第1話 新しい女の子と研究施設

 僕が通う大学には、友達がいない。あたりを見渡すと大体が4歳年上、ひどければ何十歳も年上がいるのだ。飛び級をしていたことを後悔するレベルで友達ができない。話が通じないと思われているのだろうか。しかし、こんな僕でも落ち込んでばかりではない。なぜなら僕には……世界で一番かわいい妹を持っているというかさまし感情があるからだ。かさまし……いやでもこの大学に通っている以上、年齢的にも格差があるし、それがあってもいいと思っている。妹の心情なんてものは知らないが……


「ごめん博人君。そこにあるキャップ締めといてくれない?」

「はい! わかりました」


 彼女の名前はしらない。とはいっても、日ごとに担当している人が変わっていくため覚えている暇などないのだ。そんな暇があったら僕は早く『真実を暴露する』薬というものの開発にまわりたい。この大学にはほかにも、性転換、未知のウイルス、致死毒などやってはいけないレベルの研究もおこなわれており、いってしまえば国に認められていない。卒業しても学士は当然もらえないが、この大学に勤めている時点で研究によってはお金が入ってくるので辞め時が見つからないし、これ以上報酬がいい職場も中卒である僕には到底面接が受かるわけではない。


「あ、そうそう博人くん。君の作っている薬、もうそろそろ完成するらしいわね」

「あーそうなんですよ……えーらいらさん」


 僕は急いで彼女の名札を見て応えた。


「もう……覚えておいてよね。何千種類ある薬品の名前おぼえてるんだし、名前ぐらい誤差じゃないの」

「それはそうなんですけどね。日ごとに担当が変わっているので覚えづらいんですよね」

「ま、それもそうね。っで、その薬を作ったら初めにどうしたいの?」

「そんなん当然……妹に、つかってみたいですよ。僕のたった一人の……大事な妹なんですよ」


 人としてどうかと思うが、妹である氷璃の本性を聞いてみたかった。兄として完璧かどうかなんかも確かめたいし、普段何も考えていない、というよりもあまり表情が変わらない氷璃はいったい何を考えているのかが気になってしまう。もし、まだ両親のことについて気にしているのであれば僕が早急に助けてやりたい。

 ※こういってますが妹に使うことはないです


「……君ならそう思うと思っていたわ。確か妹さん、頭よかったのよね。ならさ、この大学に勤めちゃえばいいのに」

「それが極度の引きこもりで……それとあいつ、化学は得意じゃないんですよね。おそらく、機械やオカルト系が好きだと思いますよ。この前雑誌に挟まれてました」

「あらそれは残念ね。この大学、いや極秘施設はシンプルに人員が足りないから、頭がいいならだれでも吸い込んじゃいたいわね」


 そういいながら彼女は舌なめずりをしていた。この極秘施設のトップであるらいらさんでならそう思うのは当然だ。それにこの施設は4月から入学というわけでもないため……今からでもすぐに入れるアットホームな会社だ。


「あーそうそう。今日この施設にね、新しい新人さんが来るわ。仲良くしてやってくださいね」

「……え? なんで僕? 頼られても年齢差が……」

「大丈夫安心して、今回の新入生は……あなたと同い年よ」


 とても嬉しかった。今まで何年も勤め続けていたが同い年が同じ研究に携わることになるとは思わなかったのだ。


 その時、ある少女が部屋に入ってきた。


「はじめまして! こよみっていいます。中学卒業して、飛び級でこのままこの職場に入ってきました!」

「……職場、なんだ」


 こよみ? の声が僕とらいら、そして彼女しかいない部屋に響く。


 こんな新入生でもここを職場だと認めていた。ま、まぁたしかにね、こんな大学とは程遠い場所だけどさ……高校いけなかったんだから大学の気持ちぐらい味合わせてくれよ。


「こよみさんね。ナイスタイミングね、ちょうど人手が足りなかったのよ」

「は、はいわかりました。えーっと……私はどうすれば」


 と、こよみは戸惑っている。自分ですら戸惑っていたのだ。きっとこの研究施設に入ってくる人は大半が戸惑っていて、らいらさんのような立派な研究員になるのだろう。


「っと……じゃ、私はもうあがりだから、よろしくね~!」

「ちょっ! 僕を置いていくな!」


 そう僕は彼女を止めようとするが……仕事が終わりだと思い込んだ人は何者にもとらわれないのだ。


「え、えーっと……」

「……」

「……」


 こ、ここは僕が自信を持って彼女にやるべきことを説明するとしよう!


