魔法少女を堕としたい

ごま茶

第1話 次の仕事内容

 「喰らいなさい!はあっ!」

 

 一人の少女が男に向かって、光っている球体を幾つも飛ばす。光っている球体が男に当たると、凄まじい爆発が起きる。


 「ふう……これなら流石に倒せたでしょ」


 少女は煩わしそうに汗を拭う。

 時間と共に爆発で起きた土煙が無くなっていく。だが、目の前の光景に少女は唖然とする。


 「なっ!?なんで倒れてないのよ!」

 

 男は何事も無かったかの様に立っていた。

 その男は黒色を基調とした軍服を着ており、黒茶髪の髪をオールバックにしている。

 土煙が全て無くなると同時に男は、一瞬で少女との距離を詰める。


 「ひっ!?」


 少女は反応できずに接近を許してしまう。男は、その隙を見逃さなかった。

 少女の首を掴むと、そのまま持ち上げる。


 「うがっ……」


 少女は苦しそうな声を出すが、男は力を緩める気配は無い。


 「ぐっ……あ、あんた……一体……何者なの?……」


 少女は最後の力を振り絞って声を出す。

 すると、男が血で染まっているかのような目をギラリと光らせ、三日月の様に口角を上げる。


 「……ただの狂犬さ」


 *


 「ふむ……アレス。今回も見事な仕事ぶりだな」

 「俺には、それしかできませんからね」


 俺は目の前の豪華な椅子に座っている女上司に敬礼をする。


 「ったく……私に敬礼は必要ないぞ」

 「じゃあ……楽にさせてもらいますね」


 俺は敬礼を止めて、少し楽な姿勢をする。


 「おいおい……そこは敬礼を続けるべきだろ」

 「じゃあ、素直にそう言ってくださいよ」

 「はあー……これだから、まだまだケツの青いガキは……」


 俺の上司【ベリル・リリス】が文句を言う。短い髪は闇の様に黒く、目は鮮やかな紫色をしている。着ている服は胸元が大胆に開いている、黒を基調としたライダースーツを着ている。胸もかなり大きく、スタイルも良いので実に男受けしそうな体をしている。


 「お?どうした?私のムチムチのバディに見とれてしまったか?」

 「……ハッ」

 「おい。今笑ったろ?お前、笑っただろ?」

 「まず、親族みたいな関係の奴に興奮しませんよ」


 俺はリリス様に向かって溜息をつく。


 「ほう。中々言うじゃないか。拾ってやった恩を忘れたのか?」

 「それについては感謝してますよ。だから、色々、面倒な事を引き受けてるじゃないですか」


 俺はリリス様が、とある惑星に立ち寄った際に拾ってもらった。所謂、捨て子だ。赤子の状態で捨てられていたので当時の記憶は、まったく覚えてない。

 当たり前のように父と母は不明で何故捨てられたのかもわからない。そんな俺をリリス様は、ここまで育ててくれたし、俺の事を【アレス】と名付けてくれた。

 血は繋がってないが、リリス様は俺の母親みたいな存在だ。


 「ったく……今年で十八かい?ガキが育つのは早いねえ」


 リリス様が豊満な胸の谷間から、煙管を取り出す。

 どこから出してんだよとツッコミを入れたくなるが、すでに見慣れた光景だ。


 「私もお前みたいに若返り――ゲホッゲホッ!」

 「……なんで吸えもしないのにそれを使うかなあ……」


 リリス様は数回咳き込むと、煙管を元あった場所に戻す。


 「だって……悪のボスっぽい感じが出るかなーって」

 「リリス様……今年で何歳でしたっけ?」

 「さて、仕事の話に戻ろうか」


 うわ。逃げやがったよコイツ。歳の話がそんなに嫌なのか。


 「ほう……かなりの量の【エナジー】が手に入ったな」


 リリス様が仕事モードに入る。いつも、この感じだったら楽なんだけどな。


 「まあ、頑張ってきましたからね」


 俺達の仕事は、それぞれの惑星にある貴重なエネルギー源、通称【エナジー】を手に入れる事だ。この宇宙には無限の惑星が存在している。もちろん、人が住んでいる惑星や廃棄された惑星もある。人が住んでいる惑星には必ずと言って良いほど、エナジーが存在する。

 エナジーの用途は様々だ。機械を動かす為のエネルギーになったり、生活面にも役立ったりする。

 そして、エナジーは力の源でもある。エナジーを持っている人間は岩を片手で割ったり、軽くジャンプするだけで家の屋根を飛び越えるなど超人的なパワーを得る事ができる。ちなみに体の中にあるエナジーの量で、強さは変わってくる。


