第17話 俺はハッキリさせようと思った
火曜日の朝。いつもより少しだけ早く、
まだひんやりとした朝の空気が頬を撫でる。
校舎の廊下を歩く透也の足取りは、どこか重い。心の中には、昨日の一件が少しだけくすぶっていたからだ。
教室に足を踏み入れると、シーンと静まり返った空間が広がっていた。
いつもなら、朝イチの教室はクラスメイトたちの笑い声や雑談で賑わっているはずが、今日は空気が凍りついたように静かだ。
透也は自分の席にたどり着き、背負っていたリュックを机のフックに引っ掛け、軽く周囲を見回した。
元カノの
現在付き合っている
ちらほらと登校しているクラスメイトは数人いるが、誰もが妙に静かで、透也をチラチラ見ながらひそひそ話しているような雰囲気があった。
その理由は、昨日起こった出来事に関連する。
透也の社会の教科書が忽然と姿を消した事で、元カノの祐実に疑いの目を向けてしまったこと。
結果、祐実の机には教科書なんて影も形もなく、クラス全体が気まずい空気に包まれた。
あの一件のせいで、透也は今、クラスの中で浮いた存在になっていたのだ。
はぁ…まぁ、しょうがないか。
透也は小さく息をつき、席にドサリと腰を下ろした。
納得いかない気持ちはある。でも、こうなった以上、受け入れるしかないかと自分に言い聞かせる。
制服のポケットからスマホを取り出し、気まずげに画面をスクロールしていると――
「あ、あのさ、本多さん」
突然の声に、透也はビクッとし、顔を上げた。
そこにはクラスメイトの男子が立っていたのだ。
普段はそこまで絡まない相手なのに、なぜか彼の目は妙に真剣で、どこかソワソワしている。
「えっとさ、昨日の……教科書の件なんだけど」
彼の声が、微妙に震えている。何かヤバい秘密を握っているかのような雰囲気だ。
透也は眉をひそめ、怪訝そうに聞き返した。
「教科書?」
透也の前にいる彼は一瞬、視線を泳がせ、ゴクリと喉を鳴らす。
そして、意を決したように口を開いた。
「実はさ、あの教科書、多分……あそこにあると思うんだ」
「……え?」
彼が指差したのは、教室の後ろにある掃除用具入れのロッカーだった。
透也の視線がそちらに飛ぶ。
モップや箒が詰め込まれた、あの薄暗いロッカーだ。
え、まさか……?
「昨日、浅倉さんたちがさ、なんか遊び半分で隠したっぽいんだ。自分も含めて、他のクラスメイトも口止めされてたんだけど……ごめん、黙ってて」
彼はバツが悪そうに頭を下げた。
透也は一瞬、言葉を失ったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「いや、いいよ。君も巻き込まれただけなんでしょ」
透也は立ち上がり、半信半疑でロッカーへと向かった。
モップや箒をどけると、確かにそこには、見覚えのある社会の教科書がひっそりと隠されていた。
「……ここにあったのか」
透也は教科書を手に取り、埃を払う。
パラパラとページをめくると、最後のページには確かに、本多透也と記されてあったのだ。
見つかった安堵感と同時に、なんでこんなイタズラをというモヤモヤが胸に広がった。
やっぱり、祐実たちの仕業だったか。
透也の心に、じんわりと怒りが湧き上がってくる。
「ご、ごめんね! 私たちも隠してたこと黙ってて」
今度はクラスメイトの女子が恐る恐る近づいてきて、ペコリと頭を下げた。
彼女の後ろには、気まずそうに俯く数人のクラスメイトたち。
どうやら、祐実たちのイタズラに巻き込まれたのは、結構いるようだ。
「いや、大丈夫だよ。教えてくれてありがと」
透也は笑顔で答えたが、心の中は複雑だった。
祐実への怒りと、こうやって気遣ってくれるクラスメイトへの感謝が、ぐちゃぐちゃに混ざり合っていたからだ。
刹那、廊下から聞き慣れた声が響く。
「ねー、昨日は楽しかったよね! 今日は駅前のカフェでも行かない?」
その声は、間違いなく浅倉祐実だった。
彼女はいつもの取り巻き――金髪女子や、他の女子たちと一緒に、キャッキャと楽しそうに教室に入ってきた。
「ん? ちょっと、みんな何? いつもより暗くね?」
金髪女子がキョロキョロと教室を見回しながら、軽いノリでそう呟いた。
祐実も、ニコニコしながら、どうしたのかなと首を傾げる。
透也の心に、ピキッと何かがひび割れる音がした。
このまま黙ってるのは、なんか違う。
胸の内でそう呟き、透也は意を決して祐実たちの方へと歩み寄ったのだ。
「あの、祐実」
「何よ、透也?」
祐実は面倒くさそうに眉をひそめ、チラリと透也を見上げた。
その態度に、透也のモヤモヤはさらに膨らむ。
「これの件なんだけどさ」
透也が教科書を掲げると、祐実の顔が一瞬で凍りついた。
大きな瞳が、驚きと動揺で揺れる。
取り巻きの金髪女子や他の女子たちも、なんでと言わんばかりに固まったのだ。
「な、なんで透也が、それ持ってるの⁉」
祐実の声が裏返る。
教室中の視線が、一斉に彼女たちに集中した。
「まさか、誰かバラした⁉ マジであり得ないんだけど!」
金髪女子が焦ったように声を上げ、キッとクラスメイトたちを睨みつける。
その瞬間、最初に透也に話しかけてきた男子が、堂々とした態度で一歩前に出た。
「隠すのは、なんか違うと思ったから。さっき、本多さんに話したんだ」
その言葉に、祐実たちの顔がさらに青ざめる。
金髪女子がクラスメイトたちにガンを飛ばし始めたその時、タイミングよく――いや、絶妙すぎるタイミングで、生徒指導を担任する先生が廊下から教室を覗き込んできたのだ。
「おいおい、朝から騒がしいな。何かトラブルか?」
黒色のスーツを着た、その先生の低く落ち着いた声に、金髪女子はピタリと口を閉じた。
祐実も不機嫌そうに唇を尖らせ、なんでもないですとぶっきらぼうに答え、取り巻きたちと一緒に席に着いたのだ。
教室は一瞬で静まり返り、透也は教科書を手に、ほっと息をついた。
「まあ、なんでもないならいいが。変なことするなよ」
先生は鋭い目で教室を見渡すと、ゆっくりと立ち去って行ったのだ。
透也は自分の席に戻り、教科書を机に置いた。
やっと解決したか。
少しだけ気分が楽になり、透也は席に腰を下ろす。
「おはよう。透也くん。でも、なんか、教室がいつもより静かじゃない?」
教室に佐野千鶴が入ってきた。
さっきの出来事を知らない彼女は首を傾げていたのだ。
「まあ、色々とあったんだよ」
詳しい話は後で話す事にして、今は千鶴と一緒に楽しい内容で会話する事にしたのだった。
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