水色連盟


「急にあったかくなったじゃないですか?だからなんでしょうけど」


私は一拍置いてから


「街の中がカフェラテとブラックコーヒーだらけだったんですよ」


冬が春になる頃、謎かけのつもりでわたしは、先輩にほんの少し怒ったような調子でそう言った。


朝の通学路、春めいたと言うには暑すぎる、初夏の陽気に挫けそうになりながら。


日陰をたどって歩きながら。


「急に詩的な表現ね。そんなに怒ること?」

「確かに、最近のコートはずっとあんな色よね。でもミモザのような黄色もいいだ

ろうし、若草色も……そうね、確かにちょっと面白くないかもね」


揺れる銀色の髪がその夕暮れのような瞳を僅かに隠す。それをさりげなく見せるように訓練を積んだ仕草で後ろへかきあげると雪乃先輩はそう言った。


「なんでもお見通しなんですね」


少しつまらなそうに膨らませた、わたしの頬を指でつっつきながら


「そう言わないで。私たちなら、ミルクティー色といえば少しはいいかしら、そう言えば、ミルクティーにするのに良い茶葉が手に入ったのよ。今日開けようか、お詫びにね」


もう少しだけ意地を張りたくてそれには答えずに


「明日はまた少し寒いみたいですから、コート着て来ちゃおうかなって」


「クリーニングから帰って来たばっかりなんですけど」


「お母さん怒らない?」

「多分……ううん、確実に怒られます……でもちょっと、そうですね」

「面白くないなって思ってるんだと思います」


ただの遊び半分で話し始めたことだったのに、なんだか意地になっているようだった。


「まだ先輩には見せたことがないコートなんです。だから」

「そっか。うちはコート自由だもんね」

「普段は学校指定ので登校してますけど。先輩もですよね」

「まあ大体の子はそうだからね、あえて目立つこともないかなって。それに私、似合わない色が多くて」


「わたしのコートは空色のような水色なんです」


「あら、奇遇ね、私のは海色のような水色よ」


「じゃあ……明日二人でコートで登校しますか?」


先輩は何も言わずにただ笑うだけだった。


「アメリカ合衆国ペンシルヴァニア州レバノンのイジーキア・ホプキンズ氏もわたしと同じ気持ちだったんじゃないかなって」


ふいに口をついたその言葉に、雪乃先輩はほんの一瞬呆気に取られたようで、でもそれは、本当に目を凝らしていなければ気づけない程の一瞬だった。


そして微笑みながらわたしの言葉の続きを待っているみたいだった。

晴れわたる空はわたしのコートの色にそっくりで明日も同じ天気なら溶け込んでしまいそうだ。先輩の水色はどんな色なんだろうか?そんな事を考えながら、言葉の続きを探す。


「街の中がブロンドとブルネットだらけで、面白くないなって思ったんじゃないでしょうか?だから赤毛連盟っていう……」

「その中に赤い髪の……少しでも彩りがあれば……楽しいじゃないですか」


あれは物語の中の話だし、それに……そう思って先輩の反応をそっと横目で盗み見る。どこにいても目立ってしまう雪乃先輩はこの一言になんだか心を打たれたように見えたのは気のせいだろうか。先輩なら銀色連盟の首領間違いなしだ。でもそれにはわたしは入れてもらえないな。


考えているうちに恥ずかしくなってしまって、何か誤魔化す言葉を探しながら、影を踏みながら歩き続ける。昇降口のマリア様の像の前で、先輩はわたしの方を向いてこう言った。


「水色連盟ね」


聞き返すわたしに、先輩はもう一度言った。

「私たちの所属」


「もう春なのに冬色の……水色のコートを着るの。週四ポンドは払えないけれど」


「お仕事は謎解きで」


「報酬は美味しいお茶とお菓子とおしゃべりと——」


「それがね、二人だけの」


『水色連盟』


声が重なった。

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