ep.10 時の石

 みんなで花見をした数日後、僕の嫁であるアリアは息子を置いて家を出て、失踪してしまった。僕たちはアリアを探したが帰ってくる様子も無く、途方に暮れていた。


「………」

 僕はアリアの部屋に入りアリアの机を見ていた。机の上には本や何かを書き留めた紙が散乱していた。


「時の石…」

 僕はアリアの書いた紙を見てそう呟いた。アリアの机に置いてある物は全て時の石に関する物だった。時の石とは時を操る事ができ、自由に過去を変える事が出来る代物だ。


 近々、時の石が僕が住んでいる国の同盟国であるアルベルト王国でお披露目されるようだ。アリアはどうやら時の石を狙っているようだ。もしアリアが盗もうとし捕まったとしたら処刑されるだろう。それ位、時の石と言う物は貴重な物のようだ。



 僕ら家族はアリアを家に連れ戻すために家を出てアルベルト王国へ向かった。アルベルト王国は僕の住んでいる国と同盟国と言っても僕が住んでいる国から何日もかかる。アルベルト王国に向かう途中の場所に汽車があるのでそれを目指して馬車でそこまで向かった。


「暑い」

 馬車の中なので熱気がこもっていた。馬車は二台使っているので馬車内の密度はそうでも無かった。


「見えてきましたよ、旦那」

 馬車を操る御者ぎょしゃが僕にそう言った。僕はアルベルト王国へ向かう汽車の停留所に辿り着いた。


 僕らは馬車を降り、運賃を御者に渡した。僕たちは停留所で汽車を待っていた。僕たちが今いる所は何も無く、ただ線路が敷かれていた。本当にここに汽車が来るのか心配であった。



「来たみたいですよ」

 僕が地べたに座っているとルナはそう僕に言った。遠くの方から黒い汽車が汽笛を鳴らし、こちらに向かって来た。


「やっと来たか…」

 僕は立ち上がると目の前に汽車が止まった。僕の息子は僕の母、レイカに抱っこされながら汽車を見て目を輝かせていた。僕達は汽車に乗った。


「凄い、凄いよ」


「凄いねえ」

 レオはキラキラした目で窓から見える景色を見ていた。レイカはレオの言葉に微笑んだ。


「この調子なら目的地には三時間、四時間で着くだろう」

 汽車は走り出し、僕は窓から景色を見ながらそんな事を思った。



「ヨミ、起きて」

 エリナにそう言われ僕は目を覚ました。どうやら僕は寝てしまったようだ。


「俺、寝てたのか…。どうした?エリナ」

 僕は眠たい目を擦り、起きた。


「車掌さんに聞いたらもうすぐアルベルト王国に着くって」


「そうか」

 エリナがそう言うので準備をした。


「あれがアルベルト王国か…」

 汽車の窓からアルベルト王国が見えた。


 アルベルト王国に辿り着いたので僕達は汽車を降りた。


「凄いね」

 僕達はアルベルト王国の街を歩いた。僕達が住んでいる国とは違い、賑やかで商業が栄えていた。僕達は商店でこの国の特産品の食べ物を食べた。そして今日宿泊するホテルに辿り着き、客室を取り荷物を置いた。


