第2話 お客様、テーブルは叩かないでください。

「俺の幼馴染が可愛すぎる!」

「……受験から解放されてついに頭がおかしくなったか」

「え~、優多にしては意外と持った方じゃない?あっ、次僕の番か」

「失礼だなお前ら、特に春樹はるき

「だって事実だもーん」

 

 高校受験を乗り越え、第一志望合格という最高の結果を手に入れた俺は、気の置けない友人たちとカラオケに遊びに来ていた。


 あっという間に月日は流れ、転生してから10年以上が経過した。


 幼稚園児の頃は、常に優しい親戚のおじさん的存在に。

 

 小学生の頃は、意地悪をしてくる男子から守る近衛兵に。


 中学生になってからは、思春期特有の距離感を測りながらも、常に希咲良のために行動をし続ける召使いになった。


 努力の甲斐もあってか、俺に惚れているという確信は得られていないものの、そこら辺の男子と比べる必要がないほど希咲良からの評価は良好だ。


 長い年月を要したが、計画はかなり順調のように思えた。が、ここで一つ大きな問題が発生する。


 俺の方が希咲良に惚れてしまったのである。


 ……しょうがないじゃん!?だって希咲良可愛いんだもん!可愛すぎるのが悪いと思わない!?


 希咲良の信頼を獲得するため、彼女に害を与えようとする者を排除し、でろっでろに甘やかしてきた。ここまでは良いのだ。ここまでは。


 甘やかした時に見せる希咲良の蕩けた表情。

 体が触れるほど異様に近い距離感。

 ふと目が合った時の嬉しそうな笑顔。


 これらを大量に摂取し続けた結果、俺の心は見事に打ち抜かれてしまった。もう風穴まみれである。

 

「というか西城さいじょうが可愛いのは周知の事実だろ?今になって可愛さに気付くとかお前のセンスどうなってんだ?」

剛史つよし、お前が良い奴なのは理解しているが希咲良のことを狙っているなら話は別だ。友人として多少甘く採点してやるが、前提条件として年収は1000万以上じゃないと認めないからな」

「お前は西城の親かよ……後狙ってないから安心しろ」 

「優多は希咲良さんの親みたいなものでしょ。だって優多の頭の中ってほとんど希咲良さんの事で構成されてるし」

「確かに。言われてみれば親だったわ」

「希咲良の親に失礼だろ。今すぐ謝りたまえ」

「なんでお前は西城関連のことになると急に頭悪くなるんだよ……」


 確かに俺は精神年齢が他の人達より高いが故に、希咲良に対して年不相応な立ち回りをしてしまう時がある。


 しかし、それはあくまで年下の親戚の面倒を見ている感覚であり、希咲良のことを娘だと感じたことは一切ない。


 希咲良の両親は世界で2人しかいない。そんな大切な存在を自称する、なんて馬鹿げた事はしないし、したくない。


「まぁ優多が頭悪いのは置いておいて、希咲良さん含めて皆氷見ひみ高校に受かって良かったね」

「おいそこ、しれっとディスってくるんじゃない」

「剛史の言葉を借りただけだよ?悪いのは剛史ってこと」

「おい!これで俺のせいになるのおかしいだろ!」


 俺達が受験したのはこの地域でも割と偏差値が高めの高校だ。


 前世は家に近いからという理由で高校を選んだわけだが、今の俺はお勉強に対するモチベーションと事前知識を持っている。それを生かさないのは勿体無い。


 両親も子供が良いとこの学校に入ったら安心するはずだ。と言う事で氷見高校を受験し、友人と共に無事合格。やったね。


「そうだ、聞いてくれよ。希咲良が可愛すぎるって言っただろ?実は合格したのを伝えたいからってわざわざ家にまで来てくれたんだ。合格したのがよっぽど嬉しかったのか泣きながら俺に抱き着いてきて……もうね、死にかけたよね。可愛すぎて」

