第4話 光のような人 後編
魔法学園の講堂は、緊張と期待に包まれていた。
十五歳を迎えた生徒たちが、自分の契約精霊を呼び出す――一生に一度の契約の儀。
その瞬間を見届けようと、教師だけでなく王都から派遣された役人までもが集まり、ざわざわとしたざわめきが空気を揺らしていた。
「次は……アリス・フェルン」
先生が名を呼んだ瞬間、空気が変わった。
誰もが背筋を伸ばし、期待の視線が一点に集まる。
「アリスなら絶対すごい精霊を呼ぶぞ」
「だって、剣術も魔法も学年首位だし」
「将来は騎士団長か、それ以上かもな」
クラスのあちこちからささやきが聞こえてくる。
称賛と羨望と憧れ――そのすべてが、アリスただひとりに注がれていた。
……わかってる。
いつだってそうだった。
小さいころから、私はアリスと一緒に育ってきた。
同じ時間に起き、同じ授業を受け、同じ課題に挑んだ。
でも結果はいつも決まっている。
剣の稽古では、私が木剣を振り下ろすより早く、アリスが綺麗な型を決める。
魔法の授業では、私が必死に詠唱を思い出している間に、アリスは一度で成功させる。
試験の点数はいつもアリスが一番で、私は二番目か三番目。
家に帰れば、父も母も「アリスは本当にすごい」と褒め称えた。
私だって努力してきたのに。
夜遅くまで練習して、誰にも見られないように泣きながら何度も挑戦したのに。
それでも――アリスの隣に立つと、私はただの影だった。
「はい」
アリスは一歩前に出る。
真っ直ぐ背筋を伸ばし、落ち着いた声音で祈りの言葉を紡いだ。
その瞬間、床の魔法陣がまばゆく輝き、講堂全体が光で満たされていく。
「わあっ……!」
「すごい、なんて綺麗……!」
誰かが思わず声を上げた。
光が渦を巻き、金色の羽を散らしながらひとつの存在が姿を現す。
威厳に満ちた長身の姿、背には広大な翼。
その身から放たれる気配は、まるで太陽そのもの。
「……あれは……光の大精霊……!」
教師の声が震えた。
王都の役人も、驚きのあまり口を押さえている。
「嘘だろ、伝説級の存在じゃないか!」
「光の精霊なんて、王家の記録にしか残っていないのに!」
「やっぱりアリスは特別なんだ!」
歓声が爆発する。
生徒たちは興奮し、手を叩き、涙を流す者さえいた。
アリスは少し頬を赤らめ、控えめに微笑んだ。
「これからよろしくお願いします」
その瞬間、光の大精霊は優雅にひざまずき、忠誠を示した。
……胸が、締め付けられる。
目の前が滲んでいく。
「次、ティナ・フェルン」
呼ばれた声が遠く聞こえた。
皆の興奮はまだ冷めず、拍手と歓声の余韻が残っている。
その流れに飲み込まれそうになりながら、私は必死に前へ進んだ。
――負けられない。
今度こそ、私の番だ。
誰もが私を見て、驚き、褒めてくれる……はず。
私は深く息を吸い込み、精霊を呼ぶための言葉を唱えた。
魔法陣が淡く輝き、空気が揺れる。
胸の鼓動が速くなる。
「……お願い……!」
だが、現れたのは――小さな、小動物のような精霊。
淡い羽を揺らし、か細い声で「きゅう」と鳴いた。
一瞬、静寂。
そしてすぐに、嘲笑が広がった。
「え……しょぼ……」
「下級精霊じゃないか」
「フェルン家の娘なのに、期待外れだな」
笑い声が耳に突き刺さる。
先生は言葉を失い、ただ困った顔で私を見つめていた。
「ティナ……」
アリスが駆け寄ってきて、私の肩に手を置いた。
「大丈夫。きっと、これから強くなれるよ」
――やめて。
その優しさが、私を一番追い詰める。
どうして、そんなに眩しく笑えるの。
どうして、勝者の目で私を慰められるの。
「……っ」
視界が揺れ、胸が苦しくなる。
小さな精霊が私の肩に乗って、心配そうに私を見上げた。
けれど、その姿が余計に惨めで、涙が溢れそうになった。
――私じゃ、だめなの?
どうして、誰も私を見てくれないの?
歓声と拍手はまだアリスのために響いている。
その光の中で、私は影のように立ち尽くしていた。
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