第12話 人造人間の制作と性転換の仕組み

「って……なにもってるの」

「ひ、久しぶりですね」


 開始早々らいらさんに話しかけられた。当たり前だ。

 なぜなら僕の手には——


「さすがに持ってたら言われますよね……核原料物質」

「そりゃそうでしょ。そんな捨てることもできなくて無駄に重い物質」

「実は、偶然家にあったので、危険だからって理由でここに置いていこうと思ったんですよ」


 もちろん雪音には許可をもらっている。というか、雪音はおそらくこの施設に入ろうとしていたからここで実験をするのだろうか……いやわからない。


「ちなみにそれってなんなの? 低濃縮ウラン? それぐらいなら家にあってもいいと思うけど」

「高濃縮ウランですけど? 私が聞きたいですよ、なんでこんな危険物質があるのか」


 それにしても家で核実験されるよりかはマシだった。

 ※ここの舞台は日本ではありません。

 雪音のことであれば、普通に核実験して……トリチウムかって……


「こ、高濃縮ウランって……一般人が持っていていいレベルじゃないし、そもそも許可とってる?」

「え? もちろんとってるわけないじゃないですか。それとも私の家の最高気温を更新させる気ですか?」

「た、確かにそうね……ま、まぁ今回のことは秘密にしておいてあげる。核原料物質って注文がめんどくさいのよね。だから実験に貢献ってことで」

「で、でも実際に実験で使えるんですか?」


 さすがにこの研究施設でも核分裂や核融合を起こすわけにもいかないし、そんな事すれば当然極秘実験のことがばれてしまう。だから——


「倉庫いきですね」

「ちょっとせめて頬擦りさせて!」

「何言ってるんですか! 電離作用強いんですよ? せめて紙一枚でもいいから挟んでください」

「紙一枚でいいんだ」


 高濃縮ウランは主にα線を放っている。だから紙一枚でもいいから挟めばいいんだが……この頭おかしい先輩がそんなことやるわけないよな。


「じゃあこれしまってきますね。あなた以外に見られたら困るので」

「わ、わかった。あとからトリチウム頼んでおこ」

「ま、まぁトリチウムなら……ってそういうことじゃない……いや、トリチウムならそろそろ届くんじゃないですか」

「え? そうなの?」

「たしかこよみさんが核融合装置が必要って言っていたので」


 三、四日前のことなので記憶は曖昧だ。しかし、わざわざ比較的安価とは言われるが高いトリチウムを買わせるわけにはいかない。それにらいらさんのことだ。どうせ『核融合を改良しよー』なんていって核分裂でケチってここら一体吹っ飛ばすに決まってる。


