MMB《エムエムビー》――魔法と音楽?そんな競技あるの?

大和由愛

プロローグ

『さあ、始まりました!第38回MMB《エムエムビー》U18世界大会、決勝戦!』


『勝負は依然として拮抗状態。両者、戦いの手をゆるめません!』


『そんな中、日本代表の美しい五重奏が響き渡っています!音の層が重なるたび、日本代表の能力値が上昇する!』


『おっと、ここでチャンスがやってきたーーー!仕掛けたのは……日本代表・天王てんのう学園の神白勝華かみしろしょうか選手!一人、敵陣へ突っ込んでいく!』


 奏者の紡いだ旋律が一斉に、彼女へと収束されていく。

  

 視界が歪むほどの加速。

 次の瞬間、神白の姿は観客の目から消えた。


 遅れて響いたのは、金属が叩きつけられるような鋭い音。


 敵陣の中央で、五つの影が同時に吹き飛ぶ。


 相手が反応できなかったのは、技そのものではない。

 

 音だ――


 奏者の演奏によって強化された神白の動きは、常人の目では見ることのできない速さだった。


 敵が異常に気づいた時には、すでに刃は届いていた。


 実況の声が、さらにその熱を煽る。


『なんということだ!神白選手、敵を五人まとめて瞬殺!今のは誰にも反応できない――完璧な一撃です!!』

 

 夏の強い日差しが降り注ぐ会場。しかし、観客席から立ち上がる熱気は、そんな暑さすらかき消す勢いだった。


 薄暗い部屋、カーテンの隙間から漏れる微かな光、頭まで被った布団、テレビからはMMB、U18世界大会決勝戦の映像が流れている。


 ゆっくりとテレビに向かって手を伸ばし、呟く。


「いいな……」


 その言葉は、夢への問いではなかった。

 ――ここにいても、いいのか。


 頬に、涙が伝う。

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