杉浦巡査の顔色が変わった。彼は手帳を取り出し、慌ただしくペンを走らせる。
「その少女が、犯行時に理事長の傍らにいたんですね。そして姿が見えなくなったと」
「ええ。それが里愛さんであったかは存じませんが、わたくしの記憶に間違いがなければ、あの時、確かに理事長がいた場所からその後を追う少女がいらっしゃいましたわ。そして、騒ぎの後、彼女の姿は忽然と消え失せました。まるで、最初からそこに存在しなかったかのように……」
お嬢様は、静かに、しかしはっきりと答えた。杉浦巡査は、すぐさま懐から携帯無線を取り出し、短く、しかし緊迫した口調で指示を飛ばした。
「女子寮に連絡しろ! 至急、黒瀬里愛という生徒の安否を確認し、事情聴取のためホールへ連れてくるよう手配せよ! 犯人とは断定できんが、直前まで被害者の傍らにいたこと、犯行時に場を離れていたこと、姿が見えなくなったことは、尋問せざるを得ない。 急げ」
無線から、慌ただしい応答が聞こえる。学園内に残っていた警官たちが、すぐさま女子寮へと向かう足音が響く。ホールの緊張感は、さらに高まった。
◇
数分後、無線から再び杉浦巡査を呼ぶ声が聞こえた。その声は、焦りとも困惑ともつかない響きを含んでいた。
「杉浦巡査。黒瀬里愛ですが、女子寮を確認しましたが、どこにも見当たりません! 部屋にもおらず、他の生徒も目撃していないと! まるで、最初から学園にいなかったかのような、影も形も残っておりません」
「馬鹿な! そんなことがあり得るのか!?」
杉浦巡査は思わず声を荒げ、無線を握る手が震えている。その傍らで、きらめお嬢様も顔を真っ青にして、信じられないといった様子で呟いた。
「里愛さんが……まさか。一体どこへ……?」
彼女の瞳は不安に揺れている。杉浦巡査は信じられないといった表情でホールを見回し、やがて視線がお嬢様に戻った。その目には、もはや困惑の色しか浮かんでいない。
僕も驚きを隠せない。あの少女は、本当に煙のように消えてしまったのか。この学園のどこにもいない?
僕の視線は、無意識のうちに愛梨へと向いた。お嬢様が注視していたからだ。愛梨は、相変わらずきらめお嬢様の傍らにいる。
顔を伏せ、震える肩を抱きしめるその仕草は、一見すると怯えているようにも見える。
だが、この場にいるはずがない黒瀬里愛が、もし本当に、今、僕の目の前にいる愛梨と同一人物だとしたら……女子寮に姿が見えないのも連絡がつかないのも説明がついてしまう。
僕の頭の中で、混乱と戦慄が入り混じる。お嬢様の「殺芽の眼」には、この真実が見えているのだろうか。
◇
杉浦巡査やきらめ達が事件について整理するために現場を去ったあと、お嬢様は、沈黙が支配するホールの中、静かに僕へと向き直った。
その瞳は、何か確固たる真実を捉えたかのように、深く澄んでいた。
「書生。わたくしには、この事件の輪郭が見えてきましたわ」
「と、仰いますと?」
僕の喉が、ごくりと鳴る。
「怪人ジゴマ……。正確にはそれに扮した者は、ただの殺人犯ではございません。時間そのものを操るかのような、あるいは、極めて巧妙な仕掛けによって時間を操ったかのような錯覚を起こさせる者です。そして、あの消えた少女、黒瀬里愛は……」
お嬢様の言葉が、ホールの張り詰めた空気の中、静かに響き渡る。
「あの消えた黒瀬里愛は、愛梨です。巧妙に変装しても殺意の線はごまかせません。わたくしの眼が教えてくれますわ。そして留意しなければいけません。この事件は、まだ終わっておりませんわ」
お嬢様の言葉は衝撃的だった。まだ終わっていない、それは、また新たな殺人が行われてしまうことを示唆している。お嬢様には愛梨の次の標的が視えているのかもしれない。
僕の視線は、お嬢様の冷徹な眼差しと、愛梨が去った出口の間を、行き来していた。大正の華やかな光の裏側に潜む、深すぎる闇。僕たちは、その闇の入り口に、今、立っているのだ。
第二話 完
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