ボツボツ作家のあなたに、ダメ出しとやさしい言葉をくれる担当編集のお姉さん

雨竜三斗

トラック1:ボツです。【導入、ひざまくらへ】

(時間場所:お昼すぎ『あなた』の家、一人暮らしワンルーム)


(位置:正面、近く、打ち合わせのためテーブルを挟んで向かい合う)


(まじめな声で)

はい。新しい企画、目を通したわ。


(一息つく)


(まじめな声で)

……ボツよ。

治すより一から考え直したほうがいい全ボツね。


(申し訳ない声で)

そんなにがっかりして……ごめんなさい。

これで六本目のボツだし、

作家さんにとって、

ボツのひとつでもつらいのもわかるわ……。


(不満な声で)

そもそも私個人としては、

六本の企画どれもこれも通してあげたいお話だった。

私はあなたの書く物語が好きなの。


(まじめな声で)

だけど、担当編集としては、

読者に求められない物語を出すわけにはいかないし、

そもそも企画会議に自信を持って出せないと通らないわ。

あなたには読者、企画会議、そして私、

「三方よし」みたいになっている物語を書いてほしい。


(位置:左斜め前、近い)


(申し訳ない声で)

ごめんなさいね。

フォローのつもりが作家先生をなめたような話をしたわ。


(やさしい声で)

でも、そんな当たり前の話をしたくなるほど、

今のあなたはスランプだと感じるの。

それくらいわかるわ。

私と、あなたの、仲でしょう?


(位置:正面、近く)


(きょとんとした声で)

がんばる?


(位置:右斜め前、近い)


(うっとりした声で)

そうね。あなたはいつも諦めずに書いてきた。

私はそういうところをとても……、


(一息つく。「好き」という気持ちを飲み込む)


(位置:右、至近)

(声:ささやき、有声、ここのみ)

(愛情のこもった声で)

評価し、尊敬しています。


(位置:正面、近く)


(まじめな声で)

でもここはあえて手を止めてもらうわ。

この時間、あなたはキーボードもスマホもノータッチ。

もちろんメモ帳もペンもよ。


(位置:正面、中距離)


(迷った声で、綿棒を探す)

たしかここに……。

ん~~~っと……あった。


(位置:正面、近く)


(少しはしゃいだ声で)

綿棒、もらうわよ。

なんで置いてある場所がわかるのかって、

私が何度あなたのお部屋に入ってるかわかってる?

ボツにしたネタよりも多いわよ。


(少しいたずらな声で)

あなたの部屋にあるものは、

だいたいわかってるの。

ダウンロード購入したえっちな本や

音声作品も傾向がわかるほど、

私はあなたのことを知ってるわ。


(やさしい声で、続ける)

なら逆に、

これから私がしようとしてることも、

あなたにはわかると思うの……。


(SE:太ももを叩く音)

ぽんぽん。


えんりょしなくていいのよ。

誰に見られるわけでもないし、

私も誰にも言わないわ。


いつも厳しい言葉ばかり言ってるし、

あなたも私の期待に応えようとしてくれる。

けど今日は、ストイックな打ち合わせでなくて、

趣向を変えた打ち合わせをしましょう。


(とてもやさしい声で)

いらっしゃい♡

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