28歳・⑩「1122」

顔を拭きながら、もう一度日付を確認する。


『11月15日』


「…5日も戻ってる」

いや、正確には最初の遡りから一週間だ。

そう考えると、寿命は28年もないのだと思い愕然とした。


シフトを確認する。幸い、今日は休みだ。


まだ飲み会まで時間があったので、SF映画を観に行った。

主人公が、何光年も離れている銀河から、地球にいる家族にメッセージを送る場面が印象的だった。

下手したら、何年、何十年と途方もない時間が掛かるのに。

そう思い、今の自分の状況に重ね、嗚咽して泣いていた。


主任主催の飲み会とは、要は山口主任の送別会だ。

『11月22日付で異動になる私をみんなで労って!』というのが、主任の魂胆だ。


(あざとい女…)

内心、そう思いながら駅前までバイクを走らせた。

「善行はその日のうちにやっておくんじゃなかったのか?」

そう言っている、心の声が聞こえた気がした。


居酒屋に少し遅れて着くと、もう各々集まっていた。

集まったのは山口主任、春原さん、自分の3人だけだった。


和食がメインの個室の居酒屋だった。

主任はもうできあがっており、春原さんに絡んでいた。


「鷹野原っー!遅いー!!」

そう叫ぶ山口主任の声が廊下にまで響き渡る。


店員に声を掛ける。

「『山口』で予約したものですが…」

「ああ、お連れ様ですね。こちらです」

「履き物はこちらへ」

そう言われて、ブーツを下駄箱入れようとしたが、どこも閉まっていた。

ひとつだけ空いているところを見つけ、鍵に手をかけようとした時、血の気が引いた。


鍵の番号が『1122』を指していたからだ。


「まさか、そんな偶然…」


「鷹野原っー!はやくしろー!!」

呂律の回っていない主任の声に急かされ、席へ急いだ。

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