第13話 折れない心
夜の冷たい空気が頬を刺していた。木々に囲まれた森の広場は昼間よりずっと暗く、月明かりだけが淡く地面を照らしている。その中で私は剣を振り続けていた。
何度も、何度も。
「繋げる」――そう教えられてから、私はひたすらに繰り返している。呼吸と魔力の流れを意識し、刃を振り抜き、次の動きに自然につなげる。それを心がけてはいるけれど……。
「っ……はぁ、はぁ……!」
バランスを崩して転んだ。手から剣がすっぽ抜けて、湿った土の上に落ちる。乾いた音が夜に響いて、心臓がぎゅっと痛んだ。
――また失敗。
「ティナ」
背後から声がかかる。振り返れば、彼が静かに私を見ていた。どこか冷静で、けれど私のことを諦めない、そんな瞳。
「集中が切れたな。深呼吸しろ」
「……ごめん」
無意識に謝ってしまう。転んだこと、失敗したこと、全部私が悪いと思った。彼は眉をひそめて、近づいてくる。そして落ちていた剣を拾って、私の前に差し出した。
「謝るな。失敗は積み重ねだ。繰り返すほど、次は成功に近づく」
「でも……」
唇が震える。胸の奥に押し込めていた感情が、また顔を出しそうになる。
――私は、いつも失敗ばかりだった。
アリスと比べられて、結果を残しても「アリスならもっとすごい」って言われる。私が頑張ったって、誰も本気で褒めてくれなかった。家族も、周りも。
「私……小さいころから、ずっとそうだった。どれだけ努力しても、誰も私をちゃんと見てくれなかった……。アリスは褒められるのに、私には『惜しいね』とか、『アリスの妹だから当然だ』とか……」
気づけば声が震えていた。こんな話、誰にもしたことがなかったのに。けれど、彼の前では、どうしても抑えきれなかった。
「だから……また失敗したら、今度こそ……」
「ティナ」
彼の声が遮った。強く、でも優しい響きだった。
「俺だけはお前をちゃんと見てる。お前が転んでも、失敗しても、何度だって立ち上がる姿を、俺は見てる」
胸が熱くなる。涙が勝手にあふれてきて、頬を伝った。
「……ほんとに?」
「ほんとだ。俺は嘘をつかない」
彼の瞳はまっすぐで、逃げ場がなかった。でも不思議と怖くなかった。見透かされているのに、安心できる。
「……ありがとう」
小さく呟いて、剣を受け取る。涙でにじむ視界の中で、柄を握り直す。
「私……もっと頑張る。失敗しても、折れない。あなたが見てくれるなら……私はきっと強くなれる」
彼が小さく頷く。
月明かりの下、私は再び剣を振った。体は重く、腕は震えている。けれど心はもう折れていなかった。むしろ、前よりもずっと強い炎が胸の奥で燃えていた。
――折れない心。
それを支えてくれる人がいるなら、私はどこまでだって進める。
夜はまだ続く。私の修行も、まだ終わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。