第10話 【蘇生】の勇者は死者を蘇らせる
王国兵を全て始末した後。
襲われていた集落の族長と思われる年老いた獣人が話しかけてきた。
「見知らぬ方々、お陰で助かりました」
そう言って深々とお辞儀する族長。
俺たちの目の色を見て勇者だとは気付いているはずだが……。
わざわざ『見知らぬ方々』と言っている辺り、気を遣ってくれているのだろう。
「……たまたま通りかかっただけです。気にしないでください」
「そういうわけには参りませぬ。貧しい集落ゆえ、大したお礼もできませぬが、どうか受け取ってくだされ」
「これは……」
族長が渡してきたのはお金の入った袋だった。
「受け取れません。どうか集落の復興資金に回してください」
「そう仰らずに」
「いえ、お礼がほしくて助太刀したわけではありませんから」
「まあまあ、取り敢えず受け取ってもらって」
「いえ、本当にいいので!! ちょ、しつこい!!」
俺と族長がお金を受け取る受け取らないの話で押し問答していると、何やら集落の広場で生き残った獣人たちが騒いでいるようだった。
何事かと様子を見に行く。
「お母さんっ、お母さん起きてよぉ!!」
「フェイ、お前の母さんはもう……」
「やだやだ!! お母さんっ!! お母さんっ!!」
そこには母の亡骸に泣きじゃくりながら縋り付く少女の姿があった。
どうやら王国兵によって母親を殺されてしまったらしい。
「少しいいかな?」
「っ、やだ!! 人間がお母さんに近づかないで!!」
「こ、こら、フェイ!! 申し訳ありませぬ、旅の御方……」
「どうして族長が謝るの!! 人間がお母さんのこと殺したんだよ!!」
「お前の母を殺した奴らとこちらの御方は別じゃ。分かりなさい」
「うっ、うわああああんっ!!」
子供にとっては俺も王国兵も同じ人間だ。
俺が故郷を滅ぼした魔物を恨み、その憎しみを全く関係のない魔王に向けていたことと何も変わらない。
そのせいか、泣きじゃくる少女を見ていると胸が痛くて仕方がなかった。
「フェイちゃん、泣かないでほしい。君のお母さんを生き返らせるから」
「え?」
俺は困惑する少女の隙を突いて、少女の母親の身体に触れる。
「【蘇生】」
「「「「「え?」」」」」
俺は少女の母親の亡骸に触れ、蘇生した。
少女の母親の身体が一瞬だけ眩しい光を放ち、ビクンと跳ねる。
やがて、少女の母親がゆっくり目を開いた。
「あ、あら? 私は、どうなって……」
「お、お母さん!? お母さん!!」
「きゃっ、フェイ!?」
「お母さん!! お母さんお母さん!!」
少女が大泣きしながら母親に抱きつく。
「ありがとう、お兄ちゃん!! お母さんを生き返らせてくれて!!」
「……どういたしまして。他に殺された者がいたら連れてきてくれ。俺が全員生き返らせよう」
俺の言葉にハッとした獣人たちが、慌てた様子で王国兵に殺された者たちを集落の広場に集めてきた。
俺はその全てを蘇生した。
獣人たちは同族の復活を喜び、次々と俺に感謝の言葉を述べる。
「お兄ちゃんすごい!! お兄ちゃんはどんな人でも生き返らせることができるの!?」
「うーん、どんな人でもってわけではないかな」
「そうなの?」
「そうだよ。お葬式でお別れをしていない人にしか効果がないんだ」
「へぇー!!」
死者を蘇らせる【蘇生】は神の如き力のように思えるが、実は色々と条件がある。
その一つが魂の有無だ。
死体には魂が宿り、遺族を始めとした生者がしっかり埋葬して冥福を祈ることで天界の女神のもとへ還っていく。
そうして魂のなくなった死体を生き返らせることはできないのだ。
「お兄さんの力にそんな制約が……」
「じゃあ、あたしたちがしっかり埋葬されてたら蘇生できなかったのね」
「そうなります」
もしイクシオン王国に自分たちで嵌めた勇者を心から弔う矛盾した精神があれば、俺は奈落から出られなかっただろう。
「今宵は宴じゃあ!! 勇――ゴホン、旅の御方も是非!!」
「え? ええと、俺たちは……」
「これほどの大恩を受けて何もせず皆様を帰しては我ら猫人族永遠の恥!! 我らの祖先、【猫】の勇者様に顔向けできませぬ!!」