「時の石のお披露目は明日の昼だから、みんな今日は観光しよう。僕はアリアを探す手がかりを見つけないといけないから別行動だけど」


「みんなで探さなくて良いの?」

 僕は皆にそう言うと、シエラは聞いた。


「ああ、良いさ。一人行動で情報収集した方が何かといいし」


「そう…」

 シエラは何だか申し訳ない気持ちになった。


「この国は安全そうだが何が起こるか分からない、一人行動は危険だ。だから皆と離れずに観光するんだぞ。水月、皆を頼んだぞ」


「任せるのじゃ」

 水月はそう言い、僕は水月にこの国の通貨の入った財布を渡した。


「シエラ、カミラ。何かあった時、戦えるのはお前達だけだ。任せたぞ」


「「分かった」」

 僕がそう言うとシエラとカミラは頷いた。


「夕食までにはこのホテルに戻るから、皆でご飯を食べながら話をしよう。じゃあ、みんな観光楽しんで!」

 僕はそう言い皆と別れた。


 僕は街で聞き込みをし、アリアの手がかりを探していた。だがそう簡単に手掛かりは見つからなかった。僕は近くの商店で買ったプラムを|齧(かじ)りながら歩いていた。



 夕方になったので僕はホテルに戻った。


 僕達、家族は食事を食べるためにホテルにあるレストランへ向かい、席に着いた。今日の夕食はバイキング形式だったので皆、好きな物を沢山、皿に載せた。僕の母はレオの面倒を見ているため、僕らは母さんとレオの分も食事を皿に盛り、持っていった。


「ハンバーグ!ハンバーグ!!」

 レオの好きな好物がハンバーグのため夕食で出てきて興奮していた。レオがハンバーグが好きなのでレオの皿に四つハンバーグを載せて上げた。


「レオ。良かったな、好きな物が出てきて」

 レオの隣の席に座っている水月はそう言い、レオの頭を撫でた。


「御代わり自由だから好きなだけ食べて良いんだよ」

 レイカはレオにそう教えた。


「やったあ。ハンバーグ食べ放題だあー」

 レオは興奮していた。


「レオ。ハンバーグも良いがデザートもあるぞ」


「どんなデザート?」

 僕がそう言うとレオは聞いた。


「シュークリームとかショートケーキ、プリンまであったぞ」


「おおー」

 レオは目を輝かせた。


「無くなるかもしれないから取ってこようか?」


「うん。シュークリム沢山食べたいから取ってきて!」

 レオは僕にそう言った。僕はシュークリームを沢山、一つの皿に盛り持ってきた。


「ありがとう、お父さん」

 レオはシュークリームを持った皿を目の前に置いて貰うと食べ始めた。


「美味しい、美味しい!!」

 レオはがっつきながら食べていた。


「流石、男の子ですね」


「可愛い」

 ルナとシエラはレオを見てそう言った。

 皆、レオの食事に対するがっつき振りを見て微笑ましかった。みんな好きな物を沢山食べた事でお腹一杯になった。



 食事を終え、みんなでお風呂に入る話となった。


「よし、みんなで一緒に風呂に入るぞ」

 僕は皆にそう言った。


「一緒にって…、もしかして」

 ルナは僕の言葉に察しがついた。


「今日は露天風呂を貸し切ったからみんなで入るぞ」


「「いやいやいや」」

 僕の言葉にみんな焦った。


「レオは僕と二人で狭苦しい男風呂に入るか、みんなで夜の景色が見える露天風呂に入るのかどっちが良い?」

 僕はレオに聞いた。


「夜の景色が見えるお風呂に入りたい」

 レオは答えた。


「ヨミ、混浴は流石に不味いでしょ」

 エリナは僕にそう言った。


「何でだ?まさか…、僕の息子が邪念を持っていると言いたいのか!」

 僕はエリナにそう言った。


「レオは良いのよ、子供だから。貴方よ、貴方!」


「お…、俺!?」

 僕はエリナの言葉に驚いた


「俺はお前達の夫だぞ。別に裸を見て興奮するのは当たり前だ」


「いや、貴方の妻である私たちは見られても良いけどレイカさんの裸を貴方に見せる訳にはいかないの」


「何でだ?」


「レイカさんは脱ぐと凄いえっちな体つきだから貴方が興奮して良くない考えをするかもしれないから、貴方は混浴に入ってはいけないの!」


「「うんうん」」

 みんなエリナの言葉に頷いていた。エリナと僕が話している中で水月が「儂は?儂もおるぞ」とアピールするがみんな聞いてなかった。


「レイカは僕の母親だぞ。母親に変な感情を持つ訳無いじゃないか」


「そうかもしれないけど、それでも駄目なの!」

 エリナ達は頷いていた。


「私は気にしないけど」

 レイカはそう皆に言った。


「ほら、母さんもそう言っているじゃないか」


「「………」」

 レイカさんの言葉でみんな黙るしか無く、僕の嫁達は納得していないようだった。


「先聞いたんだが、ここのホテルの温泉の水の色は黒いらしい。私たち女が先に入り、ヨミは後に一緒に入る。私たちが湯船に浸かっていれば温泉の色は黒いからヨミに裸を見られる心配は無い。そしてヨミは湯船に浸かった後、先に上がれば良い」

