製造現場の映像

【匿名関係者より提供された映像記録。おそらくは衣服に取り付けられた小型カメラによる隠し撮りと思われるが詳細不明】


****


(冒頭、無人の休憩室。薄暗い蛍光灯の下、椅子が五脚並ぶ。右手前の壁時計、0時43分を指す。静かにドアが開く音、コートの裾を引きずる作業員Aが入室。視界が揺れ、重い足音)


A(独り言・低い声):

「今日は…機械、静かだな……」


(休憩室奥の扉が開く。BとCが手袋をはめながら入室。Cは目をこすり、少し咳をする。蛍光灯が一度明滅)


B:

「また計測エラー出た? 記録、俺の番なのに…」


A:

「いや…ロット記録が途中で消えるし…なんか変だ。パネルも反応悪いし…」


(扉の向こう、工場フロア。ラインの自動搬送機が軋む音。無数の灰色の部品箱、床に薄い油膜。ピピピという機械の警告音。画面左に組立班のDとEが作業中)


C(手元を写す。細かな部品をピンセットで扱おうとするが指先が震える。ピントが合わず何度も手をこする。部品が机から転げ落ちる)


E:

「やっぱ静電気ヤバい…昨日はここで機械止まったし…」


D(部品を持ち上げる。画面が一瞬白飛び):

「今、加工アームの動作が…いや、見て。この軌道、明らかにおかしい」


(自動アームが本来のルートを外れて、中空で一瞬停止。赤・青のエラーランプが同時点滅。その隙にピピピピと鋭い警告音)


A(そばで部品箱を整理しながら):

「センサーも…逆方向に振れてる。これ、夢でも見てんのか…」


B(計測機器を見ながら):

「ロット番号書き込めって…(ペンで台帳に向かうが、線が迷走して判読不能な落書きに)おかしいわ、書けない…手が…(低く呻き声)」


(背後から突然「キンキン」「ピィィィ」という金属的な高音。作業員全員が一度静止する)


C(暗い声):

「空気がおかしい…ちょっと外の換気開けてくる」


(換気扇が回り出すがすぐに止まる。画面が時折ノイズ。どこからともなく「誰か来た?」という小声。誰も入り口にはいない)


(切削工程。Dが機械のカバーを外す。手元にライトを当てると、内部で“何か”が鈍く金属光沢。Dが思わず顔を背ける)


D:

「何だこれ…金属のくるい方が…通常と違う」


(加工機が急に発火音。「パチン!」と火花一閃。CとEが跳び上がる)


C:

「やべっ…静電気じゃ済まないぞこれ」


(部品検査PCのモニターに“Error.000/Time lost”の文字。そのまま画面がブラックアウト。作業員一同苦笑)


A(苦い顔で台帳を見る):

「また記録抜けてる…台帳これで何冊目だ?」


(小型カメラの焦点が急に揺れ、作業台の隅でBがペンを止め、ぼんやり手元を見つめる)


B:

「なぁ…今書いたの、本当に俺か?何か、自分じゃないみたいだった…」


E(周囲を見回し):

「空気白っぽくなってね?……寒気がする、やばい」


(工場奥、細い廊下の映像。誰もいないはずの影が横切る。画面揺れ、出口付近でカメラが2分間停止し完全な黒画面。再起動後、誰もいない無人の工場天井がぼやけて映る)

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