「ねぇこよみさん! と、とりあえずなにを作りたいとかあるのかな?」


 するとこよみは顎に手を当て、少し考えてから応えた。


「私は……作りたいものはない。私は、この施設に入った理由もわからない。ただ……お金が稼ぎたかった」

「……な、なるほど。じゃ、じゃあ……僕の研究内容を手伝ってくれる?」

「は、はい! わかりました。確か……『真実を暴露する』薬? でしたっけ」

「お、おうそれはわかってるんだ」

「はい! 少しだけ盗み聞きしてました!」


(あ、あー。タイミングよく入ってきたのは会話を聞いていたからか)


 なら彼女はやることないんだし、助手をやってもらったほうがいいかな。少なくとも研究内容を彼女自身で見つけるまでは。


「ならこよみには僕の助手をしてもらおうかな。手伝うってことはそういうことだと思うし」

「は、はい。わかりました。必要な時があればいつでも呼んでください」

「了解。手伝いが必要になるまでは暇になっちゃうから……そこにある研究資料を見て、やりたいことを少しだけ考えといて。確かそこにあるのは……原子構造を崩壊させて絶対零度を超える冷たさを実現させる本だったかな」


 うん、もちろんそんなことは不可能だ。しかし、性転換の薬を作ったりと人道的にどうこうあるこの施設が不可能なことを研究しないなんてことはない。


「そういえば先輩は……この施設についてどう思ってるんですか?」

「せ、先輩!?」


 初めて先輩と呼ばれた僕は動揺していた。思い出したのだ、僕は飛び級をしてきたためこの施設には僕の後輩はいなかった。だが今日彼女が入ってきたことによって後輩ができたのだ。これはとてもありがたいことであり、なんならガチャでいう、SSRレベルの出来事である。


「うん、先輩ですよ。私、この施設はいったら先輩っていうのが夢だったんですよ!」

「へ、へー……自分今15歳だけど?」

「うんうん15歳……え? 15?」


 彼女は驚いていた。僕もついこの間この施設に入ってきたばっかであり、彼女に先輩といわれるほど歴が長くない。というか、もしかしたらこの子のほうが年上の可能性まである。


「え! 15なんですか!? わ、私と同い年じゃないですか」

「う、うん。だって自分今年の4月入社したばかりだし……」

「あ、あー。なるほどね。まぁでもいいや。これからも先輩って言わせてもらいますね!」


 どうせこの後、彼女のほうが誕生日が先に来ちゃって自分が先輩になってしまったとか言い出すんだろうな。とりあえず話を戻そう。


「たしか、この施設についてどう思ってるかだったよな」

「はい、そうです。私この施設に入ってきてまだ数時間なので……ってか私2時間ずっと君たちの話聞いてたんだ。まだ全然知らないので経験があれば聞かせてほしいです」


 2時間と聞いて驚いたが、自分も実際2時間はずっと話を盗み聞きしていた。この施設はなにをやってるのかすらわからず、しかもこの時はこの施設が大学だと思っていたころだ。そのぐらいが妥当だろう。


「この施設って、一応大学って言われてるんだよな。けど、本当の中身はこの通りただの研究施設、しかも『性転換』『暴露』『性格』『身体』すべてを変えたりすることができる薬を開発している……言ってしまえば悪の組織。政府に認められればここを卒業すれば学士ぐらいは入手できるだろうと思っていたのだが、この通り、ただの職場だ。でも、僕はここの仕事は悪くないと思っている。だって、ここの仕事、給料がどこの職業よりも高いんだぜ? しかも勤務時間は一日6時間、これほどいい職場はほかにもないし、中卒である僕らには縁がない」


 僕は、この職場に救われていた。昔、親を失い高校に行くお金でさえ手に入れることができなかった僕には好きなだけ使えるお金を入手でいるこの職場には魅力しかなかった。それにもともと僕はいろいろと倫理的にアウトな薬を好きになる体質だったのでこの職場は居心地がいい。