 カミラは皆にそう言った。


「「おおー」」

 皆、カミラの案に感心した。


「じゃあ、カミラの言った通りにすればヨミも一緒に入っても良いよ。分かった?」


「ああ、分かった。それでいい」

 エリナはそう言い、僕は了承した。

 僕達は貸し切りにした混浴露天風呂に入る事になった。


「じゃあ、ヨミ。二十分経ったら、着替え場に入って着替えて待っててよ。私達が身体を洗い終わったら、呼ぶから入って来て」

 僕はエリナにそう言われ、混浴露天風呂の暖簾の前で二十分が過ぎるのを待った。



 二十分が経ち、僕は暖簾を手で避け中に入り、服を脱ぎ裸になり呼び掛けが来るのを待った。


「入って良いぞ、ヨミ」

 水月の声が聞こえた。


(おお、入るか)

 僕は疑問に思う事無く、風呂に入る扉を開けた。


「なっ!!」

「あら」

 僕が扉を開けると目の前で僕の母であるレイカが自分の身体を洗っていた。僕は見てしまったレイカの色白でキメ細やかな綺麗な肌とぷにぷにしたエッチな身体つきを…。


「この変態!!」

 エリナは僕がレイカの裸を見て僕の顔が赤くなったのを見て、風呂桶を投げつけて来た。


「うがあっ!!」

 エリナが投げた風呂桶は僕の顔面に当たった。シエラとルナは僕に固形石鹸を投げてきた。 僕は扉を閉め、嫁達の攻撃を防いだ。カミラはそれを見て笑っていた。


「水月、お前やりやがったな!」


「すまんな、ヨミ。私を無視した罰じゃ」

 水月は笑っていた。


「すまん、すまん。儂が悪かった」

 水月は僕に入って良いよと言った事で僕の嫁達に頭をぐりぐりされていた。

 


