第32話 ベリル・リリスの憂鬱
「はあー……」
私――ベリル・リリスは深い溜息をつく。
「唐突になんですか?」
私の溜息に反応して、部下のジキル・レオンが声をかけてくる。
「いやー……書類仕事が中々、終わらなくてな」
そう。私は今、山の様に積まれた書類に目を通している。組織の上に立ってからと言うもの、何回も書類仕事をこなしてきたのだが……やはり、こういうのは慣れない。
「それはリリス様が普段から、サボって仕事を溜めているからですよ」
「うぐっ……」
部下に正論を言われ、何も言い返せない……。
べ、別にやる気が無い訳じゃないんだ。椅子に座って書類を見ると、途端にやる気が出なくなる訳で……。
私が頭の中で、それらしい理由を考えていると、急にジキルがジト目になって私の事を見つめてくる。
「リリス様……今、頭の中で言い訳を考えていましたね?」
「そ、そんな事ないぞ」
こ、コイツ……なんで私の考えている事がわかったんだ?
もしかして、相手の心を読む能力に目覚めたんじゃ……。
「ほら、リリス様。しょうもない事、考えてないで、仕事しますよ」
「はーい……」
私は面倒くさいと思いつつも渋々、仕事を再開した。
「そういえば……例の件は、どうなっている?」
「例の件?……ああ、魔法少女の姉の件ですか」
仕事を処理しながら、私は気になっている事をジキルに聞く。
「それがですね……あまり進展は無いんですよ」
「ったく、あいつら……どれだけ手際が良いんだ」
そう。数週間前に私の義理の息子でもあるアレスに頼まれている件だ。アレスの話によると、綾部楓と言う魔法少女の姉が一年程前に失踪したらしい。しかも、綾部楓の中から、姉の記憶が無くなっているときた。明らかに人為的な何かが起こっていると私は考えている。そして、この前ジキルが報告してくれた情報により、犯人の目星は、ついている。
【ダストメモリー】……と呼ばれている組織だ。我々と同じように各惑星でエナジーを回収している組織なんだが……このダストメモリーが一年程前、地球に立ち寄っていた情報があった。そう……綾部の姉の失踪したのと、同じ時期である。
まあ、これだけでダストメモリーが犯人だ!……と決めつけるのは証拠が足りなすぎる……と思っていたが、半年程前のある情報によって、ダストメモリーが黒く見えてきた。
その情報は――
「た、大変ですよー!」
突如、扉の外から大声が聞こえ、私は思考を中断させる。バタバタと足音が聞こえ、相当急いでいるのがわかる。扉が勢いよく開くと、ツインテールの茶髪の可愛らしい少女が部屋の中に入ってくる。
「大変……はあ……です……はあ……よお」
茶髪の少女は疲れているのか、息が途切れており、呼吸がままならない。
「どうしたんだ?【レイナ・アシュリー】」
ジキルが心配して、茶髪の少女の名前を呼ぶ。このレイナ・アシュリーもジキルと同じく私の部下である。
「そ、それが……はあ……はあ……」
「大変なのは、わかったから……とりあえず落ち着け」
私の一言で、レイナが深呼吸をし、息を整える。ポケットから出したハンカチで汗を拭きとり、レイナがシャキッと敬礼をする。
「ご、ご報告します!先程、別の組織から、このようなメッセージが送られてきたのですが……」
レイナが先程の焦った様子では無くなり、落ち着いた様子を見せる。
レイナは、やればできる子なんだ!
心の中で私なりの評価をする。
「わかった。見せてみろ」
「了解です!」
レイナが一緒に持ってきていた組織共有のタブレットを私に渡してくる。
ふっ……
「……」
不味い。ジキルが冷たい視線で私を見ている。
「おっほん……えーなになに……」
私は、わざとらしく咳ばらいをすると、レイナが持ってきてくれたタブレットを見る。この組織共有タブレットには、レイヴンズの人員情報を確認できたり、他の組織との連絡のやり取りができるようになっている。非常に便利なタブレットである。もちろん、重要な事なので、何重にもパスワードをかけてある。
先程、レイナが言っていた、別の組織からのメッセージを私は確認する。
「……ちっ」
思わず舌打ちが出てしまった。
今更、何をしたいんだ?……この組織は……。
まあ良い……アレスにも連絡をしなければいけないな。
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