絶対に死ぬ悪役貴族に転生した俺は、家族を守るために統治と子育てをやり直す

リズ

第1話 寝落ちしたら転生したんだが?

『レイフォードが生きておればな。残念だ』


「ここほんと息子可哀想よなあ。父ちゃんが病死しなけりゃ、いや、あの冷徹悪鬼のレイフォードが生きててもまともな親父はやってねえか」


 ゲームのムービーが映し出されたディスプレイを眺めながら、男が呟いた。

 仕事に追われる日々の、休日における憩いのひと時。


 そんな休日に、ゲーム内の断罪シーンを見つめ、ムービー終了と同時に始まった、ほんの数瞬のオートセーブが終わるのを待つ。


 それが終わった男はゲームの電源を切ると、座椅子から立ち上がり、本棚から漫画を手に取り、ソファに寝そべった。


「結局徹夜でゲームしてたな。寝みぃ」


 などと言いながら、男は先程までプレイしていたゲーム『アナザー・クロニクル』のコミカライズ版を開く。


(結局レイフォードが家族に冷たかったのも、両親が子供の頃に死んだからなんだよなあ。そのあたりがコミカライズでしか掘り下げられてないから、ゲームだけやってる奴には序盤では絶対勝てないクソキャラとしか映らない。カッコいいキャラなのになあ)


 男はページをめくり、何度目になるのか、悪役の中ではお気に入りのキャラであるレイフォードの過去編を流し読みしていた。


(病死しなかったら、綺麗な嫁さんも死ななかったんだろうなあ。俺がレイフォードなら、もっと、嫁さんのイリステラや、息子のセリオン、娘のエレーナを大事にして……いや、その前にレイフォード自身の病が問題か……確かトラウマで、魔力……が)


 漫画を読みながら妄想に浸っていた男は、不意の眠気に逆らうことなく目を閉じた。

 この眠気のままに目を閉じる瞬間の、ソファに沈む。

 その瞬間が、男は好きだった。


 しかし。


「ゲッホゲホ! グ、ウウ!」

(咽せた! いや違う、苦しい⁉︎ なんだ、心臓が握りしめられてるみたいな)


「レイフォード様⁉︎ いけない、主治医を! 早く! レイフォード様、お水でございます。こちらを」


(誰がレイフォードだ⁉︎ ここは俺んちだぞ⁉︎ 鍵掛けてたよな⁉︎ いや、それよりも、主治医? なにが、起こってる⁉︎)


 混乱する男の思考をよそに、聞こえてきた声の持ち主である老人が寝ている男の体を起こした。


 目を開き、男は周囲の状況を確認しようとするが、どうにも様子がおかしい。


 先程まで間違いなく自宅の一軒家にいたはずだった。

 しかし、何故か今は見覚えがある作りではあるが、知らないはずの一室の様子が目に入ってきた。


「レイフォードさま、水をお持ちしました。まずはこちらを」


「あ、ありがとう、ございます」

(ん? なんだ? 声が違うような? いや、この爺さん今俺のことなんて呼んだ? いや、今は水だ! 水が欲しい! 喉が焼けてるみたいだ!)

 

 喉と胸の痛みを我慢して、差し出されたガラスのコップに手を伸ばす。

 その際に、男はなんとも言えない素っ頓狂な顔でこちらを見ている執事のような格好をしている老人の顔が目に入った。


「レイフォード様。一介の執事にそのような丁寧な言葉使いは不用です」


「レイフォード? あれ、アンタその顔」


 レイフォードと呼ばれた男は、老人の顔を見て、似た人物を思い返していた。


 先程までプレイしていたゲームで、読んでいた漫画作品『アナザー・クロニクル』のレイフォードの過去編に出てきた執事の顔にそっくりだったのだ。


「スゲェ、オズワルドだ」


 その名を口にした瞬間。

 レイフォードの頭を割れんばかりの激痛が襲う。


「い、グオォ」


 痛いとすら言えない激痛に襲われて、レイフォードは気を失う。

 その間に、男は夢を見た。

 ゲームのムービーや、漫画の一ページで見たことがあるレイフォードの過去。

 目の前で、両親が魔法による爆発に巻き込まれて消え去る瞬間。


 そして、遠くからそれを眺めてニヤニヤと笑い、歯だけが見えている影の姿。


「夢……じゃない。今のは、俺の、レイフォードの記憶」


 レイフォードは目を覚まし、多少マシになった胸の痛みを堪えて体を起こし、痩せ細った自分の手を見下ろした。

 続けて、その手から目を背けるように辺りを見渡す。


(なんで俺、レイフォードの格好を? いや格好じゃない。レイフォードになってる。意味が分からない。転生した? 死んだのか? いや、確かに最近忙しかったし、昨日は久しぶりに徹夜でゲームしちまったけど。そんな死ぬほど忙しかったわけじゃねえぞ)


 顔を横に向ければわずかに開いたカーテンの隙間に今の自分の顔が反射している。

 その顔立ちはまさしくゲームの中盤で、レイフォードが病死する直前の顔だった。


(敵国が「倒せないから病死するのを待つしかない」とまで言わしめた最強の剣士、辺境伯レイフォード・ヴァルメリア。本来なら赤い目で、黒い艶やかな髪なのに、見る影もねえ)


 もう少し近くで顔を見てみたい。

 そう思ってレイフォードは起こした体をずらしてベッドから降りようと、立ち上がった。はずだった。


 レイフォードの足には力が入らず、膝を床に付き、転倒してしまいそうになるのを間一髪、手をついて止める。


 その際の音を聞き、部屋の外で待機していた警護役の衛兵が室内に突入「レイフォード様⁉︎ ご無事ですか!」と、レイフォードを支えて立ち上がらせた。


「お前は先生を呼んできてくれ」


「分かった」


「すまない。迷惑を掛ける」

(マジかよレイフォード。お前、作中でこうなる直前まで戦ってたのかよ。無理だろ、死ぬぞ。あ、死んだんだったか)


 そんなことを考えていると、衛兵二人が、気絶する前に見た執事のオズワルドと同じように、素っ頓狂な顔でこちらを見ていることに気がつく。


「どうした?」


「あ、ああいえ。レイフォード様から、初めて感謝の言葉を頂いたので」


「……そうか」

(マ? やばあコイツ。マジかよレイフォード。お前それはダメだろ。でも確かに、作中でレイフォードが誰かにありがとうって台詞言ってるの見たことねえな)


 カーテンの隙間から見える、窓ガラスに反射する自分を見ながら眉をしかめるレイフォード。

 そんな彼をベッドに戻すと、衛兵は部屋を後にしたのだった。




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