7月10日 田中さくらは願いをかける
お父さんのお葬式と一緒にやったらしいし。
そんな話聞きたくなかった。
お葬式の次の日に、ママに連れられてお線香をあげに行った。
お仏壇に
にっこり笑ってピースしてる写真。
もうここにいないだなんて、信じられない。
「さくらちゃんあの子と仲良くしてくれてありがとう。ごめんね、ごめんね」
と何度も言った。
あたしは
この人は、何を謝ってるんだろう?
何も知らないくせに。
よっぽど、
あれは
うちのママは、
あれから大人たちはみんなそうだ。あたしを何か言いたげに見つめて、何も言わない。あるいは、元気出してね、とか言ってくる。元気なんか出るもんか。
それとも、無理してがまんして、大丈夫って笑えばいいのかな。そしたらみんな満足するのかな。
それって、
学校に行っても、誰もいない
保健室に行く。立ち入り禁止のテープが貼ってあるけど、かまわずにまたいで中に入る。
――ふざけんな。
あたしはうわばきもぬがずにベッドに寝転んだ。
そして願う。
ヨシダくん、ヨシダくんどうかお願いします。
たまには呪い以外も叶えてよ。
けれど、なにも起こらない。
でも、何も起こらなかった。
《
なんで?
なんであたしの願いは叶えてくれないの?
ねえ、
NAOは幼少期、日本でイヤな思いをしたんだって。だからアメリカに行ったんだって。
あんな家飛び出してさ。
二人ならなんだってできるから。
どうして、会えないんだろう。
やっぱり、ヨシダくんは、人を生き返らせることはできないのかな。
それだったら、せめてあたしを殺してほしい。
べちゃり。
湿った音がして、あたしは目を開けた。
ベッドの横、カーテンの向こうに誰か立っている。なんか、生ゴミみたいな臭いがする。
「……さくら、わたし」
「
起き上がる。小さな声で呼びかける。心臓が、痛いくらいにドキドキしてる。
「そうだよ、さくら」
もう二度と聞けないと思っていた声。
ヨシダくんが願いを叶えてくれたんだ。
「
涙があふれる。カーテンの向こうで影がゆらめく。
「さくら、開けて」
「うん!」
あたしはぐいっと涙をぬぐい、笑顔でカーテンをシャッと開けた。
そこには大きな
全身が綱引きの綱みたいに太い毛のようなもので
あの日見た血のようなもっとどす黒いような何かでぐっしょり濡れている。
これは、
「莉――」
「さくら、あいたかったあ」
突然ガバッと、どす黒い毛の中に、真っ赤なぬらぬらした巨大な穴が開く。びっしりとトゲのようなものが生えている。ねばっこい透明な液体がしたたり落ちる。
これは――口?
「いただきまあす」
ごりゅんと音がして頭から顔中が痛みと熱さに包まれて、あたしの意識はぷつりと途切れた。
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