第3話 こよみと商業施設『Low 損』
……いったいどうしたんだろうか。妹があんな風に僕としゃべるなんて……そろそろ防災グッズの見直しも必要の時期かな。
って考えよりもやばいことがある……エロマンガ、どうしよう。
「あれ? 博人先輩。どうしたんですか?」
「え? あ、あーこよみか。どうしたんだ? ってか先輩は外していいよ」
「あーごめんなさい博人君。ちょうどさっき定時でさ、今帰り道なんだよね」
先ほど別れを遂げてからもう三時間も経過していた。ここまで来るのがそもそも時間がかかるのでおかしいことではない。
「っで、なにやってるんですか?」
「あーちょうど買い物に来ているだけだ。今日の夕ご飯の献立が急に変わったからな」
「えー博人君って料理できるんですか? 私食べてみたいです!」
っと、彼女は目を輝かせながら言う。
「……夕ご飯がないのか?」
「そうそうちょうど夕ご飯がなくって……」
「夕ご飯がないんだー。んー、まぁたくさん作るつもりだったからちょうどいいか」
「やったー!」
彼女が腕を上げて喜んでいた。今日作る夕ご飯は妹のためにたくさんのものを作る。その分食べきれるか怪しかったのでちょうどよかったのだ。
「じゃあこの後博人君の家に行っていい? そこで食べればいいよね。何が出るのかなー、肉まんかなーフランクフルトかなー、それともアメリカンドッグかなー」
「どれも出ねえよ!! なんでどれもコンビニで解決するものなんだよ!」
「ふふ、冗談だって、でも私手軽に食べるけいが大好きなんだよねー」
「おとなしく消費税10%はらっとけ」
「EAT INしろってことじゃないですかー」
さすがに妹に対してその三つをあげるというわけにはいかないからここは我慢してくれ。
「とりあえず1.5時間後ぐらいに僕の家に来てくれないか? それぐらいなら多分できてると思う」
「りょうかーい、って言いたいんだけどさ、私君の家知らないんだ。だから案内してくれないと」
「そういえばそうだったこいつ今日あったばっかで家知らないんだった」
といってもさすがに今から帰るとならば夕食の時間が遅くなり妹からの追いメールが止まらなくなってしまうため今からスーパーにだけは行っておきたい。
「じゃあ……今からスーパーにいくんだが、ついて来いよ。そのあとだぞ」
「了解了解。じゃあデートってことだね」
「わかっていても口に出すなそういうのは……きまずくなるだろ」
しかし残念だったな! いままで超絶かわいい美少女の妹が家にいる限り君に惚れることは一切ない。はやく結婚して妹のために料理を振る舞いたい。
※そうこの男……とてつもないシスコンなのだ
「ってかお兄さんっていつもたくさんの料理を作るんですか? それともいつもは貧相な食事だけど、今日は給料日だったからたくさん食べるってこと!? だからお金が無くなるんですよ」
「失礼だなー。今日は妹のためにたくさんの料理を振る舞うってだけだ。それにお金ならお前もあの施設に働き始めたらわかるだろ」
なんとも失礼な小娘だこいつ。だが、これも個性ってもんだもんな。明るく接していこう。
「ならお前のほうもいつも夕食がないのか? だから今日みたいにコンビニでアメリカンドッグ、チーズドック、フレンチブルドッグを買うんだろ!」
「ちがいますよてか最後のは犬種だろ」
すると彼女はため息をついていった。
「私の場合はあれですよ。親がいないんですよ。なので夕食があるかないかは私の気分によります。今日は特段と疲れたので夕食を作るのはやめたんですよ。ほら、入社したら新しいことがありすぎて頭がつかれるでしょ?」
な、なんか踏み込んではいけない領域に来てしまった。とりあえずここはこっそりと離れるか。
「へー、君も料理得意なんだな」
「得意って程でもないんですけど……」
(やばい……別に私そこまで料理できないよ)
