第6話 【蘇生】の勇者はリーダーの座に収まる





 奈落に落ちてから一ヶ月が経った。



「はあっ!!!!」


「ぐるあっ!!」



 俺は今、初日に何百回と俺を殺してきた狼と互角に戦っている。


 シレスタが仕留めた奈落の魔物の素材を使って作った骨の棍棒や革鎧を着ているお陰か、それとも俺自身が強くなったのか。


 どちらにせよ、俺が一方的にやられることはなくなっていた。



「グルアッ!!」


「ぐっ」



 狼の鋭い爪が俺の脇腹を軽く切り裂くが、その攻撃に合わせて狼の脳天に棍棒で一撃を加える。


 かなりいい当たり方をしたようで、狼はしばらくふらふらした後、そのまま頭から血を流して倒れてしまった。


 脳震盪を起こしたのだろう。


 俺は念入りに狼の頭を棍棒で殴り潰して、確実にその命を奪った。


 次の瞬間、身体がふわっと軽くなる。


 勇者が魔物を倒した時、たまに起こる肉体の『成長』だ。

 一度の成長で得られる力は微々たるものだが、これを何十、何百回と繰り返すことで勇者は少しずつ強くなっていくのだ。



「お兄さん、前より動きがよくなったね」


「え? そ、そうですか?」



 狼を一匹殺すだけでも息が上がっている俺にシレスタが涼しい顔で話しかけてくる。

 その背後には彼女が仕留めたであろう、数十匹の狼の亡骸があった。



「相変わらずシレスタは凄いですね」


「……ぼくは弱いからね。もっともっと強くならなきゃ」


「いや、あの、落ち込まないでください……」



 表情はあまり変わらないが、シレスタは誰が見ても分かるくらいテンションが低かった。


 というのも――



「ギャハ、ギャハハハハハ!! どーしたぁ!! この糞蟲がァッ!! んななまっちょろい攻撃でこの【殺戮】の勇者を討ち取れるかよォッ!!」



 俺とシレスタから少し離れたところで、一人の青年が体長数十メートルはあろうかという巨大なミミズの魔物と戦っていた。


 しかも武器とか使わないで、拳で一方的にミミズを叩きのめしている。


 勇者の証である黄金の瞳を持っているが、ボサボサの髪を振り乱しながら凶悪な笑みを浮かべて戦う姿はまさに悪魔。


 シレスタはその青年を睨みながら呟いた。



「……もうロコロには負けない」



 青年の名前はロコロ。


 【殺戮】という敵を殺せばほど強くなる力の持ち主で、俺が蘇生した勇者の中でもダントツの戦闘力の持ち主だ。


 正直に言わせてください。


 とても怖い。いや、見た目は好青年で普段は何ともないのだ。


 むしろ平時は常に冷静でこちらが事情を説明する前に状況を把握し、向こうから協力を申し出てくるくらいには理性的で優しそうな人だった。


 しかし、いざ戦闘になると人が変わったように嬉々として魔物に襲いかかるのだ。



「ギャハハハハハ!! ……っと、僕が一番時間がかかってしまったようだね。ごめんごめん」


「……絶対に負けない」


「はて? 僕とシレスタ嬢は何か勝負していたかな……?」



 一方的に彼をライバル視しているシレスタに首を傾げるロコロさん。

 俺はシレスタがロコロさんに勝負を吹っ掛ける前に提案する。



「そ、そろそろ拠点に戻りましょうか」


「ああ、そうだね。……ふふっ」


「ん? 何かおかしかったですか?」


「あ、いや、違うんだ」



 いきなり笑ったロコロさんに、俺は思わず首を傾げる。



「不謹慎だとは思うけど、こういうのが楽しくて」


「こういうの?」


「僕はなぜか、守ろうとした人に嫌われてしまうことが多くて。誰かと一緒に過ごすよりも独りでいることの方が多かったんだ」


「そ、それは……」


「だから各々ができることに全力を注ぎ、一つの目標のために皆で力を合わせて頑張る。そういうものに憧れがあって。今がとても楽しいんだ」



 ロコロさんの朗らかな笑顔を見ていると「嫌われてるわけじゃなくて怖がられているからですよ」とは口が裂けても言えない。


