わたしのMIRAI ~AIイヤフォンで大変身!~

Phantom Cat

1

 「普通」。


 いつもわたしが言われる言葉。


”ほんっと、なっちって普通の子だよね~”


 クラスメイトにそうからかわれるのは、もう慣れた。そんな時、わたしはいつもこう返す。


”まあね。わたし、モブを極めてるから”


 そしてお互いに笑いあって、おしまい。いちおうわたしでも、それくらいのコミュ力はそなえてる。でも、誰とも仲良くなれるようなコミュ力お化けじゃないし、かといってものすごい陰キャってわけでもない。あくまで、普通。


 今日渡された通知表の中にも、それがはっきりとあらわれている。


 一番点数が良かったのは、国語。だけどそれも真ん中よりちょっと上、っていう程度。他の科目は、ほとんど全部真ん中の成績だ。体育だけが真ん中よりもちょっと下。国語の分を体育が引きずり下ろしてるから、全体的にみたら、結局、真ん中。こういうの、なんて言うんだっけ……


 ……ああ、「相殺そうさい」だ。国語と体育が相殺している。前に「そうさつ」って読んで塾の先生に注意されたなあ。それはともかく。


 顔面レベルも、他の女子と比べると、めっちゃキレイじゃないけどめっちゃブサイクでもない、と自分でも思う。身長も真ん中。体型も太ってもやせてもいない。ほんとに、普通。「モブ」って言葉は、わたしのためにあるんじゃないだろうか。


「はぁい、それじゃみなさん、学活はこれで終わりです。夏休みだからといって、遊びすぎて宿題や自由研究をわすれないようにね。始業式には元気な姿で会いましょうね」


 担任の若村先生が言うと、委員長のアラタくんが声を掛ける。


「きりーつ!」


 ガタガタと机や椅子が鳴り、みんなが立ち上がった。そして声をそろえる。


「先生、さようなら!」


---


 ランドセルに荷物を入れ終わり、フラップの留め金をパチンと差し込んだ時だった。


「なっち、帰ろう」


 声に振り向くと、ケイちゃんだった。幼稚園から一緒で、一番仲良しの女の子。家も近いから、こんなふうに一緒に帰ることもよくある。

 ケイちゃんは、なんだかいつもよりちょっとうれしそうな顔だ。やっぱり夏休みになるから、かな。


「うん」


 うなずくと、わたしはランドセルを背負う。


---


 キッズスマホの時計を見ると、11:30 だった。

 空は真っ青。今日もおひさまはカンカン照り。お昼前なのに、ほんとに暑い。アスファルトの地面からも熱が伝わってくる。なんだか、フライパンの中で炒められてる野菜になった気分。


 家に帰る道中、ケイちゃんとは夏休みの予定の話で盛り上がった。彼女はお母さんの実家がある新潟にいつも行くらしい。日本一おいしいトコロテンがあるんだって。山の上に牧場やキャンプ場があって、家族で行ってキャンプをするみたい。いいなあ。うらやましい。


「なっちはさぁ、どこか行ったりするの?」


 ケイちゃんのショートボブの髪が風でふわりと揺れる。最近、ちょっと背が伸びたみたい。去年はわたしとそんなに変わらなかったと思うけど。


「ううん。特にどこにも行かないよ。なんか、お父さんの仕事が忙しいらしくて、お盆もあんまり休めないんだって」


「そうなんだ……」


 ケイちゃんがちょっと悲しそうな顔になる。が、すぐに彼女は笑顔に戻った。


「だったらさ、今度のプール、思いっきり遊ぼうね! ほら、ショウタくんも来ることだし」


「……!」


 いきなり顔が熱くなった。


 ショウタくん……クラスの一軍男子のトップだ。成績優秀で、スポーツもできて、しかもイケメンで性格も優しい。今年初めて同じクラスになったんだけど、ぶっちゃけ一目ぼれしてしまった……でも、わたしみたいなモブ中のモブ女子がどうにかできる相手では……絶対ないと思う。ちなみに、わたしの気持ちはケイちゃんにはバレている。とは言え、わたしもケイちゃんが好きな人が誰かは知ってる。彼女は委員長のアラタくんにラブなのだ。


 一軍女子のエリカちゃんが、たまたまケイちゃんと同じ水泳クラブにいて、来週市民プールに行って泳ごう、ってことになった。それでわたしも誘われたのだが、その話を教室で三人でしていたら、なぜかアラタくんが


 ”おれも行っていい?”


 みたいな感じで声を掛けてきて、彼にラブなケイちゃんはもちろんOK。エリカちゃんも


 ”まあ、私も別にいいけど”


 って、ちょっとツンデレっぽくこたえながら、


 ”でも、男子一人だけ?”


 って言ったら……そばにいたショウタくんが、手を上げて……


 ”ぼくも行くよ”


 って……


 そしたら、なんだかんだで10人くらいがぞろぞろ集まり、みんなでプールに行くことになってしまったのだ。


「おやおやぁ? なっちどの、なんか、顔が赤いでござるぞぉ?」


 ニヤニヤしながら、ケイちゃん。この子はなぜか時々こういうオタク言葉になる。


「う、うるさいな! ケイちゃんだって、アラタくんが来るの、楽しみなんでしょ?」


「……!」


 今度はケイちゃんが顔を赤くする番だった。


「べ、別に、アラタくんなんか、どうでもいいし」


 ……わかりやすいツンデレだなあ。


 そうこうしているうちに、ケイちゃんの家が目の前に迫ってきた。


「そんじゃ、ケイちゃん、またね」


「うん。またね」


 手を振り合い、わたしたちは別れる。わたしの家も、すぐ近く。この先の交差点を渡ってちょっと歩いたところだ。


 その時だった。


『バッテリー残量低下。機能を停止します』

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