14歳・❶「交差」

その日も下駄箱に靴はなかった。

代わりに大量の画鋲が散乱し、おびただしいほどの落書きが描かれていた。


『死ね』、『キショい』、『キモい』などと書かれた文字を、わたしは一生懸命にハンカチで拭いた。

どうやら油性マジックで何度も上書きされて描かれており、消えないようだ。


諦めて、裸足で外に出る。

靴下越しに踏む砂利も、わたしの心も、この上なく痛かった。


「明日なんて来なければいいのに…」

そう言いかけた時、後ろから同じクラスメイト達の笑い声がする。


「もう学校来るなよ!バーカ!」「キモいんだよ!クズ!」


わたしはその声を無視し、一目散に駆け出す。

目には涙が溢れていた。


家の前まで走り切った後、息が切れて立ち止まる。

どうやら連中は追ってくる気はないらしい。


「…どうしてわたしだけ」

そう思い、ついに我慢できずに声を出して泣いた。


「春原さんであってる?」


名前を呼ばれた瞬間、心臓が跳ね上がった。


「…誰ですか?」


振り返ると、目の前には大型バイクと共に、レザージャケットを身に纏った若い男が立っていた。

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