第23話 【蘇生】の勇者は退却する
いきなり姿を現した鋼鉄の巨人が、仮面の少女を攻撃した。
何が起こってるのか分からない。
少なくとも俺たちの味方ではないはずだが、仮面の少女の味方でもなさそうだ。
かと言って王女であるはずのメリアごと仮面の少女を攻撃した以上、イクシオン王国の味方でもない。
本当に何事!?
『そこにいるのは……【蘇生】の勇者様か!?』
そう言って鋼鉄の巨人の胸部が開いて、中から樽のような体型の男性が出てきた。
ドワーフだ。
「おお!! やはり間違いない!! 儂じゃ、ドワーフのジナンじゃ!!」
「……ジナン? あ、ジナンさん!?」
「そうじゃ!!」
俺はそのドワーフを知っていた。
二、三年前だったか。巨大なミミズの魔物に襲われているドワーフを助けたことがある。
それが彼、ジナンさんだ。
俺が魔王との戦いで使った武器や防具を作ってくれたドワーフの鍛冶職人である。
「どうしてここに……あ、もしかしてイクシオンの兵器を作っていたドワーフというのは!?」
「うむ、儂じゃ。お前さんの仲間だったグレインとかいうゲスに家族を人質に取られて、嫌々な」
俺は思わずグレインの死体を見下ろした。
……俺と同じくグレインも武器や防具を作ってもらっていたくせに、ジナンさんの家族を人質に取るとか。
本当に救いようのないクズだな。
「それで、あの鋼鉄の巨人は……」
「ああ、ヤマダという異世界人のアイデアで儂らが作った人型機動兵器じゃ」
「ヤマダ!? 彼がいるんですか!?」
「う、うむ。ほれ、コックピットに乗っておるのがヤマダじゃ」
鋼鉄の巨人の胸部――コックピットを見ると、そこには黒髪の少年が座っていた。
彼がシズクイシさんの言っていた……。
「ヤマダ君!!」
「ん? えっと、どちら様ですか?」
「詳しい説明は省きます!! 俺たちはシズクイシさんの頼みで君を迎えに来ました!!」
「え、シズクイシさんの?」
「はい!! 俺たちと一緒に来てもらえませんか!?」
俺の呼びかけにヤマダ君は頷いた。
「シズクイシさんが頼ってるなら悪い人じゃないよね!! お世話になりまーす!!」
「……異世界人って、思い切りのいい人が多いのかな」
「え? 何の話です?」
タカナシさんといいヤマダ君といい、人を疑うことを知らなさすぎて心配になる。
と、その時だった。
「驚いた、ナ。知らない間にそんなものを作ってるなんて、ネ」
人型機動兵器の銃撃によって舞っていた土煙が晴れると、そこには依然変わらぬ様子で仮面の少女が立っていた。
その後ろには腰を抜かして股間をびしょびしょにしているメリアの姿もある。
……まじかよ。
さっきの攻撃は戦車の大砲よりも遥かに威力があった。
それを不意打ちで食らって平気なのか!?
「馬鹿な!! 僕の『レッドライン』の攻撃が効いていないだって!? こうなったらパイルバンカーで――」
「ヤマダ君!! 何をしようとしてるのか分からないけど、彼女を刺激しないでください!! 下手したらこっちが全滅しますから!!」
「えー? パイルバンカー、試したいんですけど」
「今のやり取りで何となく分かりました!! 君、さては【畑】の勇者と同じで自分のやりたいことを優先するタイプの人間だな!!」
「HAHAHA、ちょっと何言ってんのか分かんないですね」
「笑って誤魔化さないでください!!」
とてもまずい状況だ。
もしも今の攻撃で仮面の少女がその気になっていたら、こっちが全滅してしまう。
そう思ったのだが……。
「何でもいいから、早く帰ってもらえないか、ナ」
「えっ」
仮面の少女は特に何も行動を起こすことはなく、面倒臭そうに欠伸していた。
「……俺たちを見逃がすのか?」
「さっきも言ったけど、私は君たちを追い払うのが役目だから、ネ。まあ、あと五分以内に立ち去らないなら――皆殺しにする、ヨ」
「っ」
再び仮面の少女から放たれる殺気。
シレスタたちを蘇生しないといけないし、ここで全滅するのは避けたい。
「ヤマダ君、ジナンさん、俺たちに付いてきてください」
「せめてパイルバンカーだけでも試させて――」
「【蘇生】の勇者様の言う通りにせい、バカモン!!」
「痛っ、グーで殴らないでくださいよ!!」
「ロコロさんは皆の死体の運搬を」
「了解したよ、リーダー」
俺たちは王城から脱出し、そのまま王都から退却するのであった。
それから王都の外で第一部隊、第二部隊と合流した俺たちは、リザレック勇国を目指して移動を開始していた。
その道すがら情報を共有する。
結論から言うと、第一部隊と第二部隊では特に死者は出なかったようだ。
第一部隊は予定通りに王都の各所で暴れて兵士たちの注意を集め、第二部隊は兵器工場を破壊した後、そこで働くドワーフたちを拐った。
偶然にも第一部隊が工場で働かされていたドワーフたちの家族を発見したのは幸運だったな。
気になるのは仮面の少女だ。
兵器工場を破壊する第二部隊の前には姿を現さないで、仮面の少女はメリアを拐おうとしていた俺たちの前に出張ってきた。
王都から俺たちを追い払うと言っていたが、実際はメリアの保護が目的だった……?
