第95話 王都へ戻れ
王都へ到着してすぐに執務室へ向かった。
「ジークです、入ります」
返事の後に室内に入ると、中には父様とセバス、トゥファル伯爵が待っていた。
その表情は優れない。
やはり何かあったようだ。
「申し訳ありません、聖女は教皇猊下が倒れたそうでまだベスピアに留まっています。教皇猊下の容体が落ち着き次第戻ってくるとのこと」
「……そうか」
ピクッ……と父様が眉を潜めたがそれだけで何も言ってくる様子はない。
一言指摘する事すらしないとは、よっぽどの事なのか?
もしかしてマリナが言っていた通り父様の身体に何かあったのか。
「それで、至急王都へ戻れとは何かあったのでしょうか?」
「うむ……落ち着いて聞け」
「…………え?」
荒々しく扉を閉めた。
落ち着こうとしても動悸が止まらない。
廊下を歩いているとルーベルトが隣を歩く。
「ルーベルト、急ぎ馬車の用意をしろ」
「は……どちらへ行かれるのですか?」
ぴたりと止まり睨むような目でルーベルトの目を見た。
「クラウディア侯爵家だ」
王都の端、貴族家の別宅が多くある中の一つにクラウディア家の別宅があった。
正門前に馬車を止め、ルーベルトと共に屋敷へと向かうとレッド・クラウディア直々に出迎えてくれた。
「ジーク王子……」
「レッド侯爵、ミスティは?」
「こちらへ」
案内された部屋に入るとベッドの側にカナミが座っていた。
「ジーク王子」
――ミスティ・クラウディアが何者かに刺された。
それは昨日の事だ。
学校の休み、カナミ・フェルペと街を歩いていた所、突然腹を刺された。
とっさにカナミが間に入り、二撃目は防いだものの、犯人は人波に逃げ込みそのままいなくなってしまったとのこと。
「犯人を捜してはおりますが、ローブで顔を隠していた為……」
「申し訳ありません、私がもっと周囲を見ていれば」
「いや、すぐに庇ったのは良い働きだった」
しかし……。
「生きていて良かった」
急所じゃなかったのは事実だが、最悪もう少し上なら即死の可能性もあった。
「それと、ミスティ様がとっさに氷魔術で刺された場所を止血していました。傷口を氷で塞いでいて、そのおかげもあって血もそれほど外に出なかったそうです」
「そうか」
その辺りの判断の速さは、流石ミスティと言えるか。
「ただ意識が戻らないので」
「…………」
それでもミスティは生きているようで、胸元もゆっくりだが上下に動いている。
「すまない、暫く二人きりにしてくれないか?」
「ジーク様、私は部屋の外に……何かあればお呼び下さい」
ルーベルトが最後に一言だけ言って部屋を出て行った。
静かになった部屋の中、ゆっくりとミスティの隣の椅子に座った。
☆☆☆
デブト視点
「ふん。どうなったんだろうな」
騎士団食堂で食事をしていると同僚が前の席に腰かけ話しかけてきた。
机に肘をついている。
主語が無いが恐らくミスティ様の事だろう。
「さてな、まさかミスティ様が……とは思うが」
彼女は平民の自分達にも優しかった。
死ななかったのは幸いだが……。
「ふん。犯人を副団長が指揮して探しているがどうも上手くいっていないらしい。あれだけ人がいたんだ、誰かしら見てそうなもんだが」
「相当な腕利き……計画性のある犯行」
「ふん。という事になるだろうな」
「団長は?」
聞けばガリムが肩を竦める。
「いつも通り酒を飲んでるよ」
まあ、こういう人探しには向いてないしな。
「それにしてもどうしてミスティ様が?」
「ふん。分からん、恨みを買うような方ではないと思うが……今も意識は戻っていないそうだ」
「おいおい、もう一週間だぞ。大丈夫かよ」
毒か、はたまた呪いや魔術的な何かか。
「ジーク様もずっとクラウディア侯爵家にいるらしい」
「ふん。早く目を覚ましてくれたら良いが」
「だな」
☆☆☆
「ジーク様、また食事を取られていないじゃないですか」
部屋に入ってきたルーベルトが机の上にある食事を見ながらぼやく。
「悪い、食欲がなかった」
一週間が経つ。
依然としてミスティは目を覚まさない。
規則的に呼吸をしているから生きているのは間違いないんだが。
治癒術師が来たが傷自体は治っているし、やはりこれ以上は何も出来ないそうだ。
「ジーク王子」
ノックと共にレッド侯爵が入ってきた。
「どうした?」
「陛下より呼び出しです。共に王宮へ参りましょう」
「分かった」
執務室にはいつも通りの三人が待っていた。
父様の表情はやや硬い。
「顔色が悪いな」
「すみません」
率直に謝ると父様は一度目を閉じ、まあいい……とそれについては何も言って来なかった。
「それよりもだ、聖女が帰ってこない。本人は遅れて帰ると間違いなく言ったんだな?」
「はい、そうです」
ギシ……と父様が背もたれに身体を預ける。
冷ややかにこっちを見下ろしてきた。
「お前のミスだな。暫く待って帰ってこなかったら、ベスピアへ向かえ」
「分かりました」
そうか、聖女が戻ってこないか。
可能性としてはありそうではあった。
まあ、様子を見てやはり駄目なら俺が何とかしよう。
「それだけですか? では私はミスティの元へ……」
「ああ、それだがな」
「…………?」
父様が机の上に手を置き、指を組んだ。
「お前には新たに婚約者を探してもらう可能性がある」
瞬間。
何を言っているのか分からず思考が止まった。
「それは……えっとどういう?」
父様は無表情で口を開く。
「お前とミスティ・クラウディアの婚約破棄を考えているという事だ」
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