第3話【わたし視点】あったかいところ、みーつけた!

ある日、翼さんと一緒に空を飛んでいたら、森の中で、誰かが戦っているのが見えた。

わあ、面白そう!

わたしが、翼さんの背中の上でぴょんぴょん跳ねて「あっち! あっち!」とアピールすると、翼さんは心得たとばかりに、音もなく、戦っている場所に舞い降りた。


下では、二人の人間が、すごく大きくて、緑色の肌をした、デコボコの怪物と戦っていた。

あれ? あの緑の怪物、前にも食べたことがあるやつだ。確か、あんまりからくなくて、パワーアップもそこそこだった記憶がある。うーん、ハズレの魔物だ。

でも、人間を見るのは、このぷるぷるの体に生まれ変わってから、初めてだ!

なんだか、すごく懐かしい感じがする。わたしも昔は、あんな風に手足があったような……? うーん、やっぱり思い出せないや。


わあ!

それにしても、あの人間、すごく綺麗!

一人は、すごくキラキラした女のひと。腰まである銀色の髪がきらきらしてて、深い青色の瞳はビー玉みたい。お姫様みたいだ! よし、このひとは『ビー玉さん』だ!

もう一人は、黒い髪の男のひと。ぐったりしているように見えるけど、必死に剣を振るって、ビー玉さんを守っている。着ている鎧がカクカクしているから、このひとは『黒騎士さん』に決定!

でも、黒騎士さんの左腕には黒ずんで、動きがすごく鈍い。あんなに大きくて強そうな緑の怪物を相手にするのは、大変そう。


緑の怪物は、大きなこん棒をぶんぶん振り回している。そのたびに、びゅん!と風を切る音がして、近くの木がばきばきと折れていく。すごい力持ちだ。

黒騎士さんは、ビー玉さんを庇いながら、なんとか攻撃をかわしているけど、だんだん追い詰められているみたい。


「ぐるおおおおっ!」

緑の怪物が、大きな口を開けて吠えると、黒騎士さんの足が、一瞬だけ止まった。

その隙を見逃さず、緑の怪物が、汚れたこん棒を力いっぱい振り上げる。

ビー玉さんが、悲鳴みたいな声を出して、綺麗な目から雫をぽろりとこぼした。


あんなに綺麗なひとを泣かせるなんて、ひどい! あの緑のやつ、いじわるだ。

あんまりからくないけど、仕方ない。わたしが助けてあげなくちゃ!


わたしは、翼さんの背中から、ぽよん!と飛び降りた。

そして、木の枝を滑り台みたいにぴょんぴょんと飛び移って、緑の怪物の背後に、音もなく着地する。

緑の怪物は、目の前のビー玉さんたちに夢中で、わたしには全然気づいていない。


よし、今だ!

わたしは、にゅーっと体を大きく広げると、緑の怪物の、太くて丸太みたいなお尻に、思いっきり、ぱくり!と噛みついた!

「ぎゃおおおおっ!?」

緑の怪物が、今まで聞いたこともないような、すごく間抜けな悲鳴を上げた。

わたしは、そのまま掃除機みたいに、ずごごごーっ!と、緑の怪物を吸い込み始めた。


うーん、やっぱり、あんまりからくない! 汗と泥と、なんだかよくわからない獣臭い味が混ざって、いまいちだ!

それに、前に食べたことがあるから、お腹の中のパワーもあんまり増えない。うーん、やっぱりハズレだ。

緑の怪物は、お尻からどんどん吸い込まれて、みるみる小さくなっていく。そして、あっという間に、わたしの体の中に、全部きれいに収まってしまった。

ぷはーっ! げぷっ。


静かになった森の中で、わたしと、ぽつんと取り残されたビー玉さんたち。

二人は、何が起きたのかわからなくて、口をぽかんと開けて、わたしを呆然と見ている。


わたしは、黒騎士さんの腕の黒いモヤモヤや、周りに倒れている人たちの痛そうなところが気になった。黒いモヤモヤは、からそうで美味しそう! 痛そうな傷は、治してあげなくちゃ!

わたしは、ぴょんぴょん飛び回って、みんなのところへ行った。

まずは、黒騎士さんの腕の黒いモヤモヤを、ちゅーっと吸ってあげた。うん、ぴりぴりして美味しい!

次に、倒れている人たちの、血が出ている痛そうなところに、わたしの体の中から作ったキラキラしたお薬を、ぷしゅーってかけてあげる。そうしたら、ぱっくり開いてた傷が、すぐにくっついちゃった! 不思議!

みんな、すごくびっくりした顔をして、元気になったみたいだ。えへへ、いいことしたな!


わたしが、ぷるんと体を揺らしてアピールしていると、木のてっぺんから、翼さんが、ばさっ!と翼を広げて舞い降りてきた。

そして、わたしの隣に、どしん、と着地すると、まるで「我が主の力、見たか!」とでも言うように、威厳たっぷりに胸を張った。


ビー玉さんが、はっと我に返ると、信じられないものを見るような目で、わたしと翼さんを、交互に見つめている。

そして、手に持っていた短い剣をぽとりと落とすと、涙で濡れたままの顔で、一歩、また一歩と、わたしの方に近づいてきた。

わあ、あったかそうなところだ!

わたしは、彼女に抱っこしてもらいたくて、ころころと、彼女の足元に転がっていった。

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