第44話 陛下への報告



「失礼します!」



 ガリム、デブト、テッドと王宮の入り口で別れてからすぐに馬を返し、執務室へ向かった。


 本当はね、ミスティに会いに行きたかったよ。


 だけど、まずは報告をしなきゃいけないからね。



 早速ノックしてから部屋の中に入った。


 椅子にもたれながら書類を見ていたのは父様、そしてセバスが控えており、反対方向には知らない貴族が立っていた。


 金髪碧眼で顎髭を生やしている。


 身体は細く狐っぽい顔をしていた。


 ファンタジー系のゲームだとこいつが裏で暗躍するラスボスなんだけど、警戒しておいた方が良いかな。



「只今リバウト侯爵領から戻って参りました」


「うむ、もう少し近くに来い」


「はっ!」



 数歩歩いてから、ちらっと横に控えている貴族を見る。


 敵意は感じられないけど、信用出来ないな。



「ジーク、よくぞ無事に戻ってきた」


「いえ、私の方こそ見識を深める良い機会となりました。感謝いたします」


「ふむ……まあいい。では報告を」


「はい」



 リバウト侯爵領であったことを包み隠さず話した。


 ついでに騎士団長のベルディハと仲良くなったことも話しておいた。



「以上となります」


「なるほど。伯よ、貴公の意見はどうだ?」


「流石はリバウト侯爵と言えるでしょうな」


「うむ……」



 なんか俺へのお褒めの言葉無しで二人が納得してるんだけど、一体どういう事?


 セバスは畏まっているだけだし。


 見ていると父様が気付いたのか笑いかけてくれた。



「おっと、紹介がまだだったな。ここにいるのは王都近郊に領地を持つトゥファル伯爵。古くから仕える私の片腕だ」


「挨拶が遅れました、トゥファルと申します。お見知りおきを」


「は、ジークと申します」



 丁寧に礼をするとトゥファルはマジマジと俺の顔を覗き込むように見てくる。



「えっと……何か?」


「いえ、陛下の慧眼を疑ってはならないなと自省しておりました」


「はぁ……」



 自省って何をだろう。



「ジーク」


「は、はい!」


「リバウト侯爵から手紙を貰った時はどうなるかと思っていたぞ」


「手紙ですか?」



 はて、何の手紙を貰ったんだろう。



「内容を聞いてもよろしいのですか?」


「ああ、恐らくお前は知らないのだろうな。リバウト侯爵はモンスター討伐後も少しの間、ジークを当家で引き取りたいと言って来た。何か考えがあるのだろうと思っていたが、やはりそうだったようだ。なあ、伯よ」


「はい、恐らく壁として考えていたのでしょうね」


「……? …………??」



 どういう事?


 首を傾げる俺に二人はゆっくりと説明してくれた。



 結論から言えば、俺はあの爺さんに上手く転がされたという事だ。


 モンスター討伐の救援を王都に出していた時、リバウト家ではかねてよりの問題が発生していた。


 それはロマッシュ家との領土問題だ。



 ロマッシュ家は、血縁こそ薄くなっているが王家に連なる家である。


 中央に近く、更に王家の子供との縁談の話も出ている名家。


 突っぱねるには角が立ち、迎合するにはリバウト家周辺の貴族家からの信望を失う。


 どうしたものかと考えている時に来たのが俺である。



 王族であり、それなりに優秀で更にヒルマ妃と仲が悪いとなれば使える……と見たガイゼルは、モンスター討伐が完了したにも関わらず俺を王都に返さず、俺を後ろ盾にロマッシュ家と対抗しようとしていたらしい。


 それに関して俺に一切言わず、ラルバとドリエマに関して様子見をしているように振舞っていた辺り、食えない爺さんである。


 最後に凄いご機嫌だったのはそういう事なんだろう。



「はっはっは、ジーク。お前は侯爵の掌の上だったという事だ。だがお前はまだ幼い、これも経験と思うのだな」


「は……」



 確かに経験になったけど。してやられた感があって悔しいな。


 一応俺12歳ではあるけど、中身は決して子供じゃないし。


 上手く会話が出来ていたと自分では思っていたけど、ガイゼルに誘導されてたって事になる。


 うーん……。



「ジーク、ジーク」


「……は、はい!」


「報告ご苦労だった。久方ぶりに帰還したのだ、下がって婚約者に会ってくるが良い」


「は、失礼します」



 俺は丁寧に礼をしてから部屋を後にした。



☆☆☆



「どうだ?」


「見事……と言えるでしょうね。ベルディハを飼い慣らし、長年中立を保ってきたリバウト家を派閥に入れ、更にドリエマ様を自派閥に引き込んだとなれば称賛しないわけにはいきますまい」


「ロマッシュ家は元々エリオット派閥だったが今回の件で離れたそうだな」


「くく……婚約を破棄されるという恥をかかされてはそうなるでしょうね。それにしても婚約破棄ですか、確か最近西の貴族家でそんな話があった事を聞きましたが、普通はまず無いですからね。自分の力を高めて相手を弱める……良いやり方です」



 少しの間笑ってからトゥファル伯爵は、再び真剣な表情となる。



「して、陛下はこのままジーク王子を後継者に?」


「いや、はっきりとは決めてはいない。私は力のある者に譲りたいだけだからな。ただ、今回のジークの働きは大功だ。リバウト侯爵に上手く動かされたのは褒められないが」


「おっと、それは厳しいですね。ですが、あの一癖も二癖もあるリバウト侯爵に認められたという事実も忘れてはなりません」



 ハルトは意外そうにトゥファルを見た。



「どうした? まるで評価しているようではないか。伯はジークの事をあまり認めていなかったと思うが」


「……そうですね、はっきり言いまして王子の事は、あまり評価しておりませんでした。ですが先ほど近くで見た所、少し将来が楽しみになりました」


「はっは、そうかそうか。うむ、だが私情は挟まない事だ。たとえ貴公が庇おうと私が否と思えば廃嫡させるつもりだ。分かっているな?」


「はい、陛下のお心の定めるままに……」

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