爺さん日和
ネコの額ほど度量が狭い
第1話 勝負師
それは都内では閑静な街にある老人ホーム『ビギーホーム』で日々繰り返される戦いの物語である。
『ビギーホーム』は今流行りの低料金の老人ホームとは違い、すべてにおいてハイグレードを売りにした老人ホームで一部では人気があり、入居待ちが出ているほどなのであった。
そんなホームなので娯楽室もいくつもあり、みんなそれぞれに楽しんでいた。
そんな娯楽室の一つに麻雀ルームがあるのだが、この麻雀ルームには、主と呼ばれる男がいた。
その男の名前は“出島 虎雄”今年で七十五歳でホームでも若手だが虎雄が裏から手を回して入居したのだが、それは一部の職員しか知らない事であった。
「ロン」
今日も虎雄の調子が良く負け知らずであった。
「悪いな。今日も俺の勝ちだ」
虎雄は残りの三人から、かなりの現金を巻き上げていた。老人ホームで賭け事と思われるが、虎雄から挑んだ勝負では無い。
麻雀ルームにやって来る人間はみな、金よりも虎雄に勝ちたいという気持ちが強いのだった。
周りから挑まれたとはいえ、ここでの稼ぎでホームの利用金を払っているので負ける訳には行かないのだった。
今では引退しているが虎雄はプロなのであった。それも暴力団の代打ちをする裏プロであった。
現役の時はイカサマも飛び交うような修羅場をくぐり抜けていたのだから、ここでの勝負には本当の実力は隠したままである。
「すみません。今日はこれぐらいで」
そう言い残すと虎雄は食堂に向かった。
そこには一日の疲れを癒してくれる女神が待っていてくれた。
「明日香ちゃん、今日の夕食は何ですか?」
虎雄は自分でも気持ち悪いくらいの猫なで声を出していた。
その変わりっぷりにホームの仲間たちは呆れ返っている。
「今日の献立は野菜たっぷりのスパニッシュオムレツですよ。出島さん」
優しく教えてくれたのが虎雄のお気に入りの栄養士の西 明日香であった。
仕事柄、髪は短くしているが丸顔の和風美人な女性である。白衣に隠されていてもスタイルの良さは隠しようがなかった。
この子の笑顔が虎雄にとって、ビギーホームで唯一の癒しであった。
「明日香ちゃん、今度の休みに僕と食事いきませんか?」
「虎雄さん、明日香ちゃんを困らせちゃダメよ。」
他の入居者にからかわれても、虎雄は引かなかった。
「出島さんはいつも冗談ばっかり!、でも嬉しいわ」
麻雀は無敵の虎雄だが、明日香がビギーホームにやってきてから、明日香にはずっと連敗中であった。
虎雄は照れ隠しに笑ってごまかし、席に着いたが、心の中では本気で悲しんでいた。
スパニッシュオムレツなんて今まで食べたことがないので、ついソースをかけていると、同じテーブルの婦人に注意されてしまった
「出島さん、あんまり塩分の摂り過ぎはダメですよ」
それに明日香も乗ってきた。
「やっぱり、テーブルに調味料を置くのは止めましょう」
「そんな〜、俺はこの位が好きなんだよ」
「ダメです」
明日香は大袈裟に怒ったふりをした。
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