第40話 ここからでも入れる保険ってあります?



 あれから数日。


 ドリエマはリバウト家に訪れていない。


 同じくラルバも体調が悪いらしく、訪問を控えて欲しいと言われた。


 ドリエマにやんわり拒否されたのが心に来てるんだろう。



「お兄様が部屋から出てきません」



 シエラがわざわざ宿にやってきて最近のラルバについて説明に来た。


 話によるとご飯すらほとんど口にしていないんだそうだ。


 初めて俺に剣で戦って負けた時もそうだったけど、ラルバってメンタル弱いよね。



「やれやれ、シエラ殿にこんなに心配をかけて。ラルバ様はジーク様を見習っても良さそうですがね」


「ふん。確かに、ジーク様は心が強いですからね」


「ジーク王子がですか?」



 うむ。とデブトとガリムが頷く。



「そうですとも。今でこそミスティ様はまごうことなくジーク様の婚約者ですが元々は違ったそうですよ」


「ふん、聞くところによるとティゴス様の婚約者にほぼ決まりかけていたそうです。実際振られてたし、なあ?」


「ああ、あの時は横暴な方から助けたのに……ま、我らがジーク様を慰めたのだがな」


「ふん。忘れる為に運動を提案してな、良い思い出だ」


「へえ、そんな事が」



 多分エリオットから庇った時の話をしてるんだろうけど、別に俺振られたわけじゃないし慰められてもないだろ、運動ってか筋トレは俺が言い出した事だし。


 半分事実だけど巧妙に話を盛ってるなこいつら。


 それにしても……。



「シエラはどうしてここへ?」


「あら、私が用もなくここに来てはいけないと?」


「そうは言わないけど」



 貴族令嬢が男だけのむさい部屋に来るものじゃないんじゃない?



「使用人達には、ここへ来ることは伝えてありますから問題ないです」


「そうか」



 もういいや。


 それよりも現状はラルバとドリエマだ。



「母親が出てきたらどうにもならなくないか?」



 説得も出来そうになかったしなぁ……。



「あの方がどんな方か知らないのですが、心変わりとかは……?」


「絶対にないな」



 あの母親が意見を変えるとは思えない。



「ジーク様の説得じゃ無理ですか?」


「俺の話なんて聞かないよ」


「ふん。ならば裏技である陛下経由ではどうです?」


「父様か」



 それはばれた時の奥の手としてちょっとだけ考えた。


 だけど前々から父様と話してて思ったけど、父様ってヒルマ妃の事苦手じゃない?


 なんていうか腫れ物に触るような対応の仕方なんだよね。


 あんまり動く感じじゃなさそう。


 その後、あーだこーだと話し合ったが良い意見は出なかった。



 それから更に数日が経過した頃。


 朝早くにリバウト家の使用人がやってきて、シエラが呼んでるからすぐに来てくれと言われた。


 何でシエラから? ……と思いながら行くと、屋敷に着くなり大きな声が聞こえてくる。



「お爺様はこれで良いと思っているのですか!?」


「お兄様、落ち着いてください!」


「何だ何だ?」



 いつも通りデブト、ガリムを後ろに連れて行くと、珍しい事にラルバがガイゼルに喰ってかかっていた。



「これは一体?」


「おや、ジーク王子」


「ジーク! 君からも言ってくれ」


「ジーク王子! どうかお兄様を止めて下さい」



 俺に気付くやいなやシエラが飛び込んできた。


 ラルバは部屋に引きこもったり出たかと思えば現当主に迫ったり忙しいな。



「よくわからないので、とりあえずは説明を頼みます」



 明日ロマッシュ家主催のパーティが開かれる。


 近隣の貴族が沢山招待されていて、更に重大な発表があるとの事だ。


 このタイミングだ。


 恐らくギヤルとドリエマの婚約発表だろう。


 それにはガイゼルも招待されており、参加予定である。



「それでラルバは納得がいかないと」


「だってジーク、彼女は言っていたんだ。母親が勝手に決めてきた相手のギヤルと婚約なんてしたくないと。それなのにこのままじゃ……」



 まあ、ラルバの気持ちは分かるけどね。



「何か止める案はあるの?」



 聞くとラルバは頷き、背中から一本の木刀を取り出した。



「前に読んだ歴史書で花嫁泥棒をしている英雄の話が書いておりました。俺もその通りにやってみようと思っています」


「えぇ……」



 とんでもない歴史書を参考にしたな。


 こいつら兄妹揃って規範とする本のチョイスおかしくない?



「お爺様、家に迷惑が掛かるかもしれません。ですから私の当主の座。シエラに譲ります。勘当していただいても構いません」


「お兄様、そんな……」



 ガイゼルがラルバをじっと見つめた後、深いため息を付く。



「好きにしなさい」



 そしてガイゼルは屋敷に戻っていった。


 とんでもない事になってしまった。


 俺はどうしたら良いの?



「これは我らの出番ですかな」


「ふん。腕が鳴りますな」



 ちらっと後ろを見るとガリムとデブトが使用人から木刀を受け取ってる。


 え、これ俺も強制参加なやつ!?


 勝手に我らの中に俺を入れないでくれるかな!



「勿論ジークも手伝ってくれるよな?」


「ジーク王子」



 二人がキラキラした目で見てくるけど、正直行きたくないんだが!?


 気持ちは分かるよ、気持ちはね。


 けど、これ間違いなく俺に良い事ないんだよね。


 上手く行ってドリエマとラルバがくっついたらさ、リバウト家はエリオット派に行くんじゃね?


 そういう派閥関係とか疎い俺でも分かるぞ。


 だけど、心情的には協力したいとは思ってるけど……うーん。



「ジーク様、やりますよね?」


「ふん。ジーク様はこう見えて情に厚い方。なんだかんだ助力してくれますよ」



 あぁ……返事もしてないのにどんどん外堀が埋められていく。



「そもそもどこでパーティをやるかによるんじゃないかな。ロマッシュ公爵領でとなれば準備とか情報集めとか」


「お爺様からその辺りは聞いています。パーティはこの街にあるロマッシュ家が持っている屋敷で行われます。敷地が広いので恐らく晴れていれば庭園で行うかと……」



 この街に?



「え、アフカドに屋敷持ってるの? 何で?」


「近隣貴族に影響力を誇示するなら自領より栄えていて、道も整備されているここの方が良いからじゃないですか?」



 確かに、ここで王家との関係が強いのを見せたらリバウト家よりロマッシュ家に靡く貴族家は出てくるかも。



「木刀は人数分用意しておこう」


「ま、4人いたら警備が多少厚くても問題ないか」


「ふん。腕が鳴りますな、ジーク様」


「あー、うん……そうだね」



 これもう絶対逃げられない奴だ。


 この街のどっかにセーブできるクリスタル的なものはないかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る