AIでオリジナルアプリをつくろうシリーズ 第一弾『ファクトチェックブロッカー🚫』
めろいす(Meroisu)
第1部 真実の鉄槌、あるいは思春期の暴走 第1章 神の3分クッキング
禁鳥 健笑(きんちょう けんしょう)、中学三年生。
彼の「健笑」という名は、親が「健やかに笑って生きてほしい」という極めてありきたりな願いを込めてつけたものだった。しかし本人は、その音の響きから勝手に「検証」の「検」と「笑止千万」の「笑」だと脳内変換し、自らを「絶対真理の探求者」と任じる、典型的な中二病の最終形態へと進化を遂げていた。
彼の目には、インターネットは嘘と愚かさが煮詰まったデジタルなヘドロの海として映っていた。人々はなぜこうも簡単に扇動され、非論理的な陰謀論を信じ込むのか? 健笑にはそれが理解できなかったし、何よりその愚かさが我慢ならなかった。
「情報モラル? ネットリテラシー? そんなものは精神論だ。結局、個人の脆弱性に依存するザル法に過ぎない。必要なのは、システムだ。愚者が愚かな情報に触れる前に、その汚染源を物理的に遮断する、完璧で無慈悲なシステム……」
ある日の放課後、東京のどこにでもある自室のゲーミングチェアに深く身を沈めながら、健笑は決意を固めた。自分の脳は自分で守る。そのためには、最強の盾がいる。彼はオープンソースの最新マルチモーダルAIのコンソールを開き、神託を授けるかのように対話を始めた。
Kensho_Kincho > 新規アプリを開発する。名称は「Fact Check Blocker」。通称「Facker🚫(ファッカー)」。
AI > 目的を定義してください。
Kensho_Kincho > インターネット上のあらゆる情報をリアルタイムでファクトチェックし、虚偽、誤情報、論理的矛盾、証明不可能な主張を含むウェブサイト、画像、動画、音声を自動的にブロックする。判定基準は絶対的な論理整合性と検証可能な事実のみ。一切の情状酌量は不要。
AIは即座に応答した。自然言語処理による意味解析、感情分析、ディープフェイク検出アルゴリズム、そしてデジタルコンテンツの来歴を追跡するC2PA規格の検証機能が、健笑の目の前で光の速さで構築されていく。わずか三分後、画面にポップアップが表示された。
【ファクトチェックブロッカー🚫】のインストールが完了しました。
健笑は、玉座に座る魔王のようにニヤリと笑った。彼は神になったのだ。少なくとも、彼のスマホの中では。
その夜、リビングで夕食をとっていると、祖父の功が古ぼけた雑誌を片手に熱弁を振るっていた。元歴史教師の功の書斎は、健笑のデジタルな世界とは正反対のアナログな混沌に満ちている。
「健笑、これを見ろ! 1970年代の創刊時の『ムー』だ。当時はな、これが真実だったんだ。ユリ・ゲラーが国民の目の前でスプーンを曲げ、宜保愛子が霊と対話し、ノストラダムスが1999年7の月に人類が滅亡すると予言した。そして我々日本人は、太平洋に沈んだムー大陸の末裔なのだと、誰もが信じていた……」
「じいちゃん、それ全部非科学的なデマだよ」健笑は箸でグリーンピースを弾きながら言った。「俺が作った『ファッカー』なら、そんなサイトは一発でブロックだね。存在自体を許さない」
功は雑誌から目を上げ、孫の顔をじっと見つめた。「デマか……。だがな、健笑。真実とは、時に一番つまらない物語のことでもあるんだぞ」
その言葉の意味を、健笑はまだ知る由もなかった。
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