『嘘吐きの王女と裏切りの戦士は真っ先に始末しとくといいよ。逃がすと面倒なことになるからね』
ふと王都の路地裏で声をかけてきた老婆の言葉を思い出す。
……いや、兵器工場は破壊した。
何よりその兵器を作る上で重要なヤマダ君やドワーフはこちらの手の中だ。
きっと大丈夫なはず。
「なるほどねぇ、僕らが暴れてる間にお城の方じゃそないなことが起こってたんか。大変やったねぇ」
第一部隊を率いていた【不死】の勇者、イルタルさんが同情の声を漏らす。
しかし、それも一瞬だった。
「ところでリーダー、一つ聞いてもええか?」
「何です、イルタルさん?」
「何がどうなったらそないな羨ましい状況になってるん? モテへん僕への当て付けか?」
「いや、俺も何が何だか……」
イルタルさんが悔し涙を流しているのは、俺の腕に抱き着いている美少女――タカナシさんが理由だ。
「怖かったー♡ エルちー、慰めてー?」
「あ、あの、タカナシさん。何度も言ってますが、胸が当たってます……」
「えー? あーし、そういうのよく分かんなーい」
ぱふんっ♡ むにゅ♡ ぷるるんっ♡
タカナシさんが大きな胸を押し付けてきて、その感触が伝わってくる。
ハッキリ言おう。とてもエッチだ。
シレスタが日常的に胸を揉まないか聞いてくるので耐性が付いていると思ったが、意外とそうでもなかった。
冷静に考えてみれば、ここまで積極的に胸を押し付けられるのは初めての体験だ。
どうすればいいのか分からなくて困惑する。
「タカナシ、ぼくを差し置いてお兄さんとイチャイチャするのは許さない」
ふにゅ♡ ぱふっ♡ ぷるんっ♡
しかもシレスタも対抗して、反対側の腕に抱き着いてくる始末。
いつもより積極的だ。
「やば、あーしの彼ピめっちゃモテモテじゃん」
「嬢ちゃん、やめときやめとき。リーダーは競争率高いで。どや? 僕で我慢してみぃへんか?」
「顔が好みじゃないから遠慮しとく」
「ぐはっ!!」
タカナシさんの即答に膝から崩れ落ちるイルタルさん。
「お、男は顔やないで!! 中身や!! 顔なんてすぐ飽きるで!!」
「好きになった切っ掛けが顔ってだけだし。あーしもうエルちーのいいとこめっちゃ見つけたもん。面倒見がいいところとか、うぶなところとか」
「ん。タカナシは見る目がある」
「アカン、嫉妬で狂いそうや。ロコロもそう思うやろ?」
「そこで僕に同意を求めてくる理由が分からないけど……まあ、実際にリーダーは周りをよく見てるからね。癖の強い勇者もリーダーの言葉なら割と聞くし」
「て、照れ臭いのでやめてください」
しばらく同じような話題が続き、むず痒くて仕方なかった。
と、その時。
「あ、エルオットさん。ちょっといいですか?」
「ん? どうしました、ヤマダ君」
「いえ、付かぬことをお伺いしますが、リザレックにお風呂ってあります?」
「え?」
お風呂?
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント勇者紹介
【不死】の勇者イルタル
どことなく胡散臭い雰囲気と訛った話し方で人から疑われやすい人物。生前は真面目に魔王討伐をしていたが、胡散臭いという理由で処刑されてしまった実はめちゃくちゃ可哀想な人。なお、本人は至って善良で悪いことは何一つ考えておらず、いつか美人なお姉さんとお付き合いして幸せな家庭を築きたいと思っている。【愛】の勇者の容姿がドストライクだが、アレなので普通に無理。
次回はお風呂回か!! と思ったら★★★ください。
「山田パイル好きすぎやろ」「小鳥遊と張り合うシレスタかわいい」「イルタル可哀想すぎやろ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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