推しの悲劇ヒロインを救ったら、俺に依存してきた件

Ruka

一章

第1話

 ——俺はティナ推しだ。

 敵役? 悪神と契約した悪女? そんなのは表向きの話だ。

 プレイヤーなら誰でも知っている裏設定、ティナはただの被害者なんだ。


 ゲーム『セレスティア・クロニクル』をやり込み続けて三年。

 メインストーリーは百周以上、サブイベントは全回収、開発者インタビューまで読み漁った俺は、今日もモニターの前でにやけていた。


「……ああ〜……今日も尊い」


 画面の中、薄紫の髪を揺らす少女が切なげに笑っている。

 ——ティナ・ルーヴェル。

 王国の名家に生まれながら、常に比較され続けた少女。

 優秀な姉アリスは光の大精霊と契約し、英雄と称えられ、家族や国民から愛される存在。

 一方のティナは、普通の精霊しか契約できず、努力しても一位を取れず、常に「アリスの妹」と呼ばれた。


 そして十五歳の精霊契約の儀。

 そこで彼女が掴んだのは——普通の精霊。

 周囲の落胆と失望を受け、彼女は禁忌の術に手を伸ばす。

 その結果、悪神と契約し、アリスや王国と敵対する……。


 ……というのが表向きのストーリー。

 だが俺は知っている。

 彼女がその道を選ばざるを得なかった理由も、本当は優しい心を持っていることも。

 隠しシナリオで彼女の過去と想いを知ったとき、俺は誓ったのだ。


「マジでゲームの中に入れたら、俺が推しルート作って救ってやるのにな〜」


 そんな冗談半分の言葉を呟きながら、ふと時計を見ると、深夜一時を回っていた。

 腹が鳴る。

 カップ麺のストックも、ポテチも切れている。


「……しゃーない、コンビニ行くか」


 財布とスマホを手に取り、パーカーを羽織って外へ出た。


◇ ◇ ◇


 住宅街の夜は静かだ。

 空気は冷たく、遠くで犬が一声吠える。

 スマホでSNSを開くと、ちょうどティナ推し仲間が考察を上げていた。


『ティナの笑顔は守られなきゃいけない』

『わかる』


 ニヤけながら歩いていた、その時だった。

 カーブの向こうから、猛スピードの車が現れた。

 クラクション、タイヤの悲鳴、そして——


「え、嘘——」


 衝撃が全身を襲い、世界が回転する。

 視界が暗転し、耳に血の音が響く。


◇ ◇ ◇


「……おや、随分と面白い魂が来たな」


 目を開けると、漆黒の空間。

 そこに立つのは、黒いローブを纏い、銀髪と赤い瞳を持つ人物——死神。


「お前、ティナって子を推してるだろ」

「は? ……え、なんで知ってんの!?」

「死ぬ直前までブツブツ呟いてたぞ。“推しルート作る”とかなんとか」

「やめてくれ、死んでも恥ずかしい!」


 死神は口元を歪めると、唐突に言った。


「お前、事故で死んだ。まあ、もう現世には戻れん」

「軽く言うな!」


「……だが、提案がある」

 死神は一歩近づき、赤い瞳で俺を見据えた。


「お前の推しているティナ。あの世界は実在する。そして今、その物語は“歪められている”」


「歪められてる?」


「本来、彼女は悪神と契約する運命ではなかった。だが何者かが裏で干渉し、運命を変えた」

「……」

「このままでは、彼女だけでなく、あの世界全体が滅びる」


 息を呑む。

 死神はさらに続ける。


「その世界を正すためには、物語の全容と彼女の真実を知る者が必要だ。現地人には知り得ない“裏設定”を」

「……それって、俺じゃん」

「そう。お前が三年かけて集めた知識こそ、世界を救う鍵になる」


 心臓が高鳴る。

 ゲームだと思っていた世界が実在して、推しを救えるチャンスがある——しかも俺にしかできない方法で。


「……やる。絶対やる」

「決まりだな」


 死神が指を鳴らすと、光が俺を包み込む。

 身体がどこかへ引っ張られていく感覚。


「……ひとつ言い忘れてた」

 光に飲み込まれる直前、死神の声が響いた。

「お前の転生先、ティナと敵対する悪役——魔神だから」


「はあああああ!?」





一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一



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