第14話 嵐の予兆


ユウキの決断は、エリザベス王女を激怒させた。彼女は、これまでの人生で「ノー」と言われたことがほとんどなかった。王室の権威と莫大な財力を前に、日本の芸能事務所の社長は言葉を失っていたが、ユウキだけは、レオンの夢を守るために毅然としていた。


「この件は、父上にご報告させていただきます。王室への反逆とみなされるでしょう」

エリザベスの冷たい言葉に、ユウキは一瞬ひるんだが、すぐに顔を上げた。その瞳には、レオンの夢を守るという、揺るぎない決意が宿っていた。


「レオンさんの夢を、私が守ります」


その言葉を最後に、エリザベスは側近とともに部屋を後にした。ホテルのスイートルームには、ユウキと日本の芸能事務所の社長だけが残された。社長は、ユウキの無謀な行動に呆れた表情を浮かべた。

「佐々木くん…君は、とんでもない相手を敵に回したんだぞ。この業界、王室に逆らって生き残れると思っているのか?」

「それでも、僕はレオンさんの味方です。彼は、自分の力で、自分の才能を証明したいんです」


ユウキは、レオンの秘密を知っている。だからこそ、レオンがどれほどの苦悩を抱えているか、そしてどれほどの覚悟でこの道を歩んでいるかを知っていた。ユウキは、レオンの夢を守るためなら、自分のキャリアを犠牲にすることも厭わなかった。彼は、レオンを家族の過剰な愛情という名の「檻」から解放したいと、心から願っていた。


その頃、レオンは、ドラマ**『偽りの肖像』**の撮影を終え、アヤカと二人きりで談笑していた。レオンは、自分の知らないところで、ユウキが自分を賭けて戦っていることを知らず、穏やかな時間を過ごしていた。


「レオンさん、本当にピアノがお好きなんですね。私、レオンさんのピアノ、いつか聴いてみたいです」

アヤカは、レオンの瞳をまっすぐに見つめ、そう言った。彼女の言葉は、レオンの心を温かくした。完璧な「嘘」の鎧を脱ぎ、一人の人間としてアヤカと向き合っている瞬間だった。

「いつか…機会があったら、ぜひ」


レオンは、そう答えるのが精一杯だった。彼は、アヤカの存在が、自分の「嘘」を真実に変えてくれると信じていた。

その時、レオンのスマホが鳴った。母からの電話だった。


「レオン、大変よ!父上が、あなたの出演しているドラマ**『偽りの肖像』**の制作会社に、直々に電話をかけたわ!あなたのことを、アルカディア王室の公式アンバサダーとして、大々的にプロモーションすると…」


レオンは、母の言葉に絶句した。ユウキとエリザベスの対立が、ついに父である国王の耳にまで届いたのだ。王室の権力が、ついに彼の「嘘」の城に直接、介入してきたのだ。

レオンは、自分の知らないところで、嵐が近づいていることを悟った。彼は、この絶体絶命の危機をどう乗り越えるのだろうか?

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