 十分後…。


「ヨミ、入って良いよ」

 エリナの声が聞こえた。


「本当に大丈夫か?」

 僕は用心しながらそう聞いた。


「「入っていいよー」」

 僕の嫁達の声でそう言うので僕は扉を開け中に入った。僕は見るとみんな湯船に浸かり満喫していた。僕は早く風呂に入りたいので身体と頭を素早く洗った。


「湯加減、どんな感じだ?シエラ」

 僕はシエラに聞いた。黒い温泉だから熱そうに見えた。


「とても良いわ」

 シエラはそう言った。

 僕はゆっくりと湯船に入った。


「ああーっ。気持ち良いー」

 僕は黒い湯船に浸かり空を仰いだ。僕らは夜空を見ながら温泉を楽しんだ。



 僕らは風呂を上がり浴衣を着て、宿泊する部屋で布団を引いた。女子達はお菓子と炭酸を出し、女子会を始めた。


 僕は邪魔にならぬよう端で寝そべりながらピーナッツなどの菓子を食べていた。女子会の話は盛り上がっていた。僕は聞く耳を立てて話を聞きながら、眠りについた。


「貴方、起きて」


「ん、何だ?」

 誰かが僕を擦るので目が覚めた。


「ヨミ、歯を磨いてないでしょ。起きなさい」

 エリナにそう言われた。


「ああ、そうだ」

 電気はまだ煌々と点いていた。


「今、何時だ?」


「一時だよ」


「まだ、寝ないのか?」


「ううん、もう寝るよ」

 エリナはそう答えた。僕は起き上がり、洗面所に行き、使い捨ての歯ブラシと歯磨き粉を使

い、歯を磨いた。


「そういえば、俺は何処どこで寝れば良いんだ?」

 僕は歯を磨きながら聞いた。今日、ホテルで借りた部屋は二部屋でどっちに寝れば良いのかまだ決めてなかった。


「私とレイカさんと水月、レオは隣の部屋で寝るから貴方はこの部屋で寝て良いよ」

 エリナはそう言った。


「じゃあ、私たちは隣の部屋に行きましょ」

 レイカはそう言い、立ち上がった。


「みんな、お休み」


「「お休みなさい」」

 エリナ達は隣の部屋へと行った。

 僕は歯磨きをし終えた。


「俺はどこで寝れば良い?」

 僕はシエラ達に聞いた。


「真ん中で良いんじゃない?」

 カミラはそう言った。


「そうか。じゃあ、真ん中で寝る」

 僕の両隣にカミラとシエラが寝て、僕とルナは真ん中に寝る事になった。


「電気消すね」


「みんなお休み」


「「お休みー」」

 カミラは電気を消した。部屋は真っ暗になり、何も見えなくなった。



 ドンドンドン!!

