『Deus Ex FairyTales/剣の街のシンデレラ』

ナナハ

第1話 プロローグ

少女は、両足を剣に変えた。

――もう一度、自分の足で、歩くために。


人の欲望と、望みは、

終わることを知らなかった。


豊かさを手にした者は、次に刺激を求め、

刺激に慣れた者は、より強い興奮を欲した。


パンとサーカスでは、もう足りない。

人は、戦いを娯楽に変えた。


身体は鋼に。心は回路に。

汗も血も、すべて、機械仕掛けで

演出される時代。


鉄と煙に覆われた港街。

その名は、《剣の街》。


剣闘士たちは、命を賭けて舞台に立つ。

生き延びるために。夢を叶えるために。

あるいは――ただ、忘れるために。


剣と熱狂に包まれたその街は、

再構築された、闘技場。


剣も、盾も、もういらない。

必要なのは、戦闘義肢と――戦う理由だけ。


少女の名は、サンドリオン。通称、サンディ。

両親と、両足を――同時に失った。


誰の手も引かれず、

彼女は、ひとりきりで残された。


夢など、見たことがなかった。

願いも、希望も、

ただ、遠すぎる光だった。


そんな彼女に、声が届く。


「――願いがあるなら、剣闘士になってみないか?」


差し伸べられたその手は、

温かくも、冷たくもなかった。


けれど、それだけが――

この街で“道”と呼べるものに見えた。


サンディは、生きるために剣を取った。


《剣の街のシンデレラ》。

それが、彼女に与えられた名前。


戦闘義足ガラスの靴を履き、

彼女は、踊るように、戦い続ける。


戦う理由は、ただ一つ。

義足ではない、“自分の足”で、

もう一度、立つために。


再生医療に必要な莫大な資金を、

鋼の足で稼ぐために。


少女は、今日も、舞台に立つ。


観客の歓声の向こう側。

誰にも見えない明日を――

静かに、踏みしめながら。

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