第3話 固有スキル
「はあぁぁぁっ!」
俺は集中して右手に力を込める。すると掌が光り始めた。
「えっ? な、なんですかそれは⋯⋯まさか想像以上に凄いことが⋯⋯」
リーゼロッテの期待が膨らんでいるのがわかる。
「ふっふっふ⋯⋯とくと見るがいい! これが俺の固有スキルだ!」
掌が一層強く光り始め、目も開けられなくなる。そして光りが収まると、俺の掌にはある物が乗っていた。
目を閉じて光を手でガードしていたリーゼロッテが、ゆっくりと目を開ける。そして俺の掌にある物を見ると驚きの表情を浮かべていた。
「え〜と⋯⋯それは⋯⋯」
リーゼロッテは俺の掌にある物を指差し、疑問の声を上げる。
「これか? これは宝玉だ。綺麗だろ」
俺の掌には直径17ミリ程の透明な宝玉が乗っていた。
「確かに綺麗ですが⋯⋯」
「リーゼロッテにも宝玉の美しさがわかってもらえて何よりだ」
「これを売ってギルドの運営資金に回すということでしょうか? ギルドを存続させるためには重要だと思いますが⋯⋯」
傍目から見ても、リーゼロッテが落胆しているのがわかった。想像していた固有スキルと違っていたのだろう。
「いや、この宝玉は一日経つと消えるから売れないぞ」
「何の役にも立たないじゃないですか!」
リーゼロッテは取り乱し、大きな声で叫び始める。
冷静沈着な子に見えたが、中々感情表現豊かじゃないか。
俺の人を見る目はまだまだだな。
「団長も何故私をこのような場所に出向させたのか理解出来ません」
「俺もだよ」
王国騎士団の団長であるガルドランドのおっさんと俺は昔馴染みだ。見た目は豪快という言葉が似合うが、以外と頭も切れるから厄介だ。
何故おっさんはリーゼロッテを俺の所に寄越したのか。
こちらとしては面倒この上ないからこの話は断るとしよう。
「残念だけど今忙しいんだ。出向はなかったことで」
「えっ? 昼間からお酒を飲んでいますよね?」
確かにリーゼロッテの言う通りだ。今の俺の姿を見て、忙しそうと答えるものはいないだろう。
「 ですがその意見には同意です。何故ホワイトランクのギルドに私が⋯⋯」
どうやらリーゼロッテは出向に反対のようだ。それにその出向先がホワイトランクということが気に入らないらしい。
おっさんが何を考えているかわからないが、関係者である俺とリーゼロッテが反対なんだ。この件は破談ということでいいだろう。
俺は改めて断ろうとするが、リーゼロッテの次の言葉がそれを許さなかった。
「そういえば団長からもし断られたら、優先してやると伝えろと言われましたけど何のことですか?」
優先してやるか⋯⋯それを言われたら断りにくいじゃないか。
「わかった。リーゼロッテのことを受け入れるよ」
「えっ?」
リーゼロッテはまさかオッケーが出ると思わなかったのか、驚いた表情をしている。
そして訝しげな眼をして問い詰めてきた。
「どういうことですか? さっきまで反対していたのに⋯⋯そもそも団長とどういう関係ですか? 優先するって何のことですか?」
リーゼロッテが疑いの眼差しを向けてくる。
何だか怒気も混じっているように感じるのは気の所為か?
何も答えなかったら、腰に差した二振りの剣を抜いてきそうなくらい迫力があるな。
「優先するって言うのは酒のことだ。ガルドランドのおっさんは酒が好きだろ? 良い酒が入ったら優先して俺にくれるってことだ」
「そうなの? 確かに昼間からお酒を飲んでるくらいだから⋯⋯ね」
テーブルの上にある酒を見て、俺の言う事を信じてくれたようだ。
何だか少し釈然としないけどまあいい。これで余計なことを聞かれることはなさそうだ。
「あなたが断ってくれればと思いましたが⋯⋯団長の命令なら仕方ないですね」
どうやらリーゼロッテは出向について納得はしていないが、認めることにしたようだ。国王に仕える王国騎士団だけあって、命令には忠実なのかもしれないな。
「それと⋯⋯これはガルドランド騎士団長からあなた宛の手紙です」
「ああ⋯⋯ありがとう」
俺は手紙を受け取り、内容を確認する。
なるほどね。そういうことか。
俺は何故リーゼロッテがこのギルドに出向することになったか理解した。
「それで? 私は何をすればいいの? ギルドに所属したからにはどんな仕事でもやらせてもらうわよ」
「とりあえず今は依頼待ちかな。それまで待機で」
「わかったわ」
こうして王国騎士団第二部隊副隊長のリーゼロッテが新たにギルドに加わった。
しかしこの三日後、ギルド兼酒場にリーゼロッテの怒りの声が響くのであった。
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