「じゃあ今度食べさせてくれ!」
「う、うん……ま、まぁいいよ」
なぜか慌てている彼女だが、おそらく気のせいだろう。にしても、かわいい女の子が作る料理というものはすぐ食べてみたい。
「じゃ、じゃあ……4日後よ。その日に私のご飯を食べにきて。あ、もちろん君だけね、妹は絶対に連れてこないで」
「あ、あーわかった。でも妹のご飯は……」
僕が作らなければ妹のメールが百通はたまってしまう。いや、最悪餓死するかもしれない。
「妹の分は私が箱に詰めてあげるよ。出来立てをあげることできないのは残念だけど……それならいいでしょ? あと妹さん……私の家に来るかと思う?」
「あ、あー」
頭にうっすらと道路標識が目に見えた。確かに引きこもりの彼女ならだれかの家ならともかく部屋から出てくることもないだろう。
「よし、それでいいぞ。多分あいつ来ないから」
ここは妹が引きこもりということは話題に上げないでおこう。これは兄特有の妹への配慮ってやつだ。
……まぁ本当は妹が僕以外の誰かに見られるのが許せないからなんだけど。
だからぶっちゃけ妹が引きこもりなのがすごくありがたい。
「と、とりあえずスーパーに行こ? ね? ね!?」
(なるべくはやく料理の話から遠ざかりたい)
「そうだな。たしかスーパーまではここから10分ぐらいでつくから、それまで話しながらいこう」
そして僕は歩き出した。正直スーパー以外に『Low チキ』買いたかったから『Low 損』に行きたかった。ちなみになにがなんでも絶対にコンビニではない。
「あ、そうだ私、買いたいものがあるから『Low 損』にいこうよ」
「……え?」
---
「これおいしいよね♪ 『Low チキ』」
ちょうどよかった。これを利用して何か一つ料理を増やそうじゃないか。
「でもこれ名前が『質の悪いチキン』のせいかしらないが、あんまり人気でないよな。『Low 損』にでも頑張ってもらいたい」
「ははは、そうだね。質の悪いチキン……逆に質はいいんだけどね」
彼女の言うとり、『Low チキ』は別にまずいというわけではない。なんなら僕が料理の材料にするレベルでおいしいのだからきっとおそらく……妹も喜ぶだろう。
だからここに妹の分の『Low チキ』がポケットに入っている。
「……優しいんだね。君って」
「……え?」
「ほら、それって妹ちゃんの分でしょ?」
彼女は僕のポケットを指さしながら言った。
「ま、まぁそうだな。妹も確かこれ、好きだと思うからな」
「ふふ、いいお兄ちゃんだね」
「そ、そこまででもねえよ。ただ……普通のことをやっているだけだ」
僕なんて妹とお兄ちゃんと呼ばれる筋合いはない。現に今、引きこもりの妹をサポートすることすらできていないのだ。
「えー普通なの? それって溺愛しているって感じがするけど」
「馬鹿言うな。妹は今引きこもりで……あ」
「引きこもりなんだ」
つ、つい口がすべって妹が引きこもりであることを伝えてしまった。
「あ、でも口が滑ったことを後悔しなくていいよ。私も元から知ってたし。あと多分引きこもりのこと気にしてない」
「……あぁ、そうなんだ。ってかなんで妹について知ってるんだよ」
僕以上に妹のことを知っているかと思ったら怖かったのだ。僕が妹の一番でありたかった。そのためには彼女が妹についてどこまで知ってるか調べなければならない。
しかし、彼女はすんなりと答えた。
「大丈夫だよ? 多分妹については博人君のほうが詳しいから。私は今の、すべて憶測でしかないし、事実でもない。ただ君が妹を好きってあたりからするとこういう妹でもおかしくないなって思っただけだよ」
「……すべて君の頭ってことか」
僕は今日、こいつの頭の良さをまた一段と理解してしまったのかもしれない。
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