第12話 【蘇生】の勇者は異世界少女を奈落に連れて行く




 シズクイシさんから話を聞いた俺は押し黙った。


 異世界人の知識から作った武器で世界征服を目論む王女の糞っぷりにも驚いたが、俺が驚いたのは聖女ニアのことだ。


 俺を裏切ったあの女がシズクイシさんを逃がしたという事実が信じられない。


 何が目的なのだろうか。


 まさか本当に俺を裏切ったことへの贖罪? だったら最初から裏切るなという話だ。

 なら、やむを得ない理由があってああするしかなかったのだとしたら?



「お兄さん? 大丈夫?」


「え? あ、ああ、はい。大丈夫です」



 いや、揺らぐな。


 例え何か理由があったとしても、あの女も俺を裏切った敵だ。


 イクシオン王国もろとも滅ぼす決定は覆らない。

 ……ただ、その前に事情だけは聞いておくべきだろう。



「シズクイシさん、もしよかったら我々と共に来ませんか?」


「え?」


「俺は、とある事情から王国が憎い。あの国は必ず滅ぼします。その際、貴女の友人たちを助けることもできるかも知れません」


「お、お願いしますっ!! 雪乃も茜も、山田君もちょっと煽てられて調子に乗ってるだけで悪い人ではないんです!! 皆、王国が何を企んでるのか知らないだけで……」



 きっとシズクイシさんは、同郷の三人のことが大切なのだろう。


 その思いを踏みにじってはならない。



「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。俺は【蘇生】の勇者、エルオット。こっちは――」


「ぼくは【斬撃】の勇者、シレスタ」


「あたしはメイメイ。【猫】の勇者よ」


「オレは【解析】の勇者ライシスだ。異世界人、少し身体を診させろ。異世界の人間がこちらの人間とどう違うのか知りたい」


「我は偉大なるエルオット王に仕える者、ゾナ。よろしくお願いします、異世界淫乱ポニテ」


「エルオットさん、シレスタさん、メイメイさんに、ライシスさんとゾナさん……覚えました!!」



 シズクイシさんは俺たちの名前を何度も繰り返し、笑顔でそう言った。



「えーと、名前を覚えてもらったところ恐縮ですが。これから俺たちのアジトというか、拠点というか、そこにいる仲間たちも紹介したいので一緒に来てもらえますか?」


「あ、はい!! こう見えてもクラスメイトの名前は一日で覚えられるくらいには記憶力いいですから!!」


「……百人くらいいます」


「え?」



 俺たちは族長に一言断ってから、シズクイシさんを奈落の底に連れて行った。


 奈落に繋がる転移魔法陣には女神様の魔法で近づけないと聞いたが、俺たちが一緒なら関係ないらしい。


 勇者たちはシズクイシさんを歓迎した。



「ワタシ、ドラン!! 【竜】の勇者なのだ!! よろしくなのだ!!」


「【陰】の勇者……シャドーです。ふひっ、あ、すみません。笑い方キモくてすみません」


「やあやあ、異世界から遠路はるばる大変だったね!! 僕は【太陽】の勇者、サン!! 勇者さんじゃないよ!! サンだよ!!」


「あらやだ可愛い女の子!! アタシ、こう見えても【乙女】の勇者なの!! 名前はエリザベスよ!!」


「【翼】の勇者、ウィンだ。趣味は空を飛ぶこと、好きなことは空から敵に石を投げることだ」


「俺は――」



 勇者たちの怒涛の自己紹介にシズクイシさんは目を回していた。



「お、多い……勇者って普通、一人じゃないんですか?」


「俺が一日に一人生き返らせてるので……これからもじゃんじゃん増える予定です」


「お、覚えられないです!!」



 嘆くシズクイシさん。


 しかし、敵に『銃』という強大な武器があり、他にも『戦闘機』や『戦車』という兵器があるかも知れない以上、戦力の補充は必須。


 生き返らせた勇者が全員協力してくれるわけではないならとにかく数を蘇生せねばならない。


 ……対処法が少し脳筋すぎるだろうか。



「ところでエルオットさん、あれは何を?」


「ん?」



 シズクイシさんがふと指差した先では、ティアラさんと数人の勇者が何か作業をしていた。



「……何やってんですかね?」


「なんでエルオットさんが知らないんですか!?」


「お、俺だって全部把握してるわけじゃないですよ!! そもそも勇者って趣味に走る人が多くて突拍子もないことする人ばかりですし!!」



 こう言っては申し訳ないが、たまに奈落に追放されたのが妥当ではないかと思える勇者がいる。


