第二話
ネールが生まれ育ったのは、山奥の村だった。
このオルトリスという国の都心部に訪れたこともなく、自身の生まれ育った村以外を知らない。
典型的な田舎村で、少し奔放すぎるところがあり、ネールは人の話をよく聞く少女だった。
村にはそこそこ腕の利く、剣を教えている老齢の男がいた。
剣を習っていたネールは筋がよく、やがて村では、なるほど敵うものもいない、素晴らしい実力を身に着けるようになった。
よく村の手伝いもする器量の良い子で、健康体で運動神経が抜群な彼女は、村から距離もあり、危険な崖を超えた先で採れる薬草を村の人たちのために採ってくると数日間に渡って村を離れることにした。
見晴らしの良い崖の山頂にたどり着く頃、大きな音と地震を感じた。
それは定期的にやってくる。なんだかとてつもなく不吉な予感がした。
やがて話に聞く薬草を見つけた時は嬉しかった。早く、この薬草を摘んだら、早く村に帰りたい。
村へと帰る途中、肌ですぐにわかった。これはただ事ではないことが起こっている。
思わず、恐怖心を感じたが、それよりも村の皆の無事が気になった。
急いで帰ると、遠目に黒い巨大な何かが村の方からどこかへと去って行くのが見えた。
嫌な予感しかしない。
そしてその予感は的中した。
ネールの視界に残っていたのは、見るも無残な、村の残骸だった。
閉鎖的な村での暮らしでは外の世界の知識はあまり詳しくなかったがそれでも五年前、魔神と戦い、この世界を守り抜いた英雄の逸話についてはよく聞いていた話だった。
なんでも、魔神はその戦いに打ち勝った英雄、白狼によって封印されることになったが魔神に従っていた数体の魔獣達は封印されず、この世界と魔亜界の間を未だ彷徨っているため危険視されているという話しであった。
魔獣――
嫌な気配から、すぐにその言葉が浮かんだ。
あれから5年、主人が封印された怨みを伴って、ついにこの世に現われてしまったのだ。
それも、なんでよりによって、私の村が最初に犠牲にならなければなかったのだろう。
村で剣を教えていた男から、白狼の知り合いが隣村にいるという話しを聞いていたので、身の当てもなく、隣村に訪れた時にはすぐにその人物を訪ねた。
このままこの村の世話になるという気持ちはまったくなかった。次に襲われるのはここかもしれない。
そして魔神に比べれば魔獣は遥かに劣るという話しではあるが、それでもその魔獣を倒せる実力者が今の世の中にどれだけいるだろうか?
英雄白狼は、魔神を倒し、英雄となった後、どういう訳か王都で崇められて暮らすわけでもなく人里から離れた山奥に住んでいるという。
しかし偶然にもそれはこの村から近い方で、七日も山道を越えれば辿りつける所であるらしい。
そういう訳で、ネールは、白狼と呼ばれる、隠居暮らしをしている英雄の元へと訪れた――
「――なるほど、確かに、そこそこの筋はあるってところか。」
「よ、よかったですか??ありがとうございます!!」
鬱蒼とした草木の生い茂る山の中、たった一軒だけ建つ小屋の前で、ネールは白狼という男と向き合っていた。
懇願の末に弟子入りし、彼はネールの師匠となった。
師匠はネールに、まず、剣を自分に打ってくる様に指示した。
師匠の方からは攻撃をせず、ただ受け流す。
なるほどこれは納得。未だ十四にして、国の下っ端の兵士よりは大分良い。
「軌道範囲が良いな。魔獣はとにかくでかい。その動きの俊敏さは大切だ。」
「はい!!」
「今度は俺から打つ。追って見ろ」
「!!」
だが、実戦経験があからさまにないことはよくわかる。
師匠は、気が付けばネールの後ろにいた。ネールは動きがまったく読めなかった。
「右だ。」
「……ハイ!!」
「左。」
「ハイ!!」
攻撃がどちらからくるのかを敢えて知らせて、受け止めさせる。
人知を超える怪力を持つ魔獣を倒すには、この細腕の力では厳しそうに思えるだろう。
――だが、不可能ではないという所だろうか。
本気ではないが、素人相手にしてはまあまあな追撃を入れてみたが、しっかりと受け流しができている。