 扉を叩く音で僕は目を覚ました。どうやらもう朝のようだ。僕は扉を開けると、エリナとレイカと水月、レオがいた。


「おはよう、眠れた?」

 エリナにそう聞かれた。


「ああ、僕はぐっすり眠れたよ」

 僕は眠たい目を擦りながらそう答えた。


「入るね」

 エリナはそう言い、エリナ達は室内に入った。


「おはようございます。エリナ」


「おはよう、ルナ」

 ルナは眠たそうにしながら挨拶した。

 シエラとカミラも起きた。


「みんな、よく寝れた?」


「「………」」

 エリナはそう聞くとエリナ以外の僕の嫁達がジト目で僕を見た。


「ヨミ、何かエッチな事みんなにしたんでしょ?」

 エリナは僕にそう言った。


「いや、してないよ。なあ、みんな」


「「………」」

 僕は疑惑を晴らそうとしたがエリナ以外の僕の嫁達は黙った。


「最っ低!!」

 エリナはそう言い、僕の顔を殴った。


「朝っぱらから殴られるのはキツいな」

 僕は吹っ飛び布団にダイブし、僕はそう言い残した。



 僕達はホテルの朝食を食べに行き、その後は各自、自由な時間を満喫した。

 お昼前になり僕達は時の石のお披露目会がある場所に向かった。


「皆様。お忙しい中、集まって下さり誠にありがとうございます」


「今日は私の博物館の開業、三十周年を祝して皆様に時の石をお披露目したいと思います」

 博物館の前で館長がそう言うと拍手が起こった。


「それでは時の石をご覧ください。これが時の石です」

 真ん中に置かれている台の上にある物は布が掛けられており、それを館長が取っ払った。


「「おおー」」

 大勢の時の石を見に来た観客はそう反応した。

 時の石は吸い込まれそうな位、美しい深い青色をしていた。


「!」

 観客の方から仮面を付けた赤髪の女性が出てきた。


「何だ、お前は」

 館長は急に現れた怪しげな者に驚いた。


「時の石を強奪するつもりか。お前達!!」

 館長がそう言うと武器を持った館長に雇われた屈強な戦士達が仮面の女の前に立ちはだかった。


「おい、お前。時の石を盗むつもりなら止めておいた方がいい、捕まったらただでは済まん」

 男はそう警告した。


「そんな事は百も承知」

 仮面の女はそう答えた。


「そうか。なら手加減はしない」

 男達は武器を構えた。


「おらあっ!!」

 男達は武器を仮面の女に振り下ろした。仮面の女は攻撃を避け、一人また一人と持っている剣で相手を倒して行った。


「そんな馬鹿な…」

 館長が雇った部下は全員、仮面の女に倒された。


「お前も戦うか?」

「ひいいいっ」

 仮面の女は館長にそう言うと館長は怯え、腰が抜け地面に尻餅ついた。


「これは貰っていく。私を追うならお前の命は無いと思え」


「わ、分かりました。どうぞ持って行って下さい」

 仮面の女は館長の首に剣の先を向けた。そして時の石を取りポケットに仕舞った。


「アリア!!」

 僕は叫んだ。そうするとアリアはこっちを見たが何も言わなかった。そして仮面を付けた女は森へ逃げていった。


「追いかけるからお前達はホテルに戻ってろ」

 僕は家族にそう言った。


「ヨミ、私たちも追いかけるわ」

 エリナはそう言い、みんな頷いた。


「分かった。エリナ達はみんなで纏まって僕の後を追ってくれ。僕は先に行く」

 僕は皆にそう言った。


「お父さん…。僕を抱っこして連れて行って」


「レオ…」


「分かった」

 レオがそう言うので僕はレオを抱きかかえた。


「僕を見失ったらホテルで集合だ、分かったな」

 僕はそう言い、レオを抱えながらアリアを追いかけた。


 僕は風魔法でレオと共に飛んだ。


「どこだ?アリア…」

 僕はアリアを見失ってしまった。


「お父さん、お母さんはあっちだよ」

 レオはそう僕に言った。


「レオ。お前、お母さんの居場所が分かるのか?」


「うん。あっちの方向にお母さんの魔力を感じる」


「そうか」

 僕はレオの言う方向に風魔法で飛んで行った。


 十分程の時間が経ち。ついにアリアを見つけた。


「待て、アリア!!」

 僕達は森を抜け広い見晴らしが良い場所に辿り着き、仮面の女は立ち止まった。


「お前、アリアなんだろ」

 僕が聞くと仮面の女は付けていた仮面を取った。


「アリア。お前は時の石で何をするつもりだ」

 僕は聞いた。


「時の石で過去へ戻り、アリサを助ける」

 アリアはそう答えた。


「アリサを助ける?お前とアリサは赤の他人なんだぞ」


「私はアリサの事でずっと苦しんでいるヨミを見ていられない。だから私は…」


「俺はお前にそんな事、頼んでいない!!」


「ああ、その通りだ。だが私の意思で決めた事だ。時の石は手に入れた。これで過去を変えられる。だから邪魔をするな」

 アリアはそう僕に言った。


「過去を変えたとしてどうする?過去を変えたらこの世界には僕は来なくなり、アリアと出会わない。レオは生まれなくなるんだぞ」

「………」

 僕は言葉を紡いだ。


「レオがノマドに首を絞められ殺されそうになった時、レオは僕を呼んだんだ『お父さん』って。生きたいって声にならない声で言ったんだ」