「こよみさんって……なに作るの?」

「人造人間作るらしいですよ。小型核融合の扱いには慣れてるって言ってました」

「た、たしかにこよみさんなら……」


 なんでこの人はこよみに絶対的信頼を持っているのだろうか。

 それになんでこよみが核融合炉の扱いになれてるのかすら気になる。

 今日こよみが来たら聞いてみるとしよう。


 ---


「おはようございます!」

「お、おうおはよう」


 あれから数十分してこよみがやってきた。

 ちなみにらいらさんは夜勤勤務だから帰った。


「よし! 今日から早速人造人間の制作に取り掛かるぞー」


 そして届いたものに手を付けるこよみ。

 そんな彼女に対照的で、僕はやることがなかった。


「あれ? 博人君、やることないの?」

「ま、まぁな。前回であの薬は終わらせちゃったし」

「あーそっか。じゃあ……新しい実験を探すってところか」

「そうそう、何か面白い実験ってあるか?」


 正直、やれる実験はすべてやりつくしてしまった。

 それに雪音のこともあって……わからない内容はすべて彼女から聞いてしまったのだ。


「えー……そういうのは自分で考えなよ~。自分で探したほうが思いがあるでしょ?」

「た、確かに……」


 そして僕は顎に手を当て考え始める。

 ……雪音は今度自分に性転換薬を飲ませようとするんだよな。だとしたらそれの実験するのが吉となるか。少なくとも今ここでこよみの実験に付き合うよりかはマシだ。


「性転換でも研究するか」

「え、相談乗るよ?」

「違うわ! ただ、仕組みが気になったんだよ。それにどういう薬からできるのかだったり、即効性だったり……」

「んー……怪しい。性転換しちゃった弟でも持った?」

「だとしたら氷璃から連絡来るだろ!」


 まぁ……逆って言ったほうがいいのか? 自分が性転換して姉になりますよーって。

 いや、どちらかというと扱いが妹になりそう、歴が短すぎて……


「ほらほら、こよみ。早く人造人間に取り掛かったらどうだ?」

「あ、そうだった。こんどの夏休みまでには完成させないと」

「あれ? こよみって夏休みもこの施設にいるのか?」

「うん。少しだけ時間がなくてさ……なんとかして秋までには完成させたいの」


 目標が決まっていることはいいことだ。それにこよみは4日前この施設に来たばかりであるため皆に追いつくために慣れというものが必要だろう。


「あれ? 高濃縮ウラン? なんでここに?」

「え?」


 目を離したすきにこよみが例の物質を見つけてしまったようだ。

 不思議そうに軽々しくその物質を持ち上げている。


「え、えーっと……らいらさんのクッションらしいな。あの人頭おかしいから」

「あ、らいらさんのか……にしてもクッションって……たしかにウランって比較的柔らかいもんね、金属の割には」

「そうそうそうそう、鉄と比べれば」


 まずそもそも、ウランよりもらいらさんの頭が固いことが前提条件になるが気にしてはいけない。今は適当に言ってしまった建前に後悔している。

 でもらいらさん、この嘘を信じられてしまうレベルに聖人ではないのか。


「あ、博人君」

「ん? どうかしたか?」

「今日さ、私の家に遊びに来てくれる?」

「……そういえば今日だったな」


 雪音のことや、氷璃の引きこもり脱却とかが詰め込まれすぎていたせいで全くといっていいほど覚えていなかった。


「今日は確か、こよみが料理を振る舞ってくれるんだったよな」

「うん! 覚えてくれてたんだ! それで、私結構練習したんだ」

「ぎりぎりだったけどな。にしても練習してくれるのはうれしいな」

「だって君にまずいご飯はあげれないし……おいしい料理を振る舞いたいから」


 ちゃんと女心はあるこよみ。核融合炉を除いては……

 でも料理といえば確か……


「料理で思いだしたんだが、こよみって料理できたのか?」

「うん! できるよ。練習したってのもあって、前の私よりも5倍ほどおいしくなったから!」


 ちょ、ちょっとその言い方は語弊があるんじゃないか?


「さすが天才肌ってところか。楽しみにしておくよ」

「ふふ、君の妹に料理で勝ってみるよ!」

「は、はは……応援しておくよー」


 正直氷璃に勝てるとは思えない。氷璃の料理は異次元だった。

 雪音にならまだしも、氷璃か…… 勝手に雪音ってことにしておこう。

 雪音に料理センスは求めてないけど。


「じゃあちょっと自分は……性転換する本を探してくるよ」

「うん。わかった。性転換する本ならそっちの棚にあるよ」


 そして彼女はその本がある棚に指をさした。

 性転換は生物関連であるため、こよみが担当している物理とは棚が違う。

 ちなみに薬専用の棚もあって自分はそこを担当している。


「よくわかったな。自分もわからなかった」

「ふふん、さぼ……君が薬を作っている間に探してたから」

「今サボってたって聞こえた気が……」

「気にしない気にしない。でもさ、性転換の仕組みがわかったら私にも教えてよ」

「え? でもこよみってこういうのに興味なさそうだけど」


 っておもったけど、人造人間に性別を持たせるために性転換の技術が必要な可能性がある。まぁもっとも、人造人間に生殖機能を持たせる必要があるからわからないが。


「実は私も性転換してみたいんだよねー」


 前言撤回こいつ楽観主義者だった。


「ならなんで人造人間の研究にしたんだ?」

「え? だってそっちの方が面白そうじゃん。確かに性転換の仕組みも面白いんだよ? 面白いんだけど……秋までに作らないといけないからさ」

「その秋までって何か理由があるのか?」

「んー、少しだけね。ただ気にしなくていいよ。もしもの話だし」


 これ以上こよみを詮索しておくと面白さが欠けてしまうので辞めておくとしよう。

 それにこの話……想像以上に闇が深いし、おそらくこよみのことだ、普通の話ではないだろう。


「その話、少し気になるけどこれ以上踏み込むのはやめておくよ」

「うん。君はそれがいいよ。自分の身のためにも」

「あ、そうそう。性転換以外にも知りたいことあるか?」

「ないよ? ただ……意識の仕組みが知りたいかな」

「はいよ。探してくるわ」


 そして自分は彼女を置いて、棚へと歩き出す。

 どうやら意識について知りたいらしい。人造人間に意識を入れるのだろう。

 人工知能ではないAI、この研究施設って感じがしてぴったりだな。

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