第18話 【蘇生】の勇者は友と語らう
俺はノエルに全てを話した。
すると、彼は激昂してドンとテーブルを叩き、イクシオン王国に対する悪態を吐いた。
「あの糞王国め!! 前々からやり方が気に入らなかったが、やはりエルオットの処刑には裏があったか!!」
「前々から?」
「……もう隠す必要もないか」
首を傾げる俺に、ノエルはワイバーンの群れを討伐した後の出来事を語った。
「イクシオン王国は『我が国の支援する勇者が活躍した』と言ってバンデルトに法外な報酬を要求してきたのだ」
「なっ」
俺は絶句した。いや、理屈の上では分かる。
自国の支援する勇者が他国を救ったなら、多少なりとも報酬を要求して当然だ。
でも……。
「イクシオンはロクな支援とかしてないぞ!! 棒切れ一本と一晩宿で泊まれるだけの金しか貰ってない!!」
あの頃はまだ子供だったし、何より魔物への憎悪と復讐心があったから細かいことは気にしなかった。
とにかく魔物への殺意で頭がいっぱいだった。
生活費や武器や防具にかかった費用は魔物討伐の報酬で得たお金で賄っていたのだ。
それを『我が国の支援する勇者が活躍した』と言い張った挙げ句、復興に資金が必要な国から法外な報酬をむしり取ったと?
イクシオン王国、外道すぎるぞ!!
「その反応、やはり知らなかったか。王国が貴殿に話せばただでは済まさないと脅してきた時に、薄々察してはいたが」
「す、すまない、全然知らなかった……」
「いや、イクシオン王国は情報操作に秀でているからな。何かと鈍感な上、政治面には欠片も興味がない貴殿では気付かないだろうよ」
耳の痛い話だ。
俺は魔王討伐のために『成長』するため、世界各地を巡って暴れている魔物を倒して回っていた時期がある。
もしかしたらその時に立ち寄った村や町にもイクシオン王国は対価を要求していたのでないか。
そう考えると、魔物を倒して終わったつもりでいた自分が滑稽に思えてくる。
もっと政治に興味を持ってイクシオン王国の動きを把握していたら、違う結果だったかも知れないのに。
「俺は勇者としても、人としてもダメだな」
「気に病むな。他者の不幸を食い物にするイクシオンの連中が悪いのであって、貴殿のしたことは紛れもない人助けだ」
「……はは、ありがとう」
ノエルは落ち込む俺を見て焦ったのか、続けて言葉を紡いだ。
「そ、そうだ!! 我が国に貴殿が本当に罪を犯したと思っている者はいない!! そこも気に病まなくていいからな!!」
「……それは、嬉しいな」
「まあ、いたら私が半殺しにしているだけだが」
「そ、それはやめろ。お前の評判に関わるぞ」
「ハハハ!! 跡継ぎは私しかいないからな、いずれ公国の支配者になることは決まっている。評判も糞もないから安心しろ」
ちっとも安心できないが。
ノエルが笑い、俺も釣られて笑った後、彼は努めて真剣な声音で呟いた。
「しかし、強くなりすぎたら困るなどという理由で貴殿を貶めたイクシオンをどうしてくれようか」
「言っておくが、妙な真似はしないでくれよ?」
「ほう、貴殿は私に我が国の恩人を侮辱されて黙っていろとでも言うつもりか」
「その通りだ。俺の復讐に友人を巻き込むわけにはいかない。そもそもバンデルト公国が俺たちに味方したところで大して変わらない。国力が違う」
「ハッキリ言うではないか。これでも愛国心はある方なので傷付くぞ」
「……さっきのバンデルト公国軍を見たら、な」
「……まあ、うむ。無理もない」
ノエルもバンデルト公国軍について少し問題視しているようだった。
どうやら先のワイバーンの襲撃で腕の立つ兵士は軒並み亡くなってしまったそうだ。
その穴埋めで兵士を募ったはいいものの、その大半が食うに困って食事や給金目当てに集まっただけらしい。
訓練は真面目に取り組むそうだが、いざ実戦となると物怖じしてしまう兵士ばかりで困っているとのこと。
「今回の遠征も、イクシオン王国から被害を聞いただけで震え上がる者が多くてな」
「そうなのか。……というか、どうしてここに?」
「ああ、その話を忘れていたな。実はイクシオン王国がバンデルト公国に『謎の塔を包囲して出てきた人型の魔物を倒せ』と命令してきたのだ。イクシオンに無理だった相手を我々がどうこうできるはずもなかろうに」
「時間稼ぎ、か。それにしても、よくイクシオン王国軍の先遣隊を壊滅させた話を聞いて従おうと思ったな」
「件の報酬の未払い分を払わなくていいと言われて出撃したら、貴殿と再会したというわけだな」
ああ、なるほど。
それなら貧困に喘いでいるバンデルトが多少の無茶をしても出撃するわけだ。
……ところで人型の魔物とは、シレスタのことだろうか。
「話が逸れたな。たしかに我がバンデルト公国は弱小国と言ってもいい。武力ではまずイクシオンに太刀打ちできないだろうな」