「アリア、お前はレオが生まれてきてどう思ったんだ?アリアがお腹を痛めてまで産んだレオは俺の小さな不幸でき消される命なのか?」


「違う、違うに決まってる」


「レオは僕とアリアに祝福されて生まれてきたんだ!!」

 僕は声を荒げてそうアリアの心に訴え掛けた。


「………」

 アリアは涙を流していた。


「レオの命が犠牲になってでも過去を変えたいのか?」

 僕はアリアに聞いた。


「違う、違う」

 アリアはレオの顔を見て色々な思いが込み上げた。


「お母さん…」

 レオがお母さんの側に行きたそうにしていたから僕はレオを地に下ろした。レオは母さんの側に歩いて行った。


「レオ!!」

 アリアはレオを抱き締めた。


「レオ、ごめん。私が間違っていた」

「お母さん…」

 レオは涙を流しながら謝る母にどうすれば良いのか分からなかった。


「お母さん、家に帰ろ」

「ああ」

 アリアはそう答えた。


「!」

「レオ!!」

 急に僕の目の前が黒い炎で真っ暗になった。アリアとレオは黒い炎に直撃した。


「なっ…」

 僕は急な出来事に何も言葉が出なかった。

 そして黒い炎は消えた。


「アリア、レオ!!」

 僕は走りアリアとレオの側に駆け寄った。


「レオは大丈夫だ」

アリアは黒い炎が来た瞬間、レオを抱き締め黒い炎から守った。アリアの身体は灰色になった。


「ヨミ、レオを頼む」

「アリア!!」

 アリアは死を悟ったのか、そう言い残し崩れ去った。


「あああっ、あああああああああ」

 僕は消えて行ったアリアを見て嘆いた。アリアは消え、時の石が地面に落ちた。僕は時の石を握りしめた。


「時の石よ、僕の思いに応えてくれ」

 僕は時の石を握りしめ強く念じた。

 時の石は光り出し、僕は過去へ戻った。


「レオ!!」

 アリアの声が聞こえた。


「!」

 僕はアリアの側に行き、黒い炎を風魔法で防いだ。


「大丈夫か?アリア」

 僕はアリアに心配し聞いた。


「ほう、それが時の石の力か…」

 黒い炎を放った一人の女が感心していた。


「お母さん」

 アリアはその女を見てそう言った。黒い炎を放ったのはアリアの母親であるライラであった。


「何で!あんたは死んだはずだ!!」

 僕は死んだはずのライラを見て驚いた。


「ああ。私は、あの時死んだ」

 ライラはそう告げた。


「お母さんはお父さんに会うために死んだはず」


「そうだ。私は夫に会うために自殺した。三途の川の前に行ったが誰も私を待っていなかった」


「そんな…」

 ライラの言葉にアリアは何も言葉が出なかった。ライラの夫はライラを待っていなかった。


「だから私は嘆き悲しみ全てを呪った。そして私は再びこの世に蘇った」


「私はその時の石で過去に戻り、人生をやり直す。そして私は夫と幸せに暮らすんだ。だから時の石を渡せ」

 ライラは僕にそう言った。


「アンタは何故、アリアとレオに向けて攻撃したんだ?」

 僕は聞いた。


「それは時の石に過去に戻る力があるかどうか試しただけだ」

 ライラは僕の問いに答えた。


「時の石に過去に戻れる力が無かったらどうするつもりだった?」


「別にどうもしない」

 ライラはそう答えた。


「アンタは自分勝手なんだよ。俺はアリアとレオを殺そうとしたお前を許さない」

 僕は怒りを抑えきれなかった。僕はアリアとレオから離れた。


「!」

 ここら一帯の地から黒色の魔力が吹き出した。この世界の空気中、地中にある無数の膨大な魔力が僕を中心に集まる。僕の身体は少し浮かび、魔力は僕に向かって流れ、包み込み、美しい深い黒色の球体となった。そして球体は割れ地面に破片が落ちた。僕の宙に浮いていた足は地面に着いた。


「暗黒再臨」

 僕はそう呟いた。先までの僕の姿は変わり、黒い鎧を身に纏い、古代の文字が刻まれた黒い首輪を身につけ、四大死宝を身に付けた姿となった。四大死宝とは死を司る四つの宝の事だ。死の聖剣:アロンダイト、死の首飾り:エンリル、死の指輪:アダト、死の首飾り:ヌトこの四つの死の宝を四大死宝と呼んだ。


 僕の眼の角膜の色は赤に変わり、瞳孔は黒く鋭く尖っていた。そして僕の左の頬に、真っ直ぐ縦に抉られた三本の黒い鮫のエラ孔のような刻印が浮かび上がった。。僕の今の姿は破滅を齎す邪悪な黒竜と呼べる位、禍々しい姿だった。


「くっくっくっ」

 ライラは僕の姿を見て笑っていた。


「その姿。まさか自分だけの専売特許だと思ってはいないだろうな」


「まさか…」


「そのまさかだよ」

 僕は察してしまった。


「暗黒再臨」

ライラがそう唱えると黒い暴風が身体を包み込んだ。そして消え、ライラの姿は僕と同じく鎧を身に纏った姿に変わった。眼の角膜の色は緑に変わり、瞳孔は黒く鋭く尖っていた。


「………」

 僕はライラに無言で近づいた。僕はライラの目の前まで歩いた。


「何だ、戦わないのか?」

 ライラは僕が何も言わずに近づき目の前に来たのでヨミが戦うのを止めたのかと思った。


「くくっ」

 ドンンンンンンッッッ!!