 そうこう話しているうちに、俺たちは拠点に辿り着いた。


 そこには『悪逆の竜』がいる神殿と向かい合うような形で巨大な砦一つ。

 周りを高い壁と水で満ちた壕に囲まれている堅牢な要塞だ。


 この要塞は無から城を創造する【城】の力を持つ勇者が作ったものだ。


 その耐久性は凄まじく、狼を瞬殺したシレスタの本気の【斬撃】を食らってもビクともしない。

 ただ本人はあまり強くないため、要塞の地下に隠し部屋を作り、そこに一日中引きこもって寝ているらしい。


 【城】の勇者が死ぬと要塞も消えるらしいので、安全な場所にいてもらった方がこちらとしてもありがたいのが本音だ。


 と、その時だった。


 ドーンッ!! というまるで何かが爆発したかのような音が要塞の中から聞こえてきた。

 俺は慌てて要塞の中に入り、たまたま近くにいたイムルさんを呼び止める。



「な、何があったんですか!?」


「おお、エルオット氏!! ちょうどいいところに!! 【畑】の勇者と【眠り】の勇者が喧嘩してるのですぞ!!」


「ええ!?」



 俺は慌てて現場に急行した。



「……何度も……言わせないで……ここは……私の……お昼寝場所……」


「テメーが勝手にそう言い張ってるだけだろうが!! ここの土は質がいい!! だから耕して畑にする!! 邪魔するならテメーも耕すぞ!!」


「……上等……」


「わー!! わー!! 二人ともストップストップ!! 喧嘩は駄目!!」



 俺は一触即発な二人の勇者の間に割り込み、喧嘩を仲裁した。


 勇者とて人だ。


 必ずしも全員が全員と仲良くできるとは限らない。

 こうやって喧嘩が起こることもしばしばあり、その度に俺が仲裁している。



「いやはや、流石はエルオット氏!! 我らがリーダーですな!!」


「狼と戦うより疲れました……」



 俺はどういうわけか、数十人の先輩勇者たちを束ねるリーダーの座に収まっていた。


 いやまあ、彼らを現世に蘇らせて力を貸してもらっている俺が偉そうに指示する立場になるのはどうかと思うが……。


 先輩勇者たちが口を揃えて「面倒そう」と言ったので、俺がリーダーの役を引き受けることに。


 リーダーは意外と大変だった。


 先ほどのような喧嘩の仲裁を始め、その日の全体の方針を決めたり、例の神殿の調査結果をまとめたり。


 別に苦ではないのだが、勇者同士の喧嘩は洒落にならないので色々と疲れるのだ。



「お兄さん、疲れたならぼくのおっぱい揉む? それとも飲む?」


「っ、ふ、服を脱がないでください、シレスタ」


「ぬはは!! 相変わらずシレスタ氏は大胆ですな!!」



 すぐに胸を出そうとするシレスタを止めるが、力ではまだ彼女に勝てないのでじわじわと肌が晒されていく。


 ちょうどその時、俺たちが話しているところにメイメイさんがやってきた。



「ちょ、ちょっと、エルオット!! 帰ったなら言いなさいよ!! べ、別に心配したとかじゃないけど!! そういう報告はすべき――」


「「「あっ」」」


「な、ななな、何やってんのよ、アンタ!!」



 この薄暗い奈落の底、メイメイには俺がシレスタの服を脱がそうとしているように見えたのかも知れない。



「ち、違いますから!! 俺は脱ごうとしてるのを止めてるだけですから!!」


「メイメイ、ぼくは今から疲れたお兄さんを癒すためにイチャイチャ授乳プレイをするから子供はあっち行ってて」


「ちょ!!」


「イ、イチャイチャ授乳プレイ!? だ、駄目に決まってるでしょ!! 付き合ってもないのに不純なのは禁止!! ていうか誰が子供よ!!」


「ぼくとお兄さんはもう付き合ってるようなものだし、純愛だからオッケーだね」



 そう言って俺を押し倒してきたシレスタ。


 くっ、力勝負だと分が悪い!! どうにかしないと俺の貞操の危機だ!!