「よし。とりあえず今日はこんなところにしておくか。……悪くはない。」
「ハイ!……師匠、ありがとうございました!!」
ネールは汗だくになりながら、師匠に一礼した。
師匠はすべてに的確で無駄がなく、真剣にネールの想いに応えてくれる誠実な人だった。
それは稽古以外の普段の暮らしぶりでも伝わってきた。なのでネールは誠心誠意を込めて家事仕事の手伝いも快く丁寧に行った。
師匠は、小屋のすぐ近くに湧き出る温泉の湯へといつもより早く入った。
この場所に小屋を建てたのは、この温泉が理由だ。師匠は毎日湯に入る。綺麗好きである。
山奥小屋での食事の準備は手間がかかるが、ネールが手伝ってくれることもあって、随分と早く済んだ。
もともと村でもよく手伝いをしていたのだろう。器量が良いし、知恵と教養がちゃんとある。
そんな村がたった一日にしてすべて無くなってしまったのだ。ひどい話だ。
どうやら俺のところには辿り着く位の知識があったようだが、自分の村での生活以外のことをどれだけ知っているのだろうか?
なんせまだ十四だ。十四か。
俺も十四の頃と言えば、酒場の下働きでの小遣いも貯まり、冒険者になろうと計画を練っていた時だった。
湯に浸かりながら、想い出に耽っていると。
水面の向こう側から、ネールがこちらにやってくるのが見えた。
一糸何もまとってない。使用しても良い布は与えたはずだが。
思わず思考停止しながら、じっくりと見つめてしまった。
「師匠……あの……お身体洗わせてください。」
ネールがすぐ目の前までやってきて、そう言葉を発した。
やっぱり良い身体している。抗えずしっかりと見てしまったことを自分で認識すると、今度は息も堪えきれず激しく喘いでしまった。
「ネール……ちょっとまて。」
もう笑いたい。実際自然と口の端が吊り上がって笑ってしまっている。
鼓動は早くなっているし、下の方もしっかり完全に硬くなり腹に張り付いてきた。
「だから……、子供ができたら困るだろう!そういうの、やめろ。」
耐えられない息を思いっきり喘ぎながら、なんとか拒んだ。
「はい……ッ。」
ネールはシュンッと少し反省しながら踵を返して丁度岩場のある向こうへと離れて行った。
だめだ。頭が白ばんでる。足の間のモノがズキズキ脈を打ってる。
去って行くネールの腰のくびれから尻まで良い形をしているのももうしっかり目で追って見てしまっている。
なんていい身体してやがる。
湯から上がり服を着ても勃起が治まらないので、すっかり暗い山道に足を運び、木蔭に手をついて、涼しいそよ風を肌に受けながら、なんとか落ち着かせた。
あれは、十四年前か……。
性行為なんか、十三歳のあの時だ。酒場で大掛かりな宴会があった日、閉店後の片づけの作業を給料をはずむからという理由でひとりで深夜遅くまで引き受けていた時。
『ボク、格好良いね。』
辺りが静まり誰も居ない中、町の女性が仕事中の俺に近寄ってきて、声をかけてきた。あの時だ。あの時以来していない。
おまけにもう何年もほとんど人と接触を持たない生活をこの山小屋で続けていたので目が覚める気持ちがしてきた。
山小屋は、まったく防犯を考えて作っておらず、正面の入り口の玄関はあるが三方に縁側があり、どこからも入れるようになっている。
師匠の寝床は玄関から右手手前側にあり、ネールには反対側の左手奥の物置の手前で寝てもらっている。
戻ると、ネールは訓練で疲れたのか、すでに自分の寝床で熟睡していた。それを一瞥してほっと安息し、自分も寝にはいった。
※ ※ ※
あとがき & イラスト & キャラ設定は以下です。よろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/users/Yellow32/news/16818792438759239722
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