  僕は少し不気味な笑いを見せると僕は右手の薬指と小指を指を軽く曲げ右手を下から上に勢いよく天に突き上げた。深い黒色の六角柱状の巨大な結晶が多数出現し、連なり一つになった。


「古竜固有魔法:暗黒水晶」

 僕は不気味な笑いを見せ唱えた。深い黒色の水晶にライラは閉じ込められた。


 バリンッッ!!


緑雷結界りょくらいけっかい

 ライラは自分が捕らわれた水晶を緑雷を纏わせた結界で破壊した。水晶は割れ崩れ落ちた。


「少しでもお前に対する警戒を解いていたら死んでいた」


「いい攻撃だった。成長したな、ヨミ」

「………」

 ライラは僕を褒めた。僕は何も言わなかった。


「!」

 ライラの周りに緑雷が空気中で光るとライラは目にも留まらぬ速さで僕に近づき|鳩尾(みぞおち)に拳を打つけた。


「があああっ!!」


「私の言葉を無視するなんて随分偉くなったものだな」 

 僕は鳩尾に拳を打つけられ、両足の膝を地に突き痛みで苦しみうずくまった。


「おらあああっ!」

暗黒火爆あんこくかばく

 僕は手で空気を振り払った。そうすると振り払った方向に爆発した。ライラは後ろに素早く移動し避けた。


折角せっかく、苦しむ演技をしたのにこの攻撃を避けるのかよ」

「クソが」

 僕はそう吐き捨てた。


火羅紅からくれない

 僕は手をライラに向けた。そうすると手の前に大きな赤い火の球体が出来た。それを僕はライラに向けて放った。


「緑雷結界」

 ライラは緑雷の結界を張り、火の球体の攻撃を防いだ。結界と火の球体が打つかり合った。


「爆」

 僕はライラに向けていた。手を握りしめると赤い火の球体は爆発した。


「………、マジかよ」

 ライラのバリアは傷一つも付いていなかった。


「四方龍門」

「!」

 ライラは地面に両手を付けると僕を中心に四方に大きな門が現れた。門の中は異空間と繋がっているようだ。そして四つの門の中の歪みから黒い竜が頭を突き出し黒い炎を口から吐き出した。


「死の指輪:アダト。吸収しろ」

 僕は空に手を上げると指輪が四方の門から吹き出した黒い炎を吸収した。


「私の技を吸収するか。素晴らしい力だ。だが次に繰り出す私の大技は防げるかな?」

「古竜化」

 ライラは緑色の竜の姿になった。そして空へ飛んだ。


「全てを破壊する力をお前に打つけてやろう」

 竜の姿となったライラは口を大きく開けると口の周りに緑の閃光が走った。


「死の指輪:アダト、能力顕現。」

 僕は指輪をめている右手を自分の顔の前に出し、そう呟いた。死の指輪:アダトは相手が放った魔法を吸収し、吸収した魔力に応じて本来使えない力や武器を使えるようになる代物だ。


「暗黒彗星」

 そうすると空から沢山の暗黒の彗星が降ってきた。


「緑雷結界!!」

 ライラは力を溜めながら、自分を覆う結界を張ったが暗黒彗星が数多、結界に打つかりひびが入った。あと数発、暗黒彗星が結界に打つかれば結界は壊れ、暗黒彗星に直撃し大ダメージを受ける事になるだろう。


「くっ…」

 ライラは集めて放とうとした力を結界に注ぎ込み、防御に徹した。


「あともう少しだな…」


火祀火術かしかじゅつ火景火羅万象かけいからばんしょう火刃かじん

 バリンッッ!!

 僕は手の平を合わせ唱えた。紫の竜となったライラを中心に無数の大きく深い赤色の火の刃が出現し、紫の竜のバリアに火の刃が一斉に刺さり、バリアを突き抜け、竜の身体に火の刃が刺さった。 無数の火の刃は禍々しく深い赤色で燃えていた。


「があああああああっ」

 全ての力を防御に回しても火刃の威力には敵わなかった。

 ライラは空から地上に落ちて来て元の姿に戻った。

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