 誰も彼も、決して悪い人ではないのだ。


 ただ趣味が傍迷惑というか、そういうのが普通とは少し違う人がいる。


 取り敢えず何をしているのか把握するために、俺は大岩を運搬している真っ最中のティアラさんに声をかけた。



「ティアラさん、これは何をしてるんですか?」


「あ、エルオットさん!! えっと、実はわたしもよく分からなくて……何もすることがなかったので石の数を数えてたら『暇なら手伝って』ってラビュリンさんに言われて」


「……ラビュリンさんに?」



 ラビュリンさんというのは【迷宮】の勇者だ。


 俺たちの活動拠点である要塞を作った【城】の勇者同様に、無から物体を創造できる強力な力を持った勇者である。


 『悪逆の竜』を討伐する直前に生き返らせたので戦闘力はあまり高くないが……。


 その時だった。


 俺の腰に誰かの手がポンと置かれて、鼓膜が破れそうになるくらい大きな声が響く。



「やあやあやあやあ!! エルオット君!! 私のことを呼んだかね!!」


「っ、あ、ラビュリンさん」



 後ろに振り向くと、そこには目をキラキラと輝かせた美少女が立っていた。

 メイメイさんよりも更に小さい、十歳にも満たない女の子だ。



「実は今、ある計画を立てていてね!!」


「計画?」


「この奈落を迷宮、即ちダンジョンにしてしまう計画だよ!!」


「……何故に?」


「これからイクシオン王国と戦争をするならば、我々も本格的に国を作らねばならない!! そのためにこの『奈落』を!! 『大穴』を巨大なダンジョンを作り変える!! ここを都として大国を作るのだよ!! ああ、安心したまえ。私はダンジョンが作りたいだけだからね。王様は君だ!!」



 さ、最後に本音が漏れてる!!


 しかし、俺の心の中のツッコミなど欠片も知らないでラビュリンさんの考えに賛同する者がいた。


 ゾナさんだ。



「素晴らしいお考えです。女神様のお許しなく地上を支配して王を気取る反逆者どもを滅ぼし、エルオット王を真の王にする……。この地を都とするのも名案です」


「おや!! 君は話が分かるね!! どれ、ダンジョンの都――いわば迷都を作るためのアイデアがほしい!! 君の意見を聞かせてくれたまえ!!」



 意気投合したラビュリンさんとゾナさんが歩きながら奈落のダンジョン化について話し始める。








 問題はその翌日だった。


 たった一日でラビュリンさんはダンジョンを完成させてしまったらしい。


 昨日まで『大穴』があったはずの場所には天をも貫く巨大な塔がそびえ立ち、凄まじい存在感を放っていた。



「なんじゃこりゃあっ!?」


「いやはや、【城】の勇者の協力もあって一晩で完成してしまったよ!! 頑張った甲斐があったね!!」



 ラビュリンさんがホクホク顔で言う。


 勇者の力は絶大だが、何事にも限度はあるべきだと俺は思った。


 しかし、ありがたくも思う。


 イクシオン王国は大陸の半分近くを統治している大国だ。


 相手にするなら、相応の準備が必要だった。


 しかも塔の部分は殺意マシマシの罠が山ほど仕掛けてあるにも関わらず、最上部まで辿り着いたところで何もないただのダミーだ。


 本拠地である最下層まで敵が辿り着くには多大な犠牲が必要だろう。



「……これならイクシオン王国との戦いに備えられますけど……」


「これほど目立つ塔、絶対にイクシオン王国の方から仕掛けてくるでしょうな!! エルオット氏、ガンバですぞ!!」


「その時はぼくが敵を迎え撃つから大丈夫だよ、お兄さん」



 そして、予想は的中した。


 塔が完成してから三ヶ月後、イクシオン王国軍が攻めてきたのだ。









―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントモブ勇者紹介

【迷宮】の勇者ラビュリン

かつて世界各地にダンジョンを作りまくっていた勇者。享楽的な性格で、当時の魔王とダンジョンの話で盛り上がって意気投合し、人類を裏切った。本人曰く「有象無象の人類のために戦うよりも友人とダンジョン作る方が楽しいから」とのこと。なお、本人に人類を裏切った自覚はない。見た目は十歳児だが、実年齢はアラサー。メイメイからは貧しき仲間と思われている(ここ重要)。



十歳児の外見でアラサーは性癖極まってると思ったら★★★ください。



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