トラック3:綿棒で右の耳かきしながら伝えたいこと。 【ひざまくら、綿棒で耳かき(左、中)、耳ふ~】

(SE:髪、布がこすれる音。『あなた』が動く音)

(位置:右、近い)


(やさしい声で)

ちゃんと私の言うこと聞けたわね。

えらいえらい。

もちろん、いいことできたら褒めてあげる。

もし褒めてほしかったら、


(位置:右、至近)

(声:ささやき、無声、ここのみ)

(甘やかす声で)

私の期待に応えてね。


(声:ささやき、有声、続ける)


(まじめな声で)

どうしたら応えられるか……、

もちろんそのお話もするわ。


(やさしい声で)

大丈夫。耳を痛くしないように、

言葉を選ぶから、

安心して聞いてほしいわ。


(SE:右耳中、綿棒で耳かきする音、続ける)


こりこり……こりこり……。


(声:ささやき、ここまで)

(位置:右、近い)


(まじめな声で、続ける)

あれだけ言っておいてなんだけど、

あなたは私の言うことをすなおに聞きすぎよ。


それだけじゃなくて、

他の作家さんの言うことや、

ネットの感想や風潮なんかも気にしすぎ。


もちろん良い感想やためになる話題を読むのは、

心の栄養や新しいネタになると思うの。

それも食べ過ぎはよくないわよ。


(位置:右、至近)

(声:ささやき、有声、続ける)


くる……くる……くる……。


(やさしい声で)

だってあなたは、

ひとの期待に応えようとがんばりすぎるから……。

今だってそうでしょ?

私の期待に応えるために、

真剣に耳を向けてくれる。


(やさしい声で、照れあり)

私の声を聞いてくれるのは……、

うれしい、けど、それはそれ。


くりくりくり……くりくりくり……。


(やさしい声で)

あなたのステキな物語は、

あなたから生まれます。

どんなにステキな感想があっても、

その感想はあなたの書いた物語がなければ生まれない。


かりかりかり……かりかりかり……。


(SE止め:耳かき一旦止め)


(声:ささやき、無声、ここのみ)

(とてもやさしい声で)

あなたの書きたいものにすなおになって……。


(耳ふ~、やさしく)

ふ~~~。


(5秒ほど息づかい。『あなた』の様子を見る)


(声:ささやき、ここまで)

(位置:右、近い)


(SE:右耳中、綿棒で耳かきする音、続ける)


(まじめな声で)

それだと売れないのでは……と思ったでしょ?

あなたの考えてることはお見通し……、

と言いたいけど、

これはどんな作家さんも気にすることよね。


かきかき……かきかき……。

かきかき……かきかき……。


(困った声で)

どんなに良い物語も売上がなければ続かない。

売れるものを取るか、書きたいものを取るか、

作家さんの葛藤よね……。


(自慢げな声で)

そのために私たち編集部がいるの。

作家さんの書いたすばらしい物語を

売れるようにすることが私たちの仕事よ。


そもそも、編集会議を通しているということは、

編集部が「出す」と判断したことよ。

その判断の責任を

作家さんが必要以上に持つことはないの。


かくかく……かくかく……。


(とぼけた声で)

もし責任を全部押し付けて

手を抜く作家さんがいたら……。

そんなときはどう考えるのか気になる?

そうねぇ……、


(凛とした声で、続ける)

作家さんの良し悪しを見抜けなかった編集部の責任ね。


かし……かし……かし……。


(SE止め:耳かき一旦止め)


(位置:右、至近)

(声:ささやき、無声、続ける)


でもあなたは、そんなことしないでしょ?


(耳ふ~、やさしく)

ふ~~~。


そういう意味でも、私はあなたを信じてるの。


(SE:右耳中、綿棒で耳かきする音、続ける)


(やさしい声で)

そんな存在は貴重よ?