 「で、吸収したエナジーはどうする?」

 「そうですね……三割くらい頂ければ充分だと思います」

 「まったく……これが社畜って奴かねえ……お前をこんな風に育てた覚えは無いんだけどねえ……」


 各地で吸収してきたエナジーは自分の物にするか、組織に献上するかを選べる。簡単に説明すると、エナジーを自分の物にした時は自分が強くなれる。組織に献上した場合は組織が強くなれる。俺の場合、吸収してきたエナジーの多くは組織に献上している。こっちの方が他人からの評価や組織からの評価も上がるから割と良い。逆に組織に献上しない場合は、他人からの評価は低くなっていく。その代わりに自分自身は強くなっていく。


 「まあ、感謝はしているぞ。お前が毎回、多くのエナジーを献上してくれるお陰で、こっちの組織【レイヴンズ】も大分楽になっているからな」

 「これが仕事ですので」


 エナジーを吸収している組織は俺達だけでは無く、数百を超える組織が宇宙を飛び回ってエナジーを回収している。一応、各組織にも名前があり、俺が所属しているのは【レイヴンズ】と言う組織だ。所謂、会社みたいな物だ。

 リリス様が報告書をじっくりと見る。


 「ほほう……しかも【魔法少女】を三人も倒したのか」

 「全員新人だったので、そんなに誇ることでもないですよ」

 「私は、それでも凄いと思うぞ」


 【魔法少女】とは、文字通りの意味で、魔法を使って戦う少女の事だ。時々、少女なのか怪しい年齢の奴がいるが今は置いておこう。

 俺達が何のリスクも無しにエナジーを吸収できている訳ではない。エナジーを吸収していると、必ず魔法少女は現れ、その度に戦闘をしてくる。

 面倒くさい相手ではあるが、こちらにもメリットがある。それは倒した魔法少女のエナジーを吸収できることだ。強い魔法少女であれば、多くのエナジーを持っており、惑星からエナジーを回収するよりも効率が良い。


 「私の息子は流石だな」


 報告書を読み終えたリリス様は俺の頭を撫でてくる。


 「そんな歳じゃあるまいし、やめてくださいよ」

 「お堅い事言うなよー。少しくらいは甘えてもいいんだぞ?」


 俺はリリス様の手をどける。


 「ったく……小さいときは可愛かったのにな」


 昔を思い出しているのか、リリス様は優しい顔つきになる。


 「何年前の話をしてるんですか?それより次の仕事は、なんですか?」

 「おっと……すまないね。次にお前がやってもらう仕事はこれだ」


 リリス様が指を鳴らすと、後ろの壁に立体型のホログラムが表示される。何故かリリス様はドヤ顔だ。どうせ、「こーゆーの1回やってみたかったんだ」とか思ってるんだろうな。


 「次の仕事は、【地球】に行ってもらう」

 「地球ですか」


 ホログラムに青と緑の綺麗な惑星が表示される。

 地球か……昔、何回か行った事があるから、ある程度の情報は知っている。そんなに強い魔法少女は、いなかった筈だから、今回もエナジーを吸収してすぐに帰ろう。


 「アレス……いつも通りお前にはエナジーの吸収をしてもらう」

 「了解しました」


 エナジーを吸収して、時間が余ったら地球の観光でもして帰ろう。あの惑星は良い観光場所が多いし、何より飯が美味い。ついでに皆のお土産も買ってくるか。俺もたまには、リリス様に親孝行しないとな。

 そんな事を考えていると、体が光に包まれていく。この光は目的地に転送される時の合図みたいなものだ。


 「あ、1つ言い忘れてたわ」

 「え。早く言ってくださいよ。もう時間が無いんですから」


 リリス様が、座りながら腕を組む。


 「今回の仕事はエナジーの吸収と魔法少女1人の【堕天化】を達成してもらうからな」

 「わかりまし……え?今何て言いました?」


 俺の体中から、汗が出てくるのがわかる。聞き間違いじゃないよな?

 

 「詳しい内容は現地に着いてから説明するし、ヨロシクね♪」


 リリス様は他人事の様にニヤニヤしながら言う。


 「ちょっ!リリス様、堕天化ってホントに言っているんですか!?」


 多分、俺の顔は真っ青になっているだろう。

 ってか、まずい!転送が開始される!


 「あと、お土産は、なんでも良いからな」

 「今は、そんな話をしている場合じゃっ!」

 「んじゃ。頑張って来いよー」


 リリス様は勝ち誇った顔をしながら手を振る。


 「この!ふざけんなよ!アバズレ――」


 俺は最後の言葉を言い終える前に転送された。

 お土産は買ってこないし、親孝行なんて絶対しないからなー!!

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