好きで悪役令嬢ものの勘違い駄目王子やってるわけじゃないんです!

白雪ななか

第一部

第1話 夢から覚めたらジークでした



「ミスティ! 今この場を持ってお前との婚約を破棄する!」



 その日は王宮の社交会場は、沢山の貴族達が集まっていた。


 カーラーン王国の建国記念パーティという王国中の貴族全てが祝う場にその声は響き渡った。


 言われているのはミスティ・クラウディア。



 クラウディア侯爵家令嬢。


 輝く金糸を編んだような美しい金髪、青い目、少々勝気そうに見えるが誰もを魅了する眼力は、芯の強さを感じさせられ、何よりその美しさは国中どこを探しても彼女の上を行く者はいないと言われている。


 更に言えば、学校の成績も次席卒業



 そのミスティを睨みつけているのは、国の第一王子であるジーク・カーラーンだ。


 容姿端麗、成績優秀。


 在学中から国の政務にも積極的に参加し、まさに将来を嘱望される逸材だ。



「あんなに仲良かった二人がどうして……」


「話には聞いていたがまさか……」



 周囲で見ている貴族達の話し声が聞こえてくる。


 言われたミスティは、眉を顰め、唇を噛みつつジークを見た。



「殿下、婚約破棄とは……それにどうしてこのような祝いの場で……」


「以前から言おうと思っていた。だが……」



 ジークは奥の玉座に座る王ハルト・カーラーンをちらっと見る。



「陛下の前でそれを伝えなければならないと思った、ただそれだけだ」


「いえ、そもそもどうして婚約を破棄しなければならないのです? 私が何かしましたか?」


「身に覚えがないと言うのか!」



 ジークは後ろを見る。


 後ろから出てきたのは小柄な貴族の女性だ。



 名はステラ・ワーデン。


 貴族家であるワーデン家の令嬢である。


 茶色の髪を肩まで伸ばし、折れそうな細身に小動物のような愛らしさがあり、思わず守ってあげたいと男なら思ってしまいそうな可憐な容姿をしている。


 彼女は上目遣いでジークを見ながら、次にミスティを見てジークの腕をそっと掴み影に隠れる。



「彼女を知っているか?」


「ええ、学校でたまにお会いします。殿下と仲が良いお友達と存じておりますが」


「それだけか?」


「はい?」


「お前がステラへ嫌がらせをしていたことは分かっている」



 ジークの言葉に周囲の貴族達の声量が更に大きくなる。


 信じられない……という声が大半だ。



「誤解です、そのような事はありません!」


「俺は……彼女から聞いた、そうだろう?」


「はい、本当です。彼女が私にやった数多くの嫌がらせに私は……すみません」



 ジークの腕に捕まりながら泣き出すステラ。


 ジークは一度俯いてからギッとミスティを睨みつける。


 そしてミスティを指さし。



「もう一度言う、ミスティ・クラウディア。俺はお前との婚約を破棄する!」



 会場のざわつきが一段と酷くなる中、大きなため息が聞こえた。



「そうですか……分かりました。それでしたら私にも考えがあります」



 ミスティの冷めた声がした。



☆☆☆



 見たことのある世界、聞いた事のある世界観。


 友達から押し付けられて嫌々やったら予想外にはまってしまい、何周もした女性向け恋愛ゲーム『プリズム・ラバーズ』。


 略して『プリラバ』の世界に自分がいた。


 しかも理不尽に婚約破棄をしたジーク王子としてだ。



 全く、嫌な夢だ。


 なにしろ彼はあの後破滅の未来が待っているのだ。


 そんな王子にどうして俺が……。


 トイレに行こうとベッドから起き上がった。



 あれ、何かいつもよりベッドがデカいしふかふかなような……ていうか、部屋広くない?


 まだ夢を見ているのかな……それにやけに視界も低くなった気が。


 そんな事を考えながらふと薄明りの灯る中、部屋にあった大きな鏡を見て。



「あああああああああ!」



 思わず鏡の中の人物を指さした。

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