 別にシレスタのことが嫌いなわけではないし、むしろここまで積極的に迫られて嬉しくない男はいない。


 でも無理やりはちょっと違うと思うのだ。


 だからこそ全力で抵抗していると、ふとティアラがやってきた。



「あ、やっと見つけました、エルオットさん!! って、なななな、何を!?」


「ティアラさん!! ちょうどいいところに!!」



 俺はティアラさんに事情を話し、シレスタを引き剥がしてもらった。



「もう!! 駄目ですよ、シレスタちゃん!! 無理やりはよくないです!!」


「残念。あと少しでお兄さんの貞操を奪えたのに」


「エッチなのは禁止!!」


「ところでティアラ氏、何かエルオット氏に用があったのでは?」


「あ、そうでした!! エルオットさん、神殿の内部調査に出ていた部隊が帰ってきました!!」


「「「「!?」」」」



 ティアラさんの報告を聞いた俺は、大急ぎで要塞の医務室に向かう。


 そこには四人の勇者の姿があった。


 そのうち三人は臓物が胴体から飛び出しており、見るも無惨な姿で絶命している。

 唯一生きて戻ってきた青年が俺の方に気付いてにこやかに笑った。



「よ、リーダー。帰ったで。ちょいしくじってもうてな。取り敢えず三人の蘇生をお願いしてもええか?」



 そう言ったのは糸目で微笑みを絶やさない、どこか胡散臭い雰囲気の男性だった。


 彼は【不死】の勇者、イルタルさんだ。


 力を封じられない限り、首だけになっても死なないという力の持ち主である。


 ロコロさんに次ぐ奈落の最高戦力であり、その圧倒的な強さから神殿に立ち入ることができた数少ない勇者だ。


 その彼に同行していた三人の勇者たちもまた、神殿に入れる実力のある人物だった。


 しかし、生きて戻ったのはイルタルさんのみ。



「何があったんですか?」



 取り敢えず死んでしまった勇者たちを生き返らせてから、イルタルさんに事情を問う。


 すると、彼は笑みを絶やさず言った。



「いやあ、行けるかな思て『悪逆の竜』に挑戦したら全滅してもうたんよ。バラバラになったコイツら回収して戻るんで精一杯やったわ」


「い、行けるかなって……。お願いなので無茶はしないでください」


「ははは、すまんすまん!! 次はもっと強くなってから挑まんとあかんな!! しばらくは魔物狩りに集中するわ!!」



 しかし、実力のある勇者が四人がかりでも歯が立たないとは。


 『悪逆の竜』はどれだけ強いのだろうか。


 俺も少し強くなったくらいで満足せず、引き続き魔物を倒してパワーアップしないと。


 そうして、更に二ヶ月が経った。









―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイントモブ勇者紹介

【畑】の勇者(男)

土の状態を操作して豊作も飢饉も意図的に引き起こせる力の持ち主。人を飢えさせるのが嫌いで、奈落に生息する植物型の魔物を品種改良して美味しい野菜の量産を目論む。かつてある国の国土の九割以上を畑にしたことがある。趣味は畑を耕すこと。好きなタイプは畑みたいな人。


【眠り】の勇者(女)

周囲の生物から睡眠欲求を奪ったり、与えたりできる力の持ち主。眠くてうとうとしていると眠気を取って作業に集中できるようにしてくれる。たまに加減を間違える時もある。趣味は寝ること。好きなタイプは低反発枕みたいな人。



勇者の個性が強すぎると思ったら★★★ください。



「ロコロが面白い」「シレスタが本気で貞操奪いに来てて草」「低反発枕みたいな人って何だよw」と思ったら、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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