「だったら――」
「だがな、エルオット。今まで他国の侵略を受けなかった理由を知っているか?」
「……大国の属国だからじゃないの?」
「む。貴殿はたしか……シレスタ殿だったな。たしかにそれも間違いではない」
シレスタがお茶の入ったコップを俺とノエルの前に置き、会話に割り込む。
ノエルは器用に兜の隙間からお茶を啜った。
「む、美味いな。シレスタ殿、この茶葉は?」
「【畑】の勇者がその辺の雑草を適当に品種改良して作った葉っぱのお茶」
「……勇者が大勢いると凄まじいな」
ノエルはお茶を一気に飲み干して、兜の奥で不敵に笑った。
「たしかにバンデルトがイクシオンの属国だった影響もある。だが、我々は常に情報で戦っているのだよ」
「情報?」
「かつて我が国の領土を狙う国があった。なので我が国は他国にその国の地理的弱点や政治的問題を暴露したり、わざと内乱が起こるようにして破滅させた」
「バンデルト怖っ」
「情報で戦うとはこういうことだ。エルオットの知りたいことも、我が国の情報部ならば調べられるだろう」
「……それなら、俺が殺した魔王の遺体がどこにあるか分かるか?」
「ふむ? 一ヶ月あれば分かるだろう」
俺はイクシオン王国への復讐以上に、殺した魔王に謝罪がしたいのだ。
しかし、俺は魔王の遺体がどこにあるかを知らない。
もしその行方が分かるなら、これ以上嬉しいことはない。
俺はノエルに頭を下げた。
「なら、頼む」
「……魔王の遺体を探す理由は分からんが、友の頼みだ。承った」
と、その時だった。
「おーい、エルオット氏ぃー!! 大変ですぞー!! ぬおっ!?」
「イムルさん? 何か――うわっ!?」
「うぐぐぐ」
イムルさんが慌てた様子で走ってきたのだが、何もないところで躓き、凄まじい勢いで俺にタックルしてきた。
むにゅ♡ ぶるんっ♡ ぱふぱふ♡
イムルさんが転んだ拍子に彼女の豊かな胸が俺の顔に押し付けられる。
……柔らかい。いや、そうじゃない!!
「ちょ、イ、イムルさん!?」
「し、失礼しましたぞ、エルオット氏。あ、エルオット氏にはラッキースケベでしたかな?」
「言ってないで早く退いてください!!」
「……イムル、そこから動かないで。お兄さんを誘惑するその両乳を千切り取る」
「んぎゃあっ!! シレスタ氏!? ち、千切れますぞ!! 本当にジブンの乳を引っ張るのはやめてほしいですぞ!!」
シレスタが無表情のまま青筋を浮かべ、イムルさんの乳をもぎ取ろうと襲いかかる。
「で、何かあったんですか?」
「はっ、そうでしたぞ!! 塔の周囲に作る街を畑にするか森にするかで【畑】の勇者と【森】の勇者が人喰いキャベツと人面ヒノキを使って戦争をおっ始めましたぞ!!」
「どういう状況ですか!? というか街に畑と森はおかしいでしょう!!」
「ツッコミはもっともですが、ガチバトルしてるのでさっさと止めてほしいですぞ!!」
「イムル、油断大敵。大丈夫、もしおっぱい千切って死んだらお兄さんに蘇生してもらう」
「んぐおほおっ♡ ちょ、先っぽは駄目ですぞ!!」
追うシレスタと逃げるイムルさん、二人を見ながら器用に兜の隙間から静かにお茶を啜ってほっこりしているノエル。
俺は【畑】の勇者と【森】の勇者の喧嘩を仲裁するため、混沌としてきたこの場を後にした。
……この時の俺は知らなかった。
イクシオン王国の王都で【愛】の勇者の思想に感染した人々が革命を起こしていることを。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイントモブ勇者紹介
【畑】の勇者(Part2)
何度も『成長』を繰り返した結果、【畑】の能力が進化した。自由に植物を品種改良することができるようになり、人喰い野菜も作れるように。やってることはほぼ遺伝子操作。ちなみに人喰い野菜は瑞々しい上に栄養満点で好評。食べるためには討伐が必要なのが難点。現在は空飛ぶタマネギを開発中。
【森】の勇者(女)
草木を操作できる【森】の力の持ち主。とても穏やかな人物だが、自然を壊して土地を全て畑にしようとする【畑】の勇者とは折り合いが悪い(と周囲には思われているが、実際は……)。中性的な外見をしており、一部の女勇者から熱烈な支持がある。実はエルフ。胸の大きすぎて肩凝りがひどいのが最近の悩み事。
作者の承認欲求が爆発してきたので面白いと思ったら★★★ください。
「イムルがもがれそうで草」「ラッキースケベ助かる」「あとがきに情報詰め込むのやめろ笑」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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