「「「ぶっ」」」
「な、何笑ってんのよ!!」
思わぬ単語が出てきて俺とシレスタ、ゾナさんが吹き出してしまった。
唯一、メイメイさんだけはツンツンしながら顔を赤くしている。
別におかしなことではない。
たしかにメイメイさんはあらぬ罪を着せられて奈落の底に追放された。
それ故に表沙汰にはできなくても、彼女が過去に成し遂げた偉業を現在までこっそり伝えていることがあっても不思議ではないだろう。
それにしても、族長から思わぬお誘いだ。
奈落で待っているイムルさんやティアラさんには申し訳ないが、一足先に地上の食事を満喫させてもらうことに。
「先日狩ったレッドボアです。冬備えのために塩漬けにする予定でしたが、また獲ればいいので今宵は奮発します!!」
そう言って族長が持ってきたのは、大きな猪の魔物の丸焼きだった。
表面がカリカリになるまで焼いた肉の香ばしい匂いが食欲を刺激してくる。
シレスタやメイメイさんも涎を垂らしていた。
「ん、お兄さん見て!! 美味しそう!!」
「な、奈落で食べた蟲肉に比べたらとんでもないご馳走だわ!!」
「そうですね!! 早速頂きましょう!!」
「王の分は我がよそいしましょう」
そうして俺たちは獣人たちが用意したご馳走を頬張った。
……あれ?
「どんどん肉汁が溢れてくる……ッ!! お兄さん、これ美味しい!!」
「なんだか懐かしい味がするわ」
「ふむ、ただ焼いただけではありませんね。いくつかの香草を練り混ぜたもので獣臭さを消しているようです」
ご馳走に舌鼓を打つシレスタたちを横目に、俺はもう一度肉を頬張る。
やっぱり、何も味がしない……。
いや、シレスタたちの反応を見るに、獣人たちが用意したレッドボアの肉はとても美味しいのだろう。
しかし、いくら食べても味がしなかった。
奈落の魔物飯に慣れすぎて味覚がぶっ壊れてしまったのだろうか。
「王よ、如何なさいましたか?」
「あ、ああ、いえ、なんでもないです。美味しいですね」
俺は誤魔化すように笑い、味のしないレッドボアの肉を完食した。
あ、そうだ。
「族長、一つだけ教えてもらいたいことがありまして」
「申し訳ありませんが、次の肉のご用意には時間がかかります……」
「おかわりの要求じゃないです!!」
俺は族長に真面目な話をする。
「この集落を襲った奴らは、イクシオン王国の兵士です」
「ええ、あの鎧や兜の印は間違いないでしょうな」
「奴らが攻めてきた理由は分かりますか?」
「……こちらへ」
俺の質問に族長が雰囲気を変え、集落の端にある小さな小屋に向かう。
少し埃を被ってはいるが、手入れの行き届いた小屋だった。
集落の物置小屋、だろうか。
「今から数日前、珍しい出で立ちの少女がイクシオン王国から逃げてきたというので匿っていたのです」
「珍しい出で立ちの少女?」
「ええ、何でも別の世界からやってきたとか」
族長が扉を開けると、小屋の中には小さなベッドがあった。
そのベッドに少女が横たわっている。
艶のある長い黒髪をポニーテールにした、非常に整った顔立ちの少女だ。
少し土で汚れているが、その格好はたしかに貴族が着るような上質なものでスカートの丈がとても短い。
「……別の世界?」
「名はシズクイシ・ユカリ。本人曰く、異世界人だそうです」
異世界人……?
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
どこがとは言わないが、シズクイシは大きい。背の低いメイメイの後ろに立つと頭の上に乗る。
ちなみにゾナのものもメイメイの頭の上に乗る大きさ。
あとがき想像したらエッと思ったら作者のやる気がアップするので★★★ください。
「【蘇生】がチートすぎる」「味がしないの不穏……」「ここでシズクイシと合流か!!」と思ったら、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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