くりくりくり……くりくりくり……。


(声:ささやき、ここまで)

(位置:右、近い)


(自信のない声で)

謙遜しちゃって……。

そうやって作家さんは、

自分のことを「後ろめたい存在」だと言うわね。


(困った声で)

まあ世間の中には、

本当にそう思っている色眼鏡もあるわ。

あなたのように家に籠もっていると、

仕事をしているように見えないのかもしれない……。


(とぼけた声で)

ま、そんな目であなたを見ることは、

私が許しませんけどね。

先日もあなたのウワサ話をするおばさまへ

菓子折りをお渡しつつお話をして

「平和的にご理解を求めました」。


けし……けし……けし……。


(SE止め:耳かき一旦止め)


(まじめな声で)

あなたは作家の活動に集中して。


(位置:右、至近)

(声:ささやき、無声、続ける)


(耳ふ~、いたずらに)

ふ~~~っ。


(とても甘やかす声で)

ぷるぷる震えてる……♡

かわいい♡

守ってあげてよかった♡


(SE:右耳中、綿棒で耳かきする音、続ける)


すこすこ……すこすこ……♡


(声:ささやき、ここまで)

(位置:右、近い)


(まじめな声で、照れ隠し)

いえ、なんでも……。


(自慢げな声で)

そもそも、コンテンツ業界が――

物語が救っているこころの数を考えれば、

作家が後ろめたい存在だと言える?


すこすこすこ……すこすこすこ……♡


「あなたの書いた物語に救われた」

という感想は目に見えないもの含め

たくさんあるはずです。


(SE止め:耳かき一旦止め)


(位置:右、至近)

(声:ささやき、無声、ここのみ)

(凛とした声で)

あなたは、立派なことをしているわ。


(耳ふ~、やさしく)

ふ~~~♡


(SE:右耳中、綿棒で耳かきする音、続ける)


(声:ささやき、有声、続ける)


(うっとりした声で)

それになんと言われようと、

何度ボツをもらおうと、

あなたは書き続けている。


この後も、私の言葉を思い出しながら、

新しい物語に向き合うのでしょう?


かきかきかき……かきかきかき……。

かきかき……かきかき……。


(やさしい声で、続ける)

そんなふうに続けられるひとは貴重よ。

作家というのはかんたんになれて、

かんたんにやめられてしまう。

多くのひとが思っているた以上に、

ご本人たちの認識以上に、

とても儚くて繊細な存在なの。


かきかき……かきかき……。

かき……かき……。


(凛とした声で、続ける)

あなたもそう。

儚くて、繊細で、

私のダメ出しで壊れてしまう気がして、

そう思うと耳かきする手も止まるわ。


(SE止め:耳かきここまで)


けど、あなたは強さも持ってる。

続けられる強さ、止まっても諦めない強さ、

折れない筆を持っているでしょ?


私は自分が担当する作家さんを信じてるの。


(愛情のこもった声で)

そして私は、あなたを個人的にも、信じてるの。


(耳ふ~、やさしく)

ふ~~~~~~♡



(声:ささやき、ここまで)

(位置:右、近い)


(恐る恐るな声で)

さ、ダメ出しも耳かきもおしまいだけど、

どう……かしら?

もしダメ出しを受けて疲れたら、

今日は休んでもいいの。

私が帰ったあとは、

焼き肉を食べるなり、寝るなり、

ゲームに没頭するなりしてもいいけど……。


(SE:髪、布がこすれる音。『あなた』が動く音)


(位置:正面、至近)


(きょとんとした声で)

あなたはまっすぐこっちを向いてる……。


(凛とした声で)

やろうと思ったのね。


(うっとりした声で)

向き合う姿勢を見せてくるなんてすごいわ。

さすが、私が担当する作家先生♡

ステキ♡


(まじめな声で)

なら私は帰るわ。

ここからはあなたひとりですること、

私がいたらおじゃまになるでしょ?

本当に信じてるから、お任せします。

できたら連絡ちょうだい。


(甘える声で)

なるはやで駆けつけるから。


(やさしい声で)

お疲れ様。

次の打ち合わせも楽しみにしているわ。

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