「へー、そういうことがあったんですね。たしかにわかります。私もここの職場は給料が高いって理由だけで入学を決めましたから。ただ問題があるとしたら、いつ政府につぶされるかわからないことですからね」


 そう彼女は楽しそうに言う。本来の年齢では稼ぐことさえままならないんだし、うれしいことはわかる。わかるけどな……


「僕の手をつないでブンブン手を振るのはやめてくれ」

「えーいいじゃないですか。これから二人で協力していくんですから、今のうちに仲良くなったほうがメリットはあるじゃないですか」

「た……たしかにそうだけど、早く探したらどうなんだ?」

「いやいや、もう私は決まりましたから」


 そして彼女は僕に研究内容の本のページを見せる。

 そこには目を疑うレベルの珍しいことが書いてあった。こんな本が置いてあるとは、


「人造人間……あれ珍しいな。ここの職場では薬を研究する人が多いって教えてもらったんだがな」

「実はここの職場に入った理由が人造人間だったんですよね。さっきまで薬を学んでいたのでもしかしてないんじゃないか? って思ってたんですが先ほど見てた本の一ページ目に書いてありました」

「なんで原子関係の本なのに人造人間のページが一番初めに用意されてるんだよ」


 僕は彼女から本を奪い取り、じっくりと読む。


「……す、すごい。こんな人造人間初めて見たし、本当の人間と遜色ないじゃないか」

「そうなんですよ。まさに私の理想なうつ……じゃなかった。私の理想な友達ですね」

「友達……か。いいなそれ、自分も友達なんてもの作れなかったんだよな」


 そう、彼女も僕も……多分妹も頭が良すぎてほかの人と会話がつながらず友達ができにくいのだ。ちなみに妹を引き取ったときに言われていたことがこれだ。頭が良すぎるあまり友達ができず、結局心が押しつぶされて引きこもりになったと教えてもらった。


「……そうだ! 私たち、もう友達ですよね! 先輩!」

「え? あー、たしかに。お互い話が通じるし、どうせすぐに仲良くなれるんじゃないか?」

「ふふ、それって対象の人がいる目の前でそんなこと言っちゃっていいのかな」

「いいにきまってるだろ? それより、研究内容が決まったのなら早く注文しちゃえよ。研究費なら無限大にあるらしいからな。しらんけど」


 僕の言葉を聞いた彼女は、すぐにタブレットを取ってきて操作を始める。


「じゃあ小型核融合炉……」

「まてまてまて! 人造人間でそんな危険なもの使うのか!?」

「大丈夫大丈夫。なれてるから……それに、新しいものを使ったほうがいいでしょ?」


 小型核融合炉……それはこの研究施設でついこの前完成した品物だ。まだ安全性が保障できていないため世に出回ってはいないが、少しでも公開してみれば政府が急いでこの情報を買いに来ることが予想できるほどの研究成果だ。


「そんな楽しそうに危険なこと頼まれるとみてるこっちまで冷や冷やするんだけど」

「しょうがないじゃないですか。それとも、バイオテクノロジーにするっていうんですか? 確かにそちらのほうが普通に人間として生きられそうですが」

「バイオテクノロジー……そうそうそれそれ! 」

「バイオテクノロジーかー……両方頼んでおこ」


 なんて、次々とタブレットを弄くる彼女。

 こ、こいつ……研究費がすべて無制限だからって……


「あ、もうそろそろ自分も定時だから帰るな」

「え、えー? 帰っちゃうの?」

「もうそろそろ入社して6時間だからな。お前はあと新人だから3時間。がんばれよ」


 そして僕は鞄に試作品である『真実を暴露する』薬を入れた。試作品ではあるが何かの役に立ったり、働いた証拠ともなるので基本的に試作品は持ち出すようにしている。職質されたときはこの隠しポケットで見つけることはできない。これもこの研究施設で開発された技術だ。


「んむぅー……寂しいんだけど」

「残念だったな。僕はもう疲れた……頭の使いすぎは体に毒だからな」


 そう呟いて僕は、その場を離れるのであった。

 でも……なぜかは知らないけど、僕の好みにドンピシャの女の子だったな。

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