04『追放されなきゃ追放モノは始まらないでしょ』

「(しゅ、しゅきいいいぃぃぃぃぃ♡♡♡♡♡ 無理死む!♡♡♡)」


 クサリの最大の懸念にして、最高の計算違い。

 それは、彼女がイケオジが大好物という点、そしてトロドキが"掴み所がないけどちょっと影のありそうなイケオジ”というドストライク属性の持ち主である事だった。


 ついうっかりメロメロになってしまい計画が崩れかけた事があったクサリは、己を律するためトロドキには近付かないようにしていた。彼はうっすら嫌われていると思っているようだったが、実際は逆であったのだ。

 理性のブレーキが破壊されそうになるのを必死に堪えながら、クサリは視界からイケオジを消すため俯く。


「だ、大丈夫ですほんとに……」

「そう? 顔も赤いし……おじさん心配よ」


 こういう時でも理性の仮面が外れないのは、前世の社会人経験の賜物だった。

 そしてそれを見たチユが、トロドキを指さして声を上げる。


「あーっ! ツルギ様から聞いたわよ、断れない状況で異性を欲望のままに嬲る行為! それセクハラってヤツよね!?」

「やめてよチユちゃーん! こっちの世界じゃセクハラを裁く法はないんだよ!?」

「それじゃセクハラ認めてるじゃないですか……」

「٩(๑`^´๑)۶」


 想定外の援護射撃で、トロドキが両手を挙げながらクサリから離れる。

 緊張から解き放たれた反動で今日一番の冷静さを取り戻したクサリは、今すぐこの場を去らないと理性が崩壊する事を悟って椅子から立ち上がろうとした。


「ところでよォ……」


 立ち上がろうとしたところを、次はクラヤミの言葉で阻害される。

 フードを被り直した彼は、わざわざ隙間から目を覗かせてツルギに向かって視線を投げた。


「ツルギィ……テメェからは一言ねぇのかァ?」

「え……?!」


 心底驚いた顔で、ツルギはクラヤミに視線を返す。

 これ以上話すことなどないはずだ。クサリもまた、その意外な切り出しに耳を傾けた。


「ぼ、僕からの話はもう、終わったよ」

「リーダーとしての話はついたがなァ、テメェ自身がどう思ってんのか聞いてんだぜェ……?」

「(……ん? なんか、流れが)」


 その場の空気が変わったのを感じて、クサリは心の中に妙なざわつきを覚えた。

 何故かチユが心配そうな表情で、ツルギの服の裾をぎゅっと掴んでいる。


「ツルギ様、今日ずっと無理してる……だから、私もちゃんと伝えるべきだと思う」

「その、通りだ……僕は……僕は」


 ツルギは掌で目を覆い、肩を震わせている。

 何かを耐えている様子で天を仰いでいたが、ものの数秒と経たず決壊した。


「お゙わ゙がれ゙じだぐな゙い゙!!!」

「……は?」

「キヒヒ……言えたじゃねぇかァ」


 滝のような涙を流し、遂にツルギは号泣しながら叫んだ。

 抑えきれないパーティーリーダーの激情に、クラヤミはニヤリと満足げに笑っている。

 無論、それに最も動揺したのはクサリだった。

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