32話 宣戦布告
「優多、俺今日弁当じゃないから学食行こうぜ」
「悪い剛史、今日俺用事ある」
「珍しいな。まぁいいや、春樹にも伝えとくわ」
「助かる」
俺は剛史に断りを入れ、そそくさと教室を後にする。
本当なら剛史達と食べたかったけど……この問題を先送りにすると将来的に大変なことになりそうだからなぁ。
やりたくないことを率先してやらなければいけない、大人になるって大変なんだなぁ。うたを。
騒がしい廊下を抜け、向かった場所は校舎裏。
女の子から呼び出されたのであれば良かったのだが、残念なことに呼び出し人は男だ。
俺の青春は一体どこに行ってしまったのか……いや、女の子に呼び出されても素直に喜べないな。そう考えたら呼び出したのが男で良かったのか……?
「待たせたね」
人気のない校舎裏に聞き慣れない声が響く。声のする方へ視線を向けると、そこには以前俺の事を睨みつけていた加藤がいた。
「いや、さっき来たところだから気にしないでくれ」
「そのセリフは女の子に言われたかったなぁ」
「俺も男には言いたくなかった」
ふっと笑う加藤。イケメンは何をしても様になるなぁ……顔を合わせただけで精神を抉って来るとかこいつ中々やりおる。
「それで?俺を呼び出したのは希咲良の事で良いんだよな?」
「察しが良くて助かるよ。あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前は
「さいですか」
こんなイケメンに名前を憶えられているとは。まぁ有名なのは俺じゃなくて希咲良の方で、俺はその希咲良に引っ付く虫として周りから認知されているのかもな。
「さて、自己紹介も済んだところで早速本題に入ろう。……安藤優多、俺はお前に宣戦布告する」
加藤の人差し指が俺の眉間に照準を合わせる。彼の瞳は俺への敵意で燃え上がっていた。
「貴公に喧嘩を撃った覚えはないのだが?」
「……何その口調?」
「あっ、なんでもないです。……つ、続けて?」
だって宣戦布告するとかいうから!一応それっぽい感じにした方が良いのかなって!
シリアスな空気が一瞬霧散する。ごめんね?あんなにかっこつけてたのに俺のせいで台無しにしちゃって。
「んんっ!安藤優多、君は僕の恋路を阻む障害だ、敵だ、悪だ!」
もう既に察しは付いていたが、加藤は希咲良に惚れているのだろう。あんな敵意をぶつけられて気付かない程鈍感ではない。
「幼馴染という立場に甘んじ、希咲良さんからの信頼や好意を勝ち得ているというのにこの体たらく……俺は貴様のそういう所が嫌いだ!僕が希咲良さんと幼馴染ならとっくに告白している!なのに何なんだ君は!そういうプレイか?特殊性癖の持ち主なのか!?」
「いやあの……え?」
「そもそも!君がさっさと希咲良さんに告白していればこんなことにはならなかったんだ!正直に言おう!ずるじゃん!生まれた時から勝ち組じゃん!俺だって希咲良さんと幼馴染になりたかった!」
「えっと……ごめん……なさい?」
想像の斜め上を行く言いがかりに俺の脳は一時停止する。反射的に謝罪の言葉を返す事は出来たが、今の状況を上手く呑み込むことが出来ない。
「とにかく!安藤優多、君の不甲斐なさに僕は失望した。君のような軟弱者に希咲良さんは相応しくない!」
「……は?」
自分でもびっくりするほど冷たい声が漏れる。
「怖い顔をしてどうした安藤優多。僕は事実を言っているだけさ。幼馴染という立場に甘え、それ以上先の関係に手を伸ばそうとしない臆病者より、希咲良さんを幸せにする自信があり、周りの人に好かれ、そして何より希咲良さんの可愛さに負けないくらい容姿の優れたこの僕こそ、希咲良さんの恋人になるに相応しい」
「……」
言い返したい気持ちはあった。しかし、加藤の言っていることは何も間違っていないため、何も言い返すことが出来ない。
幼馴染という立場に甘えているのも事実だし、加藤がかっこいいのも事実だし、希咲良に復讐しようと、希咲良を幸せにするのではなく、不幸を味わわせようとしたのも事実だ。
「ふっ、言い返すことも出来ないとは……想像以上に軟弱なんだな君は。さらに失望したよ」
何も言い返さない俺を、まるでつまらない物を見るかのように一瞥した加藤はそのまま俺に背を向ける。
「君は希咲良さんに相応しくない。可憐な花に棲みつく害虫は僕が駆除する。まぁ、残された僅かな時間で甘い蜜を楽しんでおくと良い。もう二度と吸えなくなるのだからね」
そう言い残し、加藤は歩いていった。
「はぁ、希咲良を好きになる奴が出てくるのは分かってたけど……まさかここまでぼろくそ言われるとはな」
静寂を取り戻した薄暗い場所で大きなため息を吐く。
希咲良に相応しくないのなんてとっくに理解している。だから今こうして希咲良に相応しくなれるよう頑張ってるんだろうが。人の事情も、努力も、気持ちも知らないで好き勝手言ってくれる。
「……ってそれはお互い様か。それに加藤は何一つ間違ったことを言ってないからなぁ」
そう、加藤の言った事は何一つ間違っていない。彼からしてみれば希咲良という花に付き纏う害虫に見えるのは当然なのだ。
「まぁ加藤が希咲良に害を成す存在じゃないと知れたのは良かったかな?無理やりだとか、姑息な手段を使おうとか、そういうタイプの人間じゃなさそうだし」
加藤の言葉は非常にまっ直ぐな物だった。俺に対して真っ向から喧嘩を売り、希咲良を惚れさせると宣言して来る奴は今まで見たことが無い。
それに容姿も、周りからの評価も俺より優れていると来た。これなら希咲良を任せられる──
「なんて、言うはずないだろ」
俺は確かに希咲良に相応しくないかもしれない、だからこうして頑張っているのだ。誰かにとやかく言われて諦められるほど、俺は聞き分けが良い人間じゃない。
「俺とお前じゃ片想いの歴が違うんだわ、加藤」
だって前世から希咲良のおっかけしてますからね!両手で数えるとか言ってらんないくらい片想いしてますからね!
ちはから
フォロワー様1000人!
ありがどうございまず!!
もうなんとなく察してると思いますが投稿頻度が2〜3日に1話って感じになります。ご容赦を〜。
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