ルサンチマン

狐守玲隠

第1話

目前でベシャリ。

田んぼから道に跳ねたカエルが子どもに踏み潰された。

子どもはカエルの存在に気づくこともなく、笑顔で捕虫網を振り回し、トンボを追いかけてどこかに消えた。

私は、潰されて平になったカエルを見る。


「あーあ」


惨めだと思った。

弱者は強者に踏み潰されるのがお似合いなのだ。

強者に声をあげようなんて者はバカものであり、命知らずのマヌケだ。


「お前も運が悪かった。せめて、安らかに眠って」


スカートを持ち上げて、しゃがみこむ。

私は地面の土を両手でかき集めて、掬い、カエルにかけた。


ぺちゃんこカエルがいたところに小さな砂山が生まれる。

掌を嗅ぐと、土くさく反射で右頬がつり上がった。


「凪紗、なにしてんの。早く行くよー」


背後からカエル、いや友人の美紀が話しかけてきた。

私は、上手に作り上げた笑顔でふりかえる。


「うん、もう行くよ美紀」


「はーい。先行っとくからついてきなねー」


大体、10メートル先にいる美紀が肉付きのいいその腕をメトロノームのように振っている。


あの肉塊、意外と歩くの早いんだよね。


ただの砂山に話しかけても何もないと分かっていながら、ついうっかり言葉がこぼれてしまった。

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