短編小説 八月の先生

梟町

八月の先生

『拝啓 先生へ


先生はこの間の夏のことを覚えておいてでしょうか


私はあの光景が脳裏に焼き付いています


あの時のフィルムがあれば劣化するのが怖くて怖くて、湿気の少ない箪笥の奥にしまっているでしょう


ところで先生私は、人に興味を持てないのです


私が興味を持つものはたくさんあります


セミの鳴き声、列車の汽笛、コオロギの合唱、車のティーゼル


果ては人を殺す銃声、肉を切る刃物の音


音だけでなく、世界が作り上げた世界の地層や星々の動き。


人間がこれまで積み上げてきた、文化、歴史、法律、建築


そんな、あらよるすべてが気になります


その音も世界の謎もすべて、僕やあなたの隣にいる人間という種族が解き明かしてきたのに


でも私にも一人だけ、興味を持つ人がいます。


初めて出会った、ペットショップ


仲良くなった、猫カフェ


暑い夏に行った、海の家


自分の足を叩いた、スイカ割り


夏のライトアップを見に行った、川田川蛍がいる川


告白したかった、夏祭り


君は今東京にいると聞きました


僕はそろそろ成人すると思います


君が戻ってくる頃にはもう僕はもういないでしょう


君には僕とのつらかったことも、悲しかったことも、楽しかったことも、もうすべて振り返らないでほしいんです。


それではさようなら?

                               敬具 ぼく 』



『P.S. ぼくからプレゼントを贈ったのでそろそろ届くと思います。寿命はあまり長くはないものなのですが、きっと君の夜道を照らしてくれます。        』

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