第3話 福とご近所さん

福が和子の家に来てからしばらく経った頃。

夕方、外の様子を見せようと福を胸に抱き、和子は玄関の戸を開けて外へ出た。


すると、ちょうど二軒隣に住んでいる

菅谷タツ子が通りがかり、和子に声をかける。


「あらまぁ、和子さん! あんた猫飼い始めたん?」


タツ子は目を丸くして福を見た。



「そうなんよ、そこの路地に捨てられてて可哀想やったから・・」


「んまぁ、ひどい事をする人がいるもんやねぇ・・名前はなんていうの?」


「福、ってつけたんですわ」


「へぇ~、福ちゃんかいな、ええ名前やねぇ」


タツ子は福にそっと手を伸ばす。

福は、一瞬警戒した表情を見せたが、すぐにタツ子の手にすり寄って喉を鳴らした。



「あらぁ~! 可愛らしいわぁ~! 人懐っこい子やねぇ」


タツ子は弾んだ声を出して、福をなで始める。


「この鼻の所の口ひげみたいな模様もチャームポイントやねぇ」


目尻に大きく皺が寄るほどの笑顔のタツ子を見て、

和子は嬉しくあたたかい気持ちになる。


「じゃ、また福ちゃん触らせてなぁ~」


そう言って歩き出すタツ子の背中に、

和子は福の前足を持ってバイバイと振った。

きょとんとした表情で自分を見る福の顔に、和子は思わず笑ってしまう。


「タツ子さん、バイバイ、やで。福」


日が暮れ始めた路地を歩いていくタツ子を見送ってから、

和子は福と家に入り、静かに玄関の戸を閉めた。

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