王道異世界転生サヴァイヴ 〜その力をレンタルさせて頂きます〜

月影光貴

第1話 サバイブするな、早よ死んでテンプレ通り転生しろ

 夜の東京の街中、20歳半ばの男は草臥れた顔しながらも手に持つモノを楽しみに帰宅している。


(はぁ............若い内に昇進したのはラッキーと思ったのになぁ............中間管理職は残業だらけでやってられねぇ。しかも前任者は失踪らしいしな............俺は長生きしてぇ、なら痩せないとなぁ)


 と心の中でブツブツ言いながら死亡フラグが歩いている。だが手に持つ紙袋から漏れる良い匂いに気分が少し上がる。


「まあ、今日は早く帰れたし大好きなダブチと大量のポテトがあるし、酒も飲んでダチとゲームでもすっかぁ」


 男はハンバーガーが好物で現状の生きる活力、だが最近はファーストフードを買って食べる時間すらなかったので声に出してウッキウキ。


「ダブチは油で揚げてポテト半分はチーズかけて炙ろうかなぁ............っ!??危ねぇっ!!」


 男は親が目を離したのか知らないが赤信号を渡る幼女に気づくが、その手前には定番の殺意マシマシ大型トラックが迫る。しかし、見捨てるだとか声をかけるだとか考える前に体は幼女を突き飛ばし男は悲惨に轢かれてしまう。


「ぎゃいああ゛あ゛っ!!」


 上半身と下半身は泣き別れし、己の痙攣する下半身が目の前に落ちている。幼女は幸い助かり大泣きしているだけである。血液でヌラヌラしている白かったトラックは無常にもその場を走り去って行く。


「うぅ゛、お゛え゛っ............そっそんな............腹の下が熱いよぉ。しっ、死にたくないよぉ............せめて............」


 男は己の血液溜まりを上半身のみで這いずり移動する、大腸なのか小腸なのか大量の紐状の臓器を引き摺り。周囲は大騒ぎになるが男は先ほどまで持っていたハンバーガーの袋を掴み中身を漁り貪り始めると周りは驚きや馬鹿にした様な反応をする。


「うわっ、マジかよ下半身よりも飯かよ」

 と笑い指を刺す若者。


「グロっ!あれはもう助からないだろうね〜」


「泣いている女の子の事気にしないで自分は飯食うとかやべぇな、これ動画撮って暴露系とかインフルエンサーに売ろうぜ!」


「たるんでる雰囲気の癖に身の丈に合わない人助けするからだな、スポーツマンなら抱き抱えて助けられた」


 と他人事で子供の命を救った男を馬鹿にする。男は血の味しかしないハンバーガーを食べて涙を流す。


「黙............れ............最後の晩餐なのに血の味しかしねぇよ............畜生............せめて俺の好きな甘いジュー............」


(ああ、死ぬ。怖い、熱かった傷が今では冷たい全身。でもあの子は助かった、それだけでも良かった)


 そう言うと半分以上溢れたコーラを飲んだところで血塗れのポテトの上に頭を落とし事切れる。顔は憎しみに溢れていた、人助けしたのにこの仕打ち、最後に食べる物が血の味しかしない事に。


 そして気づくと橋のある三途の川の前に立っていた。


「うぅ............はっ!?............はぁ、やっぱり死んだのね俺。てかあの世は仏教通りなの?俺無神論者なんだけど............いや、そんな場合ではない俺はまだ親孝行だって碌にしちゃいないんだ、渡る気は無............」


 独り言を遮る様に声が聞こえた。


「それはお前の死後のイメージを具現化したに過ぎない、渡る渡らない関わらず死亡は決定事項である。それに地球人の三途の川は仏教だけが由来では無いぞ」


 その声は後ろからであり性別を感じられない不思議な声だった。男は咄嗟に振り返るが誰もいない。


「私は全宇宙世界の概念の一つだ、人が神と呼ぶ物に近い存在である。そして一つ素晴らしい提案をしよう、地球とは違う異世界に行かないか?」


「それ私に親近感をわかせる為に地球で人気のアニメのセリフ真似たんですか?そうすると行かないって答えないといけないんですけど............いや、異世界に興味はあるけど私を現世に戻してくださいよぉ!異世界に移すなら蘇生も可能ですよね?」


 何も無い方向に取り敢えず返事をする男。


「不可能、地球人の定めた時間の概念に基づくならば、ここの今で仮に身体を用意して蘇生しても西暦1185年の春だ。今お前がいるこの場は生前の常識は通じないと思え」


「源氏と平氏の戦いが終わる年かぁ............わけわかめ............因みに異世界とやらに行かせてもらえる理由とメリット、デメリットなどを教えて頂きたいです」


「もし行かないならば記憶は消えて同じ人生を永遠に繰り返す。生き物は死後も同じ人生の檻に入れられループし続けるのだ、そしてその人生の運命は固定されている。わかるか?お前は全く次元も別の世界に行かなければ損ばかりだぞ?生まれ、またトラックに轢かれる、そしてまた生まれ轢かれるぞ?」


「............記憶を引き継げないなら異世界一択かぁ。じゃあお願いします。ただ最後に行ける理由は?善行したからですかね?」


(両親や友人と2度と会えないなら死んだのとあまり変わりないな............)


「いやランダムで選ばれた、地球のある世界は監獄みたいな物だ。お前は恩赦で刑務所から出られた様なモノだ」


 世の中善人で生きても意味無いなと思うと同時に理不尽さに少し絶望感を感じた男は無言になってしまう。


「お前の思考は筒抜けだ、だがお前は運が良い。しかし、お前をそのまま異世界に移せない、遺体の損傷が酷過ぎる。お前が死んだ後に2回更に轢かれてミンチだ、陰茎以外まともな形を保った身体のパーツが............いやそれはいい、それより何故治せないって顔をしているな?ルールだ、私が1番偉い訳では無いからな。自分が縋りたいモノにでも祈るんだな、精神以外は殆どが別物になる覚悟をしろ。いくぞ」


「えっ、ちょっ待っ............」


(神の様な概念にも序列あるなんて世知辛いな............てか異世界ってどんなタイプなんだろうか、これで地球のパラレルワールド程度だったらウケるな、クソッタレ)


 己の身体が粒子になり消えていく、そして異世界転生は成された。

 性別が男だった人は知らない家で目を覚ましたのであった。

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