散らしたい香気

 春の香気が漂っている

 自身の周囲を満たし覆い尽くさんばかりに広がっていく

 痛み

 胸に針が突き刺さるかのような痛みに

 夢の終わりを感じながら

 錨を降ろし船を降りる


 潮の香気が漂っている

 自身の体を突き抜けるかのように流れていく

 痛み

 四肢がもげるかのような痛みに

 夢と現実の間にいるのを感じながら

 慈愛を待ち焦がれている


 香気を散らしたくて

 手足をバタバタと動かしてみせるが

 痛みに襲われた手足は思うままには動かず

 ただ風に吹かれるがままに自然に動くのみで

 香気を散らすことはできない


 針が刺された胸が

 もげた四肢が

 海に流されていった


 僕はただ

 それを黙って眺めていた

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