「あっそ」

「そーなんだー。良かったねー」


 全く興味が無いのか、二人は注文したポテトをパクパクと食べ進める。体どころか顔すらこちらに向いていないのは流石に悲しい。

 

「ねぇ雑過ぎない?もうちょっと反応してくれても良いと思うんだけど?」

「お前の惚気は聞き飽きたんだよ。何回似たような話されたと思ってんだ」

「これで付き合ってないんだからホント信じらんないよね」

「そう!まさにそれなんだよ春樹!」

 

 ダンッと机を叩き、俺は腰を浮かせて前のめりになる。


「俺は……俺には野望があるんだ!」

「……次の曲入れていいか?」

「まぁまぁ、こうなった優多を放置すると面倒だから一旦話聞いとこ?」

「俺は希咲良のことを甘やかしてきた。それはもう他の人が見たらドン引きするレベルで」

「知ってる」

「知ってるよ?」

「だが俺の野望を達成するためにはここまで大切に見守って来た希咲良のことを捨てなければいけないんだ!」


 ぐっと拳を握り締め、俺は漫画の主人公の様に高らかと宣言する。が、そんな熱い宣言とは裏腹に、冷たい視線が返ってくる。


「あっそ、んじゃ次俺の番な」

「まぁ剛史落ち着け。話はまだ終わっていないぞ」

「……はぁ。他に好きな奴でも出来たのか?」

「俺が希咲良以外を好きになるとでも?」

「何なんだよお前は……」


 希咲良より可愛い女の子なんてこの世に存在するのか?


 もし仮に存在したとして俺が希咲良以外の子を好きになるとでも思っているのか?2回の人生で2回好きになってるんだぞ?あり得ないだろ。


「じゃあどうして希咲良さんのことを捨てる必要があるの?告白したら即OKを貰えそうな……というか入籍までしそうな雰囲気なのに」

「良い質問だ春樹君。俺はな……希咲良を振って、あの子に最大級の絶望を味合わせたいんだ!」

「うわこいつまじかよ」

「ねぇ……友達として言うけどそういう癖は今のうちに矯正した方が良いと思うよ?」

「違う!俺は純愛が大好物だ!そんな特殊性癖は持ち合わせていない!」 

「ばんばんテーブル叩くな。お店に迷惑だぞ」


 俺はひりひりと痛みを発し始めた手を膝の上に乗せ、落ち着くために一度深呼吸をする。手痛ぁ……。


「それで?どうして優多は希咲良さんをいじめたいの?」

「俺はな、希咲良に復讐したいんだ。拒絶されるあの苦しみを希咲良にも味わわせたい」

「え、優多って希咲良さんに拒絶されたことあるの?」

「遥か昔にな」 

「えぇ……そんな昔の事引きずってるの?僕ドン引きなんだけど……」

「貴様には分かるまい!この身体を通して出る苦しみが!」

「いきなり◯ュータイプみたいなこと言うな。普通にアウトだぞ」

 

 大袈裟かもしれないが俺はその昔のことで一度人生終了してますからね!そりゃニュー◯イプにもなりますよ。


 まぁ?希咲良が悪かったかと言われるとそんなことはなく8割9割は俺が悪いんですけどね?

 

 ……そうだよ逆恨みだよ!何か文句ある!?


「でもさぁ、優多って希咲良さんのこと好きなんでしょ?」

「……否定はしない」

「じゃあそんな昔のことなんて忘れて告白すれば?絶対OK出るよ?」

「世の中に絶対なんてことは存在しない。もし告白して拒絶されたらどうする?俺は死ぬぞ?絶対に生きていけないぞ?春樹は俺の命に責任取れんのか!?あぁ!?」

「今日の優多こわ……。剛史なんとかして~」

「春樹がおかしくしたんだからお前が責任取れ。俺だって怖い」

「とにかく!俺は希咲良にやり返したいんだ!お前らにも協力してもらうからな!」

「だって春樹」

「だってさ剛史」


 ……こいつら本当に俺の友達か?友達なら協力する素振りくらい見せても